〈保健師解説〉特定保健指導のサポート内容。従業員の健康を守るポイントとは
特定保健指導は、生活習慣病の発症リスクの高い40~74歳の方を対象に実施されるものです。従業員の健康を守るためにも、特定保健指導を通して生活習慣を改善してもらうことが大切です。
今回は、特定保健指導のサポート内容や従業員の健康を守るポイントについて、産業保健師の山本佳菜さんにお話を伺いました。
特定保健指導の対象者を増やさないための取り組み
特定保健指導に至る以前の従業員に対するサポート内容についてお伺いしてもよろしいですか。
特定保健指導では、健診結果の数値が思わしくない40歳以上の方を対象に、健康的な生活を送れるよう生活習慣を改善できるよう保健師などの専門職が支援します。
また、基準を満たす従業員に対しては、40歳未満であっても早い段階で生活習慣の改善を促す取り組みも行っています。例えば、20代でも体重やお腹周りが基準値を超えていたり、血圧が高かったりする場合は、面談を行って健康状態に応じたアドバイスをしています。
特定保健指導の対象者をなるべく出さないようにすることも、産業保健師である私たちの大切な役割だと考えています。
具体的なフォローの内容について、もう少しお聞かせください。
私がこれまでに見てきた事例から、具体的なフォロー内容をご紹介しますね。
例えば健康診断の結果で、尿蛋白やクレアチニンなどの腎臓関連の数値が高いケースがあります。この場合、まずは面談で検査結果の意味や腎臓の役割を説明することが多いです。
健康についての基礎知識を身に付けてもらうことで、腎臓疾患を予防するために欠かせない減塩や水分摂取の重要性について理解を深めてもらえます。さらに相談者を通して、主治医に追加の検査をしてもらうことを促し、腎臓疾患の早期発見に繋がるように努めています。
なお血圧高値を指摘されているにも関わらず治療をせず放置してしまうと、急に具合が悪くなることがあるため、注意が必要です。特に運転の多い営業担当者の場合、事故を起こす危険性が高まります。安全配慮義務や自己保健義務の観点からも、治療を受けることを強く推奨しています。
特定保健指導を始める前の準備
特定保健指導を実施する前の手順について、お伺いしてもよろしいですか。
まずは、保険者に管理システムを使って特定保健指導の対象者を選定してもらいます。その後、対象者にメールや郵送にて特定保健指導を受けるように連絡します。
多くの場合、健診結果が管理システムに反映されるまでに2~3カ月ほどのタイムラグがあるので、対象者に連絡するまでには一定の時間が必要です。
そのため対象者の中には、特定保健指導を受ける前に病院を受診し、すでに治療を開始している場合もあるでしょう。そのような場合は、特定保健指導の希望の有無や治療状況や処方された薬についてお話を伺います。
初回は、顔を合わせて面談をすることが決まりです。対面で面談をするための場所を決める際には、面談時のみでなく入退室時の視線や声が、他の人にわからないよう配慮します。例えば会議室などの個室を予約して保健師と1対1になれる環境を作り、面談者がリラックスできるように心がけています。
もし特定保健指導を受けてもらえない場合は、どのように対処していますか。
そうですね。中には、私たち産業保健師がアプローチを重ねても、なかなか特定保健指導を受けて頂けない対象者の方もいらっしゃいます。
このような場合は、健保や企業の担当者、対象者の上司などに協力を仰いで、受けてもらえるように促します。健康経営を目指す企業の場合は、担当者が積極的に協力してくれるケースも多いです。
面談を受けて頂けないことに関連して、個人的に印象に残っているエピソードがあるので紹介します。
ある対象者は、はじめは特定保健指導に消極的でしたが、面談を重ねて人間関係が育まれると積極的に取り組んで頂けるように変化してきました。面談中に私が対象者の話をじっくり聞くように努めたことが、人間関係作りに良い影響を与えたのだと思います。
生活習慣の改善を指導するだけではなく、相手の価値観を認めながら、少しずつ保健指導を進めていくことの大切さを実感しました。
従業員の生活習慣を改善する、特定保健指導とは
特定保健指導のサポート内容には、どのようなものがありますか?
