36協定の特別条項・上限規制と新たな割増賃金率の要点
最終更新日:2023年6月5日
労働基準法の改正によって、時間外労働の「上限規制」が法定化されました。
それに伴い、36協定の締結にも対応が必要になっています。
また、2021年4月からは、いわゆる「判子レス」に対応した新様式も登場し、2023年4月には中小企業における法定割増賃金率の猶予措置が終了します。
ここでは「上限規制」「特別条項」「新様式」といったキーワードを中心に、締結時の注意点や罰則などについて紹介します。
目次[非表示]
中小企業も「罰則つき」時間外労働の上限規制の対象に
36協定とは「時間外労働」に関する協定
はじめにおさらいですが、いわゆる「36協定(サブロク協定)」と呼ばれるものは、労働基準法第36条における規定のことです。
労働基準法第36条は、時間外労働と休日労働について定められた法律であり、つまり36協定とは時間外労働に関する協定ということができます。
勤務時間以外の労働や、休日の労働について、企業と労働者が「36協定」を結びます。
そして、その協定を労働基準監督署に届け出ることで、法定外の時間外労働、法定の休日における休日労働が認められるようになるのです。
この36協定に関する法律が改正となり、2020年4月からは中小企業も対象となりました。
●中小企業の定義とは
企業規模については「中小企業基本法」という定義があります。
中小企業庁のホームページにて確認しておきましょう。
時間外労働の「上限規制」とはなにか
労働基準法の改正によって、36協定を締結した場合の「時間外に働ける時間数」「法定休日で働ける時間数」の上限が法定化されました。
上限規制のルールでは、36協定で「1日で何時間まで」「1か月で何時間まで」「1年で何時間まで」という時間数を定めなければならないことが定められています。
また、その時間数にも原則があり「1か月45時間」「1年360時間」の限度時間の範囲内で定める必要があります。
ただし、想定外の事態によって業務の量が急増した場合などには「特別条項付きの36協定」を締結することができます。
36協定「特別条項」の内容と運用時の注意点(罰則について)
特別条項付きの36協定の内容&違反した場合の罰則
事業が急に忙しくなり、残業や休日出勤をしてもらわないと業務が回らない場合には「特別条項付きの36協定」を締結することができます。
特別条項で定めることが出来る労働時間の範囲は次の3点です。
●特別条項で定めることが可能な労働時間の範囲
①1か月の法定労働時間を超える時間外労働時間数と法定休日労働における労働時間数の合計が100時間未満
②1年の法定労働時間を超える時間外労働時間数は720時間以下
③対象期間の1年間に法定労働時間を超える時間外労働時間数が1か月45時間(対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制の場合には1か月42時間)を超えることができる月数は6月以内
36協定の特別条項、運用で注意すべき「罰則」と適応除外業務
いうまでもなく、36協定の「特別条項」を悪用した長時間労働をさせてはいけません。
先述した特別条項による条件①~③に違反した場合には、罰則として「6か月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」が科せられる可能性があるため注意します。
また、適用が除外・猶予される業務もあるため、事前に確認しておくことが大切です。
適用除外となる業務の一覧は厚生労働省のホームページでチェックすることができます。
新型コロナによる業務量増加で、特別条項は適用される?
例えば、新型コロナウイルスの拡大によって、多くの仕事がキャンセルとなり、そのキャンセル対応で残業が発生してしまうような場合です。
このケースでは特別条項にある「臨時的に限度時間を超えて労働させることができる場合」の対象になるといえます。
その他にも、自宅待機の従業員が増加したことにより、出社組に業務のしわ寄せが起こり、結果として時間外労働になってしまう…といった場合なども、特別条項の対象に含まれるといえるでしょう。
36協定の締結時に注意したい「労働者代表の選出方法」と「罰則」
「労働組合」「労働者代表」が適正な存在であるか注意する
36協定の締結時には、企業が「労働者の過半数で組織する労働組合」か、労働組合が存在しない場合には「労働者の過半数を代表する人」と書面を交わすことが必要になります。
ここで注意したいことは、労働組合が組合としての条件を満たしていない場合や、労働者代表の選出方法が適切でない場合です。
こうしたケースであれば、締結した36協定を労働基準監督署に届け出ても無効となります。
なお、管理監督者が労働者代表を務めることもNGです。
これは、管理監督者が経営者と一体であり、労働条件などを決定する立場の人物と解されるからです。
●「労働者の過半数」って?
