<第1回>ベテラン保健師が解説!健康経営度調査とフィードバックシートの構成について
こんにちは!保健師の石倉です。10月の健康経営度調査票の提出はされましたか?
健康経営度調査票を提出すると、各企業の担当者のもとにフィードバックシートが届きます。
届いたフィードバックシートをご覧になった際に、シート内に書かれた内容をどのように活かせばいいか疑問を持つこともあるのではないでしょうか。
そこで今回から3回にわたって、産業保健の現場で働く私の経験を踏まえたフィードバックシートの活用方法を解説します。
第1回の本記事は、健康経営度調査の概要やフィードバックシートの構成に焦点を当てます。実際のフィードバックシートのサンプルや図を交えながら解説するので、ぜひご一読ください。
目次[非表示]
健康経営度調査の概要
フィードバックシートを読み解くには、まずは健康経営度調査の概要を理解しておく必要があります。ここでは、健康経営度調査の概要について次の3つに分けて解説します。
- 健康経営度調査とは
- 健康経営優良法人認定基準について
- 評価傾向についての所感
特に3番目の「評価傾向についての所感」は、項目についてのみならず健康経営関連の業務に携わる私の体験もお伝えします。
健康経営度調査とは
健康経営度調査とは年1回、毎年10月ごろに実施される調査で、法人の健康経営の取り組み状況を調べるために行われる調査です。
経済産業省によって行われ、一定の条件をクリアしたうえで登録料を支払うと、『健康経営優良法人』の認定を受けられます。
『健康経営優良法人』の認定を受けると、認定を受けたことを示すロゴを使用できるようになります。それを自法人のホームページや従業員の名刺に掲載すると、健康経営に前向きに取り組む企業として、社会に向けて好印象を与える効果が期待できるのです。
昨今は働き方改革の影響もあり、求職者は就職先の福利厚生をはじめとした残業時間や健康管理支援サービスなど働きやすさを重視する傾向があります。そのため『健康経営優良法人認定』は、求職者が就職先の条件にすることも多いと聴きます。
このように企業活動にとってプラスになることから、健康経営度調査への参加は任意ながらも、多くの企業が参加するようになりました。
なお2023年現在、大規模法人と中小規模法人では調査における質問項目や質問数が異なります。具体的には大規模法人の場合は74問、中小規模法人の場合は29問の質問が設けられています。中小規模法人でブライト500の認定を希望する場合には、さらに5問多い34問の質問に回答する必要があります。
健康経営度調査のサンプルは、下記の経済産業省のホームページよりダウンロードできます。
【令和5年の健康経営度調査票サンプル|経済産業省】
健康経営優良法人認定基準について
次に健康経営優良法人の認定基準について、経済産業省の説明を確認してみましょう。経済産業省のホームページには、次のように書かれています。
各企業の健康経営の取り組みが“経営基盤から現場施策まで”のさまざまなレベルで連動・連携しているか、という視点から「法令遵守・リスクマネジメント」を前提に、「経営理念・方針」「組織体制」「制度・施策実行」「評価・改善」がフレームワークとして設定されています。調査の各設問はこのフレームワークによる分類に、各側面における得点の合計を偏差値化して、側面毎の評価値としています。その後、側面毎の評価値にウェイト(重要度に応じた重み付け)を掛け合わせたものを合算し、総合評価としています。 |
引用文に書かれている選定基準のフレームワークについて、わかりやすく図式化されたものは次のとおりです。
認定基準を満たすためには、まずは法令を遵守してリスクマネジメントをしっかりと行うことが前提であり、誓約事項となっています。
そのうえで、①~④に関連する評価項目が設けられています。
健康経営優良法人2024(大規模法人部門)の認定を取得するためには、当調査の回答必須設問(設問文の左に◎が付記されているもの)に全て回答した上で、下表の「必須」を全て実施し、また「評価項目①~⑯のうち13項目以上」を実施する必要があります。
なお、 上図のウエイトは認定基準とは直接関係はありませんが、フィードバックシートに示される偏差値や順位に関係しています。