特定保健指導で行うサポートは、大きく分けて「積極的支援」と「動機づけ支援」、「情報提供」の3つです。
さらに、「動機付け支援相当」と呼ばれるカテゴリーもあります。「動機づけ支援相当」は、「積極的支援」の該当者であっても、特定保健指導を受けて前回の健診結果よりも改善している場合に振り分けられるカテゴリーです。
「積極的支援」になると、さまざまな病気のリスク因子を抱えることが多いです。そのため、特定保健指導の対象者から外れる状態まで改善するためには、長期的なサポートが求められます。
具体的には3カ月以上にわたって、対面やオンラインツールを使用した面談、メールなどによる継続的なサポートが必要です。定期的に対象者と接触する機会を設け、体重や腹囲、血圧の推移や目標達成の状況などを尋ね、健康状態を改善するためのアドバイスを継続します。
定期的に面談をすると、対象者が面談日に備えて生活習慣に気を付けようとします。面談を実施すること自体が、対象者の健康意識を高められる点もポイントです。
目標の設定方法について、教えてください。
初回面談は40分が目安で、そのなかで対象者と一緒に目標を設定します。目標を決める際には、今回の面談の目的や健診結果の見方などの知識を伝えることも大切です。
流れをご説明すると、面談の導入部では特定保健指導の目的を話します。次に健康診断の結果をもとに、どの数値を改善すれば、どのような病気のリスクを減らせるかを丁寧に説明します。
以上のように、知識を共有した上で、健診結果の改善に結びつくような目標を決めていきます。目標内容は、私から提案することもありますが、最終的には対象者自身が目標を決めるようにすると、対象者が主体的に生活習慣の改善に取り組みやすくなります。
また特定保健指導では、メタボリックシンドロームの改善を目指して目標を設定することが多いです。具体的な内容としては、食事の改善や運動の習慣化などが考えられます。
食事の改善では、まず目標とする食事の量を対象者に決めてもらいます。その目標とした食事を摂り続けた場合に見込まれる体重の減少量を私が計算して、それを減量する体重目標としています。
このように、目標は数値化することが大切です。単純に「揚げ物を控える」ではなく、「揚げ物を食べるのは、週2回以内に収める」など具体的な数値で示すと目標を達成しやすくなります。また、次回の面談で私が質問に対した際に、「はい」や「いいえ」で答えられるような目標設定を心がけています。
今後はアウトカム評価の導入も予定されているので、具体的な数値目標をもとに生活習慣の改善を評価することが、ますます求められるでしょう。
特定保健指導の対象者が生活習慣を改善するためのポイントを教えてください。
特定保健指導の対象者が生活習慣を改善するためには、これまでにお話したように、まずは具体的な目標設定が重要です。その他は、モチベーションの維持と日々の記録付けなども改善を進めるためのポイントになります。
対象者にモチベーションを維持してもらうためにも、2回目の面談は初回面談日から2週間以内に実施するように心がけています。
特に最初は面談の間隔を空けすぎるとモチベーションが低下しやすいので、あまり空けないことが大切です。特定保健指導に慣れてきたら、面談の間隔を1カ月や2カ月、3カ月と徐々に広げていき、最終的に初回面談を含めて計5〜7回の面談を実施することが多いです。
次に大切なことは、記録付けです。記録がなければ、面談者が生活習慣の改善に取り組んでいること自体を忘れてしまうこともあります。目標自体もうやむやになってしまい、モチベーションの低下にもつながる恐れがあるため、記録付けは欠かせません。
記録する際には、スマホや手帳など対象者が進めやすい方法で管理してもらいます。私からエクセルファイルのチェックシートを提供して、対象者に記録をしてもらうこともあります。
今後は特定保健指導をどのように役立てていきたいですか。
従業員が健康的に働ける職場作りを通して、特定保健指導を企業業績の向上に役立てたいです。
特定保健指導は、医療にかかる前のセーフティーネットだと考えています。生活習慣を改善する大切さを伝えるなど、従業員が病院を受診する前に対策を講じることで、健康に働ける職場作りが可能になると考えています。
また特定保健指導を通して、健診結果の見方を対象者に理解してもらうことも大切だと思います。健康に気を付ける意識を持ってもらうためにも、特定保健指導を通して健康に関する知識を伝えていきたいです。
特定保健指導の対象者が健康寿命を伸ばすことに前向きになり、希望を持って頂けるような面談をこれからも実施していきたいと考えています。
従業員が50名を超えると、様々な産業保健活動が義務化されます。
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