労働者の総数は、その企業で働く「すべての人」が対象となります。
つまり、正規雇用の社員の過半数ではなく、正社員以外のパートやアルバイトも含めた総数のうちの過半数である必要があるため注意しておきましょう。
適切な「労働者代表」の選出方法とは
では、どのような方法で労働者代表を選出するのかというと「投票」「挙手」「労働者による話し合い」などの民主的な方法をとることが必要となります。
したがって、会社が「あなたが労働者代表になってください」と指名することや、親睦会の幹事などをそのまま労働者代表に選出する方法はNGですので注意しましょう。
締結した36協定は労働者に周知しないと罰則がある
36協定を労働基準監督に届け出たら、速やかに労働者へ周知しましょう。
周知しなかった場合には30万円以下の罰金があります。
周知の方法は「見やすい場所に掲示する」「労働者に書面を交付する」「社内イントラネットで公開する」などが挙げられます。
いずれにせよ、労働者が容易に確認できるような形態にすることが求められています。
〈2021年〉記入例は?36協定の新様式では押印・署名が廃止に
記入例:36協定の新様式では、押印(判子)と署名が廃止され、チェックボックスが誕生
2021年(令和3年)4月より、36協定の様式が新しいものになります。
新様式の記入例については上の画像のようになっていますが、詳細については厚生労働省のホームページにて確認できます。
大きな変更点は、様式への押印と署名が廃止されたことです(記名の必要はあります)。
なお、届出が協定書を兼ねる場合には、署名または記名・押印などが必要となるため覚えておきましょう。
そして、協定書を兼ねて届出を提出する際には、もちろん労使間の合意がなされている必要があり、その決め事についてはチェックボックスに記入するようになっています。
2021年4月から36協定の新様式を利用する
もう一つポイントとなるのが、新様式に切り替わるタイミングです。
2021年1月現在、すでに新様式による届け出が可能となっていますが、2021年4月1日以降は新様式で届ける必要があります。
開始時期については下の画像で確認しておきましょう。
出典:厚生労働省「36協定届が新しくなります」リーフレットより
〈2023年4月〉中小企業では法定割増賃金率の猶予期間が終了
出典:厚生労働省リーフレットより
2023年度より月60時間超の時間外労働で50%以上の割増賃金を支払う義務が発生
2010年の法改正によって、月間60時間以上の時間外労働(休日出勤含む)を行った従業員がいた場合、主に大企業では法定割増賃金率50%以上の賃金を支払うことが義務化されました。
なお、中小企業については猶予期間が設けられており、2023年3月末までは、月間60時間以上の時間外労働を行った従業員に対して従来の割増賃金率である25%以上の賃金を支払うルールでした。
しかし、2023年4月からは大企業と同様、60時間以上の時間外労働については割増賃金率50%以上の賃金を支払うことが義務化されています。
新たな割増賃金率およびその支払いについては36協定に記載する
上述したように、2023年度からは割増賃金率が変更となりますので、変更となる割増賃金については36協定でも記載し、労使協定を結ぶ必要があります。
また、就業規則にも同様の内容を定として、以下の例の様に、時間外労働に関する割増賃金率について記載することが求められています。
〈就業規則〉割増賃金に関する記載例
(割増賃金)
第○条時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。(1)1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1か月は毎月1日を起算日とする。①時間外労働60時間以下・・・・25%②時間外労働60時間超・・・・・50%(以下、略)
出典:厚生労働省リーフレットより
割増賃金の代わりに「代替休暇」を付与することも可能
出典:厚生労働省リーフレットより
労働者の健康確保という観点から、引き上げ分の割増賃金を支払う代わりに「代替休暇」として、有給の休暇を付与することもできます。
なお、代替休暇の制度を導入する際にも労使間で協議する必要があります。具体的には、過半数組合もしくは、労働者の過半数を代表する人物(労働者代表)との間で、以下1~4の項目について協定を結ぶ形になります。
- 代替休暇の時間数の具体的な算定方法
- 代替休暇の単位
- 代替休暇を与えることができる期間
- 代替休暇の取得日の決定方法・割増賃金の支払日
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36協定にまつわる要点について紹介しました。
時間外労働に関する取り決めについては、労使間でトラブルの原因にもなりやすいテーマであるため、必ず適正な方法で締結するようにしましょう。
また、時間外労働が長時間化することは、働く人の健康にも大きな影響を与えますので、ヘルスケアの観点からも十分な注意が必要です。
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