【社労士監修】「年始休暇延長」期間に有給休暇の“計画的付与”はOK?
最終更新日:2020年10月27日
企業は「年間5日」、従業員に年次有給休暇(以下、有給休暇といいます)を取得させることが義務となっています。
そこで注目される有給休暇「計画的付与」。そのポイントとはどのようなものでしょうか。
また、2021年の「年始休暇延長」期間中に計画的付与を行う際の注意点などについて、社会保険労務士の川越雄一先生に監修・解説していただきました。
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年次有給休暇:勤務年数と付与日数の関係などをおさらいする
有給休暇、勤務年数と付与日数の関係
はじめに、「有給休暇」についておさらいしておきましょう。
雇い入れた日から6か月間継続勤務し、その期間における全所定労働日の80%以上出勤した労働者には、有給休暇が付与されます(労働基準法 第39条 第1項)。
勤務年数と付与日数の関係については次の表で確認しておきましょう。
●勤務年数と有給休暇の付与日数
勤続勤務年数 |
0.5年 |
1.5年 |
2.5年 |
3.5年 |
4.5年 |
5.5年 |
6.5年以上 |
付与日数 |
10日 |
11日 |
12日 |
14日 |
16日 |
18日 |
20日 |
●パートタイム労働者の有給休暇、付与日数はどうなる?
上述したのは、いわゆる正社員の場合の付与日数です。
では、1週間あたりの労働時間が30時間未満などのような、パートタイム労働者の場合はどうでしょうか。
パートタイム労働者の場合は、週または年間所定労働日数に応じて比例付与されます。
所定労働日数・継続勤務の年数・付与日数の関係は次の表のようになっています。
出典:岡山労働局「年次有給休暇の計画的付与制度の導入に向けて」
有給休暇を取得する“日”は、労働者の意思をできる限り尊重する
「計画的付与」について触れる前に、大前提として有給休暇の取得日は「労働者の意思」を尊重する必要があることを覚えておきましょう(労働基準法施行規則 第24条の6)。
また、有給休暇の取得による不利益取り扱いも禁止されています。
例えば…
「みんなが頑張っているのに、君だけ有給休暇を使ったから、給料を減額するね」
「有給休暇を使ったから、皆勤手当は無しだよ」
といった風に、有給休暇を取得したことを理由として不利益な取り扱いを行うことはNGです。
有給休暇の取得日については、できる限り労働者の意思を尊重してください。
有給休暇を「年5日」取ってもらわないと会社に罰金が…
労働基準法の改正により、年間10日以上有給休暇が付与される労働者に対して「有給休暇を5日間取得させること」が企業の義務となりました。
これは、新しいルールとして2019年4月からスタートしています。
労働者が自主的に有給休暇を取得してくれれば問題ありませんが、労働者が年次有給休暇を「年5日」取得していない場合には、会社に罰金が科せられることもあるため、経営者・人事の方は注意しましょう(労働基準法 第120条)。
とはいえ、業務の都合などから、現実問題としてどうしても労働者に有給休暇をとってもらえないケースもあります。
―この「年5日」を会社はどうクリアするか?
「年次有給休暇の計画的付与」は、こうした問題を解決するために有効な手段となります。
年次有給休暇「計画的付与」に関する主な3つのルール
年次有給休暇の「計画的付与」とは
「計画的付与」とは、シンプルに言えば「労働者の有給休暇を、会社が指定した日に使ってもらう」というものです。
計画的付与日は「全社一斉」「グループ別」「個人別」に設定可能です。
有給休暇の計画的付与、制度の運用には大きくわけて「3つのルール」がありますので、ひとつずつ確認しておきましょう。
〈ルール①〉「就業規則」に規定する
…年次有給休暇の計画的付与、制度を導入する場合には就業規則に定める必要があります。
〈ルール②〉「労使協定」を締結する
…計画的付与を行う場合には、就業規則の定めるところにより、労働者(※)と書面による協定を事前に締結する必要があります。
※従業員の過半数で組織する労働組合、ない場合は従業員の過半数を代表する労働者。
〈ルール③〉労働者が自由に使える「5日間」を残す必要がある
…計画的付与は、有給休暇すべてに認められているわけではありません。従業員が病気などの理由で取得できるようにするため「自由に使える5日間」を残しておく必要があります。
2021年「年始休暇延長」の期間を“有給休暇の計画的付与日”にすることは可能?
2021年の「年始休暇延長」1月4日~1月8日を“有給休暇の計画的付与日”にできる?
2020年10月26日現在、メディアでは「年始休暇延長」の話題で持ちきりです。
2021年の年始は、多くの企業で仕事始めとなる1月4日が月曜日ということで例年より休暇が短くなります。
また、新型コロナ禍で人の動く日数が限定的になると考えられ、その分散を目的とした「年始休暇延長」がテーマとなっています。
「年始休暇延長」により、仕事始めの日を1月11日にする案が出てきていますが、そうなると企業は1月4日(月曜日)から、1月8日(金曜日)までの5日間を休暇にする必要があります。
そこでこの「年始休暇延長」の期間を、有給休暇の計画的付与日として休ませることについて考えてみましょう。
もちろん、計画的付与日にできるのは、所定労働日だけであることは言うまでもありません。
「年始休暇延長」期間を有給休暇の“計画的付与”する際の注意点は?
有給休暇の計画的付与を、2021年「年始休暇延長」の期間に設定することをお考えの経営者の方も多いかと思います。
ただし、前述したように、有給休暇の計画的付与を行う際には、就業規則に根拠規定を設けた上で、労働組合あるいは労働者代表と事前に労使協定を結ぶ必要があります。
そしてその際には、必ず労働者の意思を尊重し、理解を得ることが重要です。
また、サービス業などでは「年