〈改正の3要点〉2023年4月より安衛法の「新たな化学物質規制」が施行

厚生労働省の公表によれば、化学物質を原因とした労働災害は年間およそ450件発生しています。また、化学物質のばく露に関連したがん等の遅発性疾病も後を絶たない状況です。

このような状況を踏まえ、2023年4月より新たな化学物質規制の制度が導入されることとなりました。

本記事では、化学物質の規制等に関する労働安全衛生法施行例の一部改正について、その要点を紹介しています。

目次[非表示]

  1. 1.新たな化学物質規制の制度が目指すもの
    1. 1.1.新たな化学物質規制の目的のひとつ「事業者の自律的なリスクアセスメント」
    2. 1.2.「化学物質管理者」の選任が義務化される
      1. 1.2.1.化学物質の新規制の仕組みにて、事業者に措置義務がかかる範囲
    3. 1.3.〈2023年4月より開始〉化学物質規制の項目と施行期日
  2. 2.化学物質規制、法令改正に伴う主な3つの要点(義務内容等)
    1. 2.1.「新たな化学物質規制」における3つの要点
      1. 2.1.1.新たな化学物質規制に関する3要点
    2. 2.2.要点1:ラベル・SDS通知、リスクアセスメント実施対象物質が大幅に増加
    3. 2.3.要点2:労働者のばく露防止・ばく濃度を基準値以下にする義務
      1. 2.3.1.健康診断の実施および結果の取り扱い義務
      2. 2.3.2.リスクアセスメント/ばく露低減措置の実施記録と取り扱い義務
    4. 2.4.要点3:化学物質を取扱う労働者に適切な保護具を使用させる


新たな化学物質規制の制度が目指すもの

出典:厚生労働省「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」

新たな化学物質規制の目的のひとつ「事業者の自律的なリスクアセスメント」

まず、新たな化学物質規制の制度についてです。内容については上図のようになっており、労働災害を防止するための様々なルールが定められています。

新たな化学物質規制の内容については、2021年に公表された「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書」に記載があり、従来の仕組みと異なる点は、事業者自らが自律的に化学物質のリスクアセスメントを行い、ばく露防止などに関する適切な措置を実行することを目指した内容へとシフトするものです。

従来は国が化学物質のリスク評価を行い、各種の予防規則等に追加した上で、その取扱いを法令で定める方式でしたが、見直される形となりました。

事業者による自律的な管理を基軸とした規制の中には、ラベル表示およびSDS交付により危険性・有害性の伝達や、ばく露濃度を基準値以下にする義務等、様々なものがあります。

また、衛生委員会では「リスクアセスメント結果に基づくばく露低減措置」「健康診断結果やそれに基づく措置」が付議事項として追加されます。

そして、これまで一部業種では省略されていた雇入時の危険有害作業に関する教育の規定が廃止され、改正後は全業種において安全衛生に関する教育が必須となります。


「化学物質管理者」の選任が義務化される

事業者による自律的なリスクアセスメントおよび化学物質管理に向け、その活動の実施体制を確立することも求められています。

具体的には、「化学物質管理者」の選任が義務化されます。化学物質管理者の選任要件は、「化学物質管理に関する業務を適切に実施できる能力を有する者」とされており、専門的講習を修了することで、その要件を満たすことができます(リスクアセスメント対象物の製造事業場でない場合は受講推奨)

化学物質管理者の職務は、ラベルおよびSDS等の確認をはじめ、リスクアセスメントの実施管理、ばく露防止措置の実施管理、化学物質の自律的な管理まつわる各種の対応が挙げられています。

なお、中央労働災害防止協会が運営している講習があり、同協会のホームページから講習へ申し込むことができます。


化学物質の新規制の仕組みにて、事業者に措置義務がかかる範囲

  • ラベル表示・SDS交付による危険性・有害性情報の伝達義務
  • SDSの情報等に基づくリスクアセスメント実施義務
  • ばく露濃度をばく露濃度基準以下とする義務
  • ばく露濃度をなるべく低くする措置を講じる義務
  • 皮膚への刺激性・腐食性・皮膚呼吸による健康影響のおそれがないことが明らかな物質以外の全ての物質について、保護眼鏡、保護手袋、保護衣等の使用義務


〈2023年4月より開始〉化学物質規制の項目と施行期日

前述したように、新たな化学物質の規制は2023年4月1日より施行されており、その項目によっては2024年4月にスタートを控えているものもあります。

項目と施行期日については下の表のとおりであり、項目によっては義務または努力義務とされているものもありますので、内容と確認の上、対応していきましょう。

出典:厚生労働省「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」


化学物質規制、法令改正に伴う主な3つの要点(義務内容等)

「新たな化学物質規制」における3つの要点

労働安全衛生法の関係政省令改正により、化学物質規制も新たなルールが始まります。この項では内容を3つの要点でまとめていますので、それぞれ確認しておきましょう。

新たな化学物質規制に関する3要点

  • 要点1:ラベル・SDS通知、リスクアセスメント実施対象物質が大幅に増加
  • 要点2:労働者のばく露防止・ばく濃度を基準値以下にする義務
  • 要点3:化学物質を取扱う労働者に適切な保護具を使用させる


要点1:ラベル・SDS通知、リスクアセスメント実施対象物質が大幅に増加

新たな化学物質規制の要点1つ目は、ラベル表示・SDS通知等による通知およびリスクアセスメント実施の対象となる物質が大幅に増えることです。

その数はおよそ2,900物質になり、国によるGHS分類で危険性や有害性が確認されたすべての物質が順次追加されていきます。

なお、追加される予定の化学物質とその内容・施行は以下のようになっています。

・2022年2月改正/2024年4月施行

発がん性、生殖細胞変異原性、生殖毒性、急性毒性のカテゴリーで区分1に分類された234物質が義務対象に追加される。

・2022年度中改正/2025年4月施行予定

上記以外のカテゴリーで区分1に分類された約700物質を義務対象に追加予定。

・2023年度中改正/2026年4月施行予定

健康有害性のカテゴリーで区分2以下又は物理化学的危険性の区分に分類された約850物質を義務対象に追加予定。

ちなみに、今後のラベル・SDS義務対象への追加候補物質は、(独)労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所化 学物質情報管理研究センターのウェブサイトにCAS登録番号付きで公開されています。


