【前編】専門家に聞いた、職場のワークエンゲージメント向上に必要な活動とは

2021年2月 リモートによる取材

コロナ禍、従業員のメンタルヘルスはどのようにしてケアしていくことが大切になるのでしょうか。

近年、注目が高まる「ワークエンゲージメント」をキーワードに、専門家である臨床心理士の小林由佳先生にお話しを伺いました。


企業から注目が高まる「ワークエンゲージメント」向上のメリット

はじめに、先生のご経歴をお聞かせいただけますか。

臨床心理士の小林由佳と申します。

博士課程で衛生学を学び、職場のメンタルヘルスの専門職を養成する教育を受けた後、合併直後のJFEスチール株式会社で健康管理部門の立ち上げと、メンタルヘルス対策の統括に携わりました。

基本的なラインケア教育、復職支援の整備と対応、不調者対応、ストレスチェックと初めて体系的なメンタルヘルスケアを行なったために、立ち上げ直後は休職者が急増しましたが、5年かけて減少し、その他の指標も改善しました。見事な掘り起こし効果だったと思います。

その後、本田技研工業株式会社で全社のメンタルヘルス推進に携わりました。

当時は13事業所がそれぞれ独自で取り組みを進めていましたが、統一した方針や体制がなく、技術の蓄積と検証がされていないことが課題でした。そのため、まず、健康管理、人事、安全衛生でチームを組み、全社統一の方針を作り、人事本部長名で発信しました。

方針には会社の企業理念や行動指針と紐づけた基本姿勢を示し、従業員のワークエンゲージメントを高めることを目標とした上で、施策の設定と各事業場の産業保健スタッフの教育を行いました。

また、ストレスチェック制度もいち早く整備し、そのデータや、健康管理部門の利用状況、休職等の指標を分析して翌年度の活動計画に落とし込むという仕組みを作りました。

10年活動を推進した結果、各事業所のチームの尽力により、全社で休職率と再発率が減少し、いくつかの事業所でワークエンゲージメントが向上したことを確認できました。

現在は別のことをしています。ひとつは実務面で、読売新聞東京本社の人事部に所属しハラスメント防止の観点から会社をよりよくする活動を進めるほか、他の企業で組織開発やキャリア支援を行なっています。

また、研究活動として、小規模事業場の経営者向けのトレーニングツールを開発したり、テレワークの実施状況と課題についてインタビューをして提言につなげたり、産業保健職のリーダーシップの尺度を開発したりしています。


近年「ワークエンゲージメント」への注目が高まっていますが、企業がワークエンゲージメントを高めることにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

ワークエンゲージメントを高めることのメリットは数多くあります。

具体的な効果としては、働く人の心身の不調を未然に予防できることや、生産性の向上を期待できること。そして、休職・離職を防止できること等が考えられます。

話題となる一方で、ワークエンゲージメントを向上させることはそう簡単ではありません。

例えば、トップからワークエンゲージメント向上に関するメッセージを送るだけでは難しく、働きやすさと働きがいの両面から職場の環境を整備するための施策に取り組む必要があるのです。


それでは実際に、ワークエンゲージメントはどのように測定すればよいのでしょうか。

まずは、ストレスチェックの結果がひとつの指標になります。

調査票も、いわゆる「57項目版」ではなく、ワークエンゲージメントを測定するための質問事項が追加された新職業性ストレス簡易調査票を活用するとよいでしょう。

ストレスチェックの集団分析を行うことで、まずは部署のエンゲージメントを測定し、その次に改善の糸口を見つけ、適切に対応していきます。

特にコロナ禍では、多様な視点から対策を講じるために、対応の際は誰か一人を担当者として任命するのではなく、人事労務担当者や産業保健スタッフも巻き込んで対応していくことが大切になります。


コロナ禍で問われる管理職の役割とマネジメント

コロナ禍では、特にどのようなタイプの従業員に注意が必要でしょうか。

新型コロナによりテレワークが普及しましたが、こうした環境の変化には若手社員の方が順応していると感じます。

一方で、社内の人間関係・ネットワークが出来ていない、もしくはスキルを十分に獲得していない新入社員や中途入社の従業員などの「組織に馴染みきれていない人たち」に対してはフォローが必要でしょう。

これまでの職場では、上司・同僚に対して「ちょっといいですか」と話しかけることや、雑談によって人間関係を形成することが出来ていました。

しかし、テレワークではこうした何気ないコミュニケーションをとることが難くなりましたので、馴染みきれていない人たちが孤立してメンタルヘルス不調に陥らないよう気を付ける必要があります。

また、コロナ禍では、全ての従業員に対して、人事労務担当者や上司である管理職が普段に増して意識的に目配り気配りと適切なフォローをしていくことが重要になっています。


管理職として、どのようなマネジメントの方法がありますか。

部下とのコミュニケーションの質を高める必要があります。部下の目標設定をどのようにするか、部下にどんな役割を担ってもらうか、ということを明確化して、しっかりフィードバックしていくということでしょう。

その理由は、これまでやってきた「部下がなんとなく上司の背中を見て育っていく」というスタイルが現在では出来なくなってしまっているからです。

つまり、背中を見て育つという教育のモデルは幻想になってしまったということを意識して、マネジメントしていくことが重要です。


管理職に求められるフォローについて詳しく教えてください。

コロナ禍では、これまで行ってきた労務管理・マネジメントのあり方を見直す必要が出てきており、上司が“意識を持って”管理することが求められています。

具体的には、オンライン等で定期的な1on1の機会を設け、まずは「業務の棚卸し」をしていくことがひとつです。

このような面談を通じて、やるべきことがわからずに空回りしている、与えられた役割に納得していない、といった情報をキャッチしやすくなり、それぞれの部下にあった働き方や必要な配慮が見えてくるかもしれません。

大事なのは、業務でも個々人の状況でも、なんでも話題にして、コミュニケーションの頻度を上げていくことです。

―後編に続く―

■後編の記事はこちら■

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小林由佳

小林由佳

(こばやし・ゆか)岡山大学大学院医歯学総合研究科衛生学・予防医学分野修了。博士(医学)、臨床心理士。東京大学大学院医学系研究科精神保健分野客員研究員。専門は職場のメンタルヘルス、臨床心理学、行動科学。日本産業ストレス学会理事、日本産業精神保健学会代議員

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