各評価項目には重要度に応じてウェイト2やウェイト3などの重み付けがなされており、それぞれの値にウェイトを掛け合わせて成績が計算されます。掛け合わせて導き出された評価値の合算をもとに偏差値が導き出されて、順位が決められます。
ところで、私は2014年の本調査の開始当初から数年間にわたり、当時の勤務先で健康経営度調査票をとりまとめていました。
その際の経験を踏まえて考えてみると、評価の重み付けの傾向は変化していると感じています。次項では評価傾向に関する私の所感をお伝えします。
評価傾向についての所感
健康経営度調査が始まったときは、施策を実施したのかどうかが重視される傾向にあったと感じます。
その後、各法人が健康経営への取り組みに本腰を入れるようになったためか、2019年以降は施策実施の有無よりも結果に対する評価が重視されるようになりました。
具体的には、重み付けについて次の傾向がみられます。
②制度・政策実行:ウェイト3から変更して、ウエイト2の重み付けが適用されるようになった
④評価・改善:ウェイト2から変更してて、ウェイト3の重みづけが適用されるようになった
以上の傾向からは、ただ施策を実施するだけではなく、結果を評価して改善につなげることが求められるようになったことが読み取れます。
これは、健康経営の本質に根ざした方針転換と考えられます。健康経営の本質とは、健康経営への取り組みが企業の生産性の向上につながることです。その本質を守るためにも、施策の実施を確認するだけではなく、結果もしっかり評価する方針へと変化したと考えられます。
例えば、健康経営度調査が始まった当初は、喫煙率が多少高くとも、きちんと喫煙対策に取り組んでいればそれなりの評価を得られました。しかし現在は、喫煙率そのものを減少させた法人が高評価を得ています。
健康経営度調査のフィードバックシートの返却
健康経営度調査票を提出すると、12月頃に「フィードバックシート」が返却されます。
昨年までは大規模法人のみに送付されていましたが、2024年度以降は中小規模法人もブライト500提出企業には漏れなく(返却・返送)されます。
フィードバックシートには、各企業から提出された全ての健康経営度調査票の集計結果が掲載されることが特徴です。集計結果に対する自法人の位置が偏差値で示されるため、自法人の健康経営への取り組みを客観視できます。
評価値が平均であれば偏差値50となり、偏差値50を上回れば平均以上、下回れば平均以下ということがわかります。いわば、学校の成績表のようなものです。
健康経営度調査票を提出すれば、フィードバックシートは無料で返却されます。
仮に誓約事項を満たせず、優良法人認定が受けられない場合でも、調査票をもとに自法人の健康経営を客観的にチェックすることには意義があります。フィードバックシートを自法人の健康経営を充実させるために活用しない手はありません。
まずは誓約事項を守れるように改善を図ると、それだけでも健康経営の推進に繋がります。
健康経営度調査フィードバックシートのサンプルを確認する方法
健康経営度調査フィードバックシートの構成を確認するにあたり、まずは下記よりサンプルをダウンロードするとよいでしょう。
令和3年度 健康経営度調査フィードバックシート <サンプル>|経済産業省
サンプルではコメント付きで各項目が説明されているので、フィードバックシートがどのようなものか概要がつかみやすいと思います。
なお、2023年時点で経済産業省が公開しているサンプルは、令和3年のシートが最新です。フィードバックシートは年々変化しているので、最新のシートも確認しておくことをおすすめします。
最新のフィードバックシートは、公開されている各企業のものを下記より確認できます。
次にフィードバックシートの構成について解説します。
健康経営度調査フィードバックシートの構成
令和4年の健康経営度調査フィードバックシートは、次の項目で構成されています。
①健康経営度評価結果
②評価の内訳
③評価の変遷(直近5回の評価結果)
④評価の詳細分析
⑤健康経営の戦略
⑥経営レベルでの会議での議題化
⑦各種施策の参加率
⑧具体的な課題への対応
【補足】 ⑦経営レベルでの会議での議題化 |
ここでは、各項目について解説します。⑦~⑧の項目は、令和4年以降に新しく追加された項目です。令和3年のサンプルには掲載されていませんが、令和4年の各企業のフィードバックシートからご確認いただけます。
①健康経営度評価結果と②評価の内訳
フィードバックシートの「①健康経営度評価結果」と「②評価の内訳」では、次の内容を確認できます。
- 自法人の偏差値
- 回答法人全体でトップの偏差値
- 業種トップの偏差値
- 業種平均の偏差値
- 自法人の順位
以上は、先述した健康経営優良法人認定基準のフレームワークで示した次の4つの側面ごとに記載されます。
- 経営理念・方針
- 組織体制
- 制度・施策実行
- 評価・改善
③評価の変遷(直近5回の評価結果)
フィードバックシートの「③評価の変遷」では、自社の過去5年分の総合順位や総合評価を確認できます。さらに、次の4側面ごとに偏差値の経年変化も確認できます。
- 経営理念・方針
- 組織体制
- 制度・施策実行
- 評価・改善
④評価の詳細分析
フィードバックシートの「④評価の詳細分析」では、「②評価の内訳」の各側面を構成する項目ごとに偏差値が示されます。
調査票の設問がどのような評価につながるのかを把握したい場合は、「対応Q番号」の欄をご覧ください。そこには各項目に対応する健康経営度調査票の設問番号(以降「対応Q番号」)が記載されているので、評価と設問のつながりを把握できます。
側面ごとに対応Q番号と配点が決まっている点もポイントです。
画像:「令和5年度 健康経営度調査 結果概要資料」の「(参考)評価側面と調査項目の対応表」
点数配分はフィードバックシートと一緒に配布される「令和5年度 健康経営度調査 結果概要資料」の「(参考)評価側面と調査項目の対応表 」をご覧ください。
⑤健康経営の戦略や⑥経営レベルでの会議での議題化、⑦各種施策の参加率
フィードバックシートの「⑥経営レベルでの会議での議題化」や「⑦各種施策の参加率」では、健康経営度調査票で回答した内容がそのまま示され、他法人の評価も参照できます。逆に、自法人の評価は他法人も閲覧できる仕組みです。
⑧具体的な健康課題への対応
フィードバックシートの「⑧具体的な健康課題への対応」では、課題への対応度について自法人の偏差値と業種偏差値が掲載されています。なお、「⑧具体的な課題への対応」は令和3年版のサンプルでは⑥にあたりますので、上記の図では⑥と記されています。
「対応する設問」の欄に対応する健康経営度調査票内の設問番号で記されているので、そこから設問と課題の関連を確認しましょう。
▼調査票目次
「対応する設問」に記されている番号を「調査票目次」(上図)で確認すると、
- 3. 制度・施策実行 従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討①
- 3. 制度・施策実行 健康経営の実践に向けた土台づくり②
- 3. 制度・施策実行 従業員の心と体の健康づくりに関する具体的対策③
- 4. 評価・改善のうち、I. 各指標の状況
の項目を、「課題分類」に使用していることがわかります。
各分類の数値は、それぞれの課題に対応する評価得点を全社平均に基づく偏差値に変換した値です。
併せて「重点を置いている具体的な施策と効果」においては、令和4年の健康経営度調査票のQ72.SQ1(令和5年の健康経営度調査票ではQ73.SQ1に該当)で記入した自法人の回答内容がそのまま掲載されます。
引用:重点を置いている具体的な施策とその効果(P.3)|経済産業省
健康経営度調査フィードバックシートの構成を理解しよう
今回は、健康経営度調査フィードバックシートの構成について解説しました。本記事で解説したフィードバックの要点をまとめると次のとおりです。
- 令和4年のフィードバックシート構成は①~⑧番の項目から成る(令和5年のフィードバックシートは①~⑨の項目から成り、「⑥健康経営の情報開示」が追加された)
- フィードバックシートに記された偏差値をもとに自法人の健康経営を客観視できる
- 健康経営度調査質問票の設問番号(対応Q番号)とフィードバックシートの評価項目および課題を関連付けながらシートを確認すると健康経営を改善するための対策がわかる
次回は、フィードバックシートの見方と活用方法をお伝えしますので、どうぞお楽しみにお待ちください。
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