要点2:労働者のばく露防止・ばく濃度を基準値以下にする義務

化学物質規制では、リスクアセスメントの結果を踏まえ、労働者のばく露を最小限にすることや、その濃度基準を順守することが義務付けられています。

リスクアセスメントや、ばく露低減措置を行う際には、「CREATE-SINPLE」などの推定ツールを利用することと、実測法を組み合わせて行うことが効果的とされています。

なお、濃度基準値が定められていない物質に関しては「ACGHI(米国政府労働衛生専門家会議)のばく露限界値」等を参考にし、許容濃度以下となるように努める必要があります。

ばく露低減措置の具体的な内容については、「代替物質の使用に切り替える」「作業方法の見直し」「有効な保護具等の使用」といったことが挙げられています。


健康診断の実施および結果の取り扱い義務

事業者は、医師などが必要と判断する項目の健康診断を行い、その結果に基づいて必要な措置を行うことが求められています。

また、作成した健康診断の記録は5年間(がん原生物質は30年間)の保存が義務づけられています。


リスクアセスメント/ばく露低減措置の実施記録と取り扱い義務

次に、リスクアセスメントの結果と取り組んだばく露低減措置(その内容)については、記録を作成し、労働者への周知を行います。

その記録は次のリスクアセスメント実施までの期間(最低3年間)保存することが義務付けられています。

また、ばく露低減措置の内容や労働者のばく露状況について、労働者の意見を聴く機会を設けるだけでなく、その記録を作成し3年間(がん原生物質は30年間)保存することが義務となります。


要点3:化学物質を取扱う労働者に適切な保護具を使用させる

要点の3つ目は、化学物質を取扱う際の適切な保護具の使用に関する義務です。

保護具着用の対象となる物質は、「皮膚への刺激性・腐食性・皮膚吸収による健康影響の恐れが無いことが明らかな物質以外すべて」とされています。

つまり、皮膚等への障害を引き起こす可能性のある物質を製造することや取り扱う場合、労働者に対して障害を防止するための保護具を使用させなければならないということになります。

「皮膚・眼刺激性・皮膚腐食性」「皮膚から吸収され、健康障害を引き起こしうる化学物質」が対象とされており、その危険性が明らかな物質を取り扱う際は、保護具の使用が義務となっています(健康障害を引き起こすおそれがないことが明らかなもの以外の物質を取り扱う際、保護具の使用は努力義務)

化学物質の種類やその取扱い方法によって、適正な保護具を使用することが欠かせません。

また、有効な保護具の選択や使用状況の管理については「保護具着用管理責任者」を選任し、運用につついて管理することが義務付けられます。

新たな化学物質の規制は2023年4月1日より施行されています。また、項目によっては2024年4月にスタートするものもあり、その内容は多岐にわたっています。

本記事では要点のみをピックアップして紹介しましたが、詳細については厚生労働省の「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」等で必ず確認し、適切に対応していきましょう。


株式会社エムステージでは、産業医や保健師の紹介からメンタルヘルス領域まで、産業保健のあらゆるお悩みに対応するサービスを展開しています。人事労務課題にお困りの方はぜひ一度お問い合わせください。 

  エムステージ 産業保健トータルサポート 1,900企業とサービスご契約中です!官公庁、大手企業から中小企業・スタートアップまで幅広くご活用中です。産業医・産業保健師の選任、ストレスチェック、メンタルヘルス・ハラスメント研修、外部相談窓口等。メンタル不調者(休職者・離職者)の増加、健康経営有料法人の取得に向けて、ストレスチェックの結果活用、など企業のニーズにお応えします。 エムステージ 産業保健トータルサポート



■よく読まれている関連記事■

  2023年4月より「第14次労働災害防止計画」がスタート 2023年4月より「第14次労働災害防止計画」がスタートします。国から公表されるこの労働災害防止計画を基本とし、以降5年間の労働災害の防止や働く人の健康保持・増進を推進していくことになります。計画には様々な内容が盛り込まれていますが、本記事ではその要点をピックアップしてお伝えします。 エムステージ 産業保健サポート
  【労基署の元署長が解説】衛生委員会を有効活用するためのヒント 企業が衛生活動を進めて行く上で、衛生委員会はその活動の主軸となる重要な機能を持っています。元労働基準監督署長であり、労働衛生コンサルタントとしてご活躍されている村木宏吉先生に、衛生委員会の有効活用のポイントについて解説していただきました。 エムステージ 産業保健サポート
  【2023年版】衛生委員会のマンネリ化を防ぐ主な5つの解決策 2023年1月26日最終更新:衛生委員会のマンネリ化を防ぐ具体的な5つの解決策を紹介します。テーマの選出や職場へのフィードバック、産業医との上手な連携など「なんとなく始まってなんとなく終わっている…」を解決! エムステージ 産業保健サポート


サンポナビ編集部

サンポナビ編集部

企業の産業保健を応援する『サンポナビ』編集部です。産業医サポートサービスを提供している株式会社エムステージが運営しています。 産業医をお探しの企業様、ストレスチェック後の高ストレス者面接でお困りの企業様は、ぜひお問い合わせボタンからご相談ください。

関連記事


\導入数4,600事業場!/エムステージの産業保健サービス