<産業医コラム>「-謹賀新年2024-」

皆さん、明けましておめでとうございます。
気分一新、仕事に取り組まれていることと思います。

新年から「気分一新」で仕事に取り組むことができている人には、すでに幸福のベクトルが動いています。「気分一新」には、希望と意欲、創造と快活が含まれているからです。なぜそれが幸福につながるのか、その説明をはじめましょう。

わたしたちの周りで起こる出来事のすべては、「真実」と「虚偽」、「正」と「悪」、「快」と「不快」、「安寧」と「不安」、「明」と「暗」、「強」と「弱」、「プラス」と「マイナス」・・・、というふうに二極の双方が互いに引き合ったり押し合ったりすることで成立しています。

台風災害は、強い風雨と弱い風雨の交互ですし、犯罪や事件も悪意と正義のきしみ合いです。気づけば、わたしたち自身の体も二極バランスのなかで生物活動が営まれています。たとえば、昼間は起きて(活動的)、夜は寝る(非活動的)という生活リズムも、吸ったり吐いたりの呼吸も、正反対の行動や活動を交互に行っている現象です。

そもそも、わたしたちの体は自律神経でコントロールされていますが、交感神経(興奮させる)と副交感神経(安静にさせる)による絶妙なバランスのおかげで、内臓も筋肉も心臓も体温も調節されています。そしてそれは、なんと気分や感情にも影響しています。このようにわたしたちは、心も体も二極の神経バランスで運営されているのです。

さて、わたしたちの心を創っている脳についてもっと詳しく見てみましょう。最近の研究では、脳のなかに心を調整する二極の部位のあることがわかってきました。一つは、わたしたちを「不安にさせる、恐怖にさせる、閉じ込ませる、気分を暗くさせる、マイナス思考にさせる」という、どちらかというと脳機能をダウンさせて活動性を低下させようとする部位。

そして他方は、「希望を持つ、前向きになる、明るくなる、気楽に考える、客観的になる、自信を持つ、プラス思考にする」というポジティブなベクトルをもつ部位です。脳の中で「心をマイナスにさせる力」と「心をプラスにさせる力」とがせめぎ合っているのです。

「心をマイナスにさせる力」がどこにあるかというと、皆さんの両耳の奥5cmくらいの両側にある扁桃体(へんとうたい)がどうものその主座らしいことがわかりました(この周辺を辺縁系といいます)。この扁桃体にスイッチが入ると、不安、恐怖、悲しみ、意欲減退、イライラ・・・が自動的に起こります。まさに症状としてはうつ病です。ですので、うつ病は扁桃体が暴走している状態だとも言われています。

困ったことに、これらは自律神経なので、スイッチが入ってしまうとわたしたち自身は何とも調整することができません。それはわたしたちが、自分で、自由に心拍数を上げることができないとか、体温を上げることができないとか、汗をかくことができない、のと同じです。自力ではこのやっかいな扁桃体の活動を抑えることができない、という生物としての限界があるのです。

次に「心をプラスにさせる力」を説明しましょう。それは脳のDLPFC(背外側前頭前野、オデコのちょっと後ろくらい)という場所にあることがわかってきました。DLPFCは、意思や希望、判断、計画、分析、創造、集中力、冷静、感情制御、記憶の保存と活用、などを担当していて、いわゆる高度な精神活動の主座ということができます。もっとも人間が人間らしく、思考し行動をすることができる頭脳エリアです。

ですので、脳卒中等でこの部分の血管が破れたり詰まったりすると、人間らしさが失われてしまいますし、脳腫瘍ができてこの部分が変形したりすると、性格や人格が変わり行動が以前とはまったく異なる別人格になってしまったりします。自分の本来の意思とは違っても、本人はそれに気づくこともできず、考えや行動も修正することができません。

脳内における「心をマイナスにさせる力:扁桃体」と「心をプラスにさせる力:DLPFC」を説明しましたが、この両者のせめぎ合いによって瞬間々のわたしたちの希望と抑うつ、活力と停滞、快適と不安、が決定されています。ですので、気分よく快適に過ごすためには、DLPFCが絶えず扁桃体を適切に抑制できるかどうかにかかっています。

わたしたちの周りには、大なり小なり毎日ストレスがありますので、扁桃体は常に活性化されている状態です。であれば、それを十分に抑え込むことができるレベルのDLPFCの活性化が必要です。

DLPFCを活性化する方法をご紹介します。納得感が高いのは、十分な睡眠(6時間以上)、適度な運動、禁煙、節酒、体重管理です。これらは生物学的にいえば、脈拍と血圧を安定化させて血行をよくしますので、十分な酸素がDLPFCに供給されます。

加えて、良好な家族関係、信頼できる友人の存在、職場の良質なコミュニケーションは、気分をリラックスさせますのでDLPFCを活性化させて扁桃体への抑制力を強化します。他にも、近くの公園を歩いて自然を感じたり、森や湖などの自然写真を見たりする、よく笑う、雑談をする、言葉遣いを元気系にする、趣味を楽しむ、などなどもDLPFCに効果があります。

これで皆さんおわかりでしょう。そう、冒頭に言った「気分一新」はDLPFCが活性化されている状態そのものです。「気分一新」でDLPFCが活性化されストレスを克服していきます。その延長線上には、快適で幸福な人生が広がります。そうと気づけば、幸せは遠くにあるものではなく、すぐ身近にあるものだとも感じることができます。

今年も元気に頑張りましょう。



※文章出典:株式会社イーウェル「健康コラム」より寄稿

浜口伝博

浜口伝博

(はまぐち・つたひろ) 産業医科大学医学部卒業。病院勤務後、(株)東芝(1986~1995)および日本IBM(株)(1996~2005)にて専属産業医として勤務。その後、Firm & Brain(有) を設立し開業型の産業医として独立。大手企業を顧客企業としてもち、統括産業医、労働衛生コンサルタントとして活躍するかたわら政府委員や医師会、関係学会の役員を務めながら、産業医科大学をはじめ、慶應義塾大学医学部講師 (非常勤)、愛媛大学医学部講師(非常勤)を兼任。

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