〈産業医コラム〉コロナ禍でのメンタルヘルスの変化と対応策

労働衛生コンサルタント
日本医師会認定産業医
堤 多可弘

1.コロナ下でのメンタルヘルスの現状

新型コロナウイルスが世界的流行を始めてから2年以上が経とうとしています。

感染状況については予断を許さない状況が続いており、コロナのある半ば生活が当たり前になりつつあります。

一方でメンタル不調になる方は依然として多く、いろいろな企業では若手を中心とした休職の増加が問題になっています。

その中で私が産業医として多くの方々とお話しする中で、強く感じるものがあります。それが「ココロの袋小路」です。


2.ココロの袋小路?=「雑談」が減ったために起きた現象

「ココロの袋小路」は私が作った言葉なので初めて目にされたことかと思います。これについて、まずはイメージがわくように、あるビジネスパーソンのお話を個人が特定できないようにご紹介します。

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Aさんは20代後半の女性でWebページ作成の仕事をしています。コロナの流行に伴い、在宅勤務がメインになっており、出社は週の半分以下です。

仕事量はもともと多いのですが、コロナ不況のため、仕事のやり方が変わり創意工夫を要するものが減り、ルーチンワークが増えてます。

具体的にはWebページを作成する際に、コストを削減するためにいわゆるパターンに、はめていく仕事ばかりになっています。

最近では仕事をしようとすると動悸がしたり、涙が出てしまったりするようになっていました。具体的な気持ちを聞くと「もともと仕事は忙しかったがやりがいをもって取り組んでいた。しかしルーチンになってやりがいも無くなり、この先どうしたいか考えられなくなってしまった」ということでした。

実は彼女は、私との面談までは、このようなことは誰にも相談していなかったようです。
コミュニケーションについて尋ねると、メンバーとの仕事上のやりとりには困っていないものの、飲み会や食事会、仕事の合間の雑談などは減ったと感じていました。

普段ならば、仕事のことなどを同僚と話してストレス解消したり、行き詰った仕事の打開策を一緒に考えたり、仕事の成果をお互いに褒めあったりしてモチベーションを維持していた部分もあったのですが、そのようなことはほとんど無くなっていました。

そのため「自分が何のために仕事をしているかわからなくなり、考えが整理できず何をどうしたらいいかわからなくなってしまった」と言います。



私が「ココロの袋小路」と呼ぶ現象がこの話の中にあります。

ざっくり概要を説明すると……

①雑談等のコミュニケーションが減る

②一度行き詰ってしまうと自分の中にいろいろな考えを抱えこんでしまう

③考えすぎるがゆえに疲弊してしまう

④やがてメンタルのバランスを崩してしまう

このように自分の考えを表に出せず、自分の中に抱え込んでしまい、袋小路で力尽きてしまうかのように不調になる方がコロナ流行以降は増えているように感じます。

ここから先、もうすこし詳しく説明していきます。

3.雑談が減ることで悪影響を及ぼす3つのこと


雑談が減ることで、悪影響が出るものには大きく3つあると私は考えています

①エンゲージメント(仕事に対する前向きな気持ち)の低下

②心理的安全性の低下

③ココロの袋小路


今回は ③ココロの袋小路 についてがテーマですので詳しく説明します。

人は、自分の考えをコトバに出したり、書いたりすることで考えを整理したり客観視できたりします。これを外在化といいます。

よくビジネスの世界で、「壁打ち」などと言って自分の考えを話しながら整理したりすることがありますが、これも外在化の一形態といえるかもしれません。

しかし、雑談がなくなると外在化の機会が減ってしまい、あたかも袋小路に入るかのように考えが行き詰ったりします。

また会話の中で、些細なきっかけや思い付きで行き詰った状況を打開できるなどということは誰しも経験すると思います。

また、思いつめていた考えがふっと軽くなるようなこともあるでしょう。「話しただけで気が楽になりました」というやつです。

しかし、他の人に話すことが減ると、視点が固定されてしまい、行き詰ったときの打開策が見いだせなくなります。

どうも雑談にはココロが袋小路に入らないようにするチカラがあったようです。

先ほどのAさんも「自分が何のために仕事をしているかわからなくなり、考えが整理できず何をどうしてもいいかわからなくなってしまった」という風にだんだんと袋小路に入っていってしまった様子があります。

普段の状況であれば、仲間と支えあうことで業務量や仕事のやり方の変化などは乗り越えられていたかもしれませんが、そうはならなかったのです。これこそがコロナで起きたココロへの変化の一つです。

ではこのような状況にどう対応していけばいいのか?最後に説明していきます。

4.その対応策は?

なかなかコロナ前の状況に戻ることができず対応策が立てづらい現状ですが、やはり、意識してコミュニケーション、とくに雑談タイムを設けることが必要と私は感じています。

リモート下のでコミュニケーションについてはこちらのコラムにまとめているので参考にしてください。

雑談だけでなく、一人でできることとして考えを紙にまとめて眺めてみることもおすすめの方法です。

紙に書いて冷静に見つめることで、別の視点=メタ認知を持つことができます。

そして、本当につらくなる前に専門家に相談することも大事です。

下記3つの項目のうち一つ以上が2週間以上続いたら相談の目安です。



①食事 食欲、増減、嗜好の変化、飲酒量の増大、自炊をしなくなる

➁睡眠 寝つきが悪い、途中で目覚める、早朝覚醒 寝汗、いくら寝ても眠い

③楽しみ 趣味をしなくなる、趣味に関連することをしなくなる 楽しめなくなる



もし周囲に心配な人がいたらさりげなく尋ねてみてもいいかもしれませんね。


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文章出典:株式会社イーウェル「健康コラム」より寄稿

堤多可弘

堤多可弘

医学博士日本精神神経学会 精神科専門医 労働衛生コンサルタント 日本医師会認定産業医 東京女子医科大学病院精神科で助教・非常勤講師を歴任したのち、現在はVISIONPARTNERメンタルクリニック四谷の副院長を務めつつ、産業医としても幅広く活動している。 「健康問題を経営問題にしない」をミッションとし会社・ビジネスパーソン双方のサポートを専門としている。 主な著書「企業はメンタルヘルスとどう向き合うか 経営戦略としての産業医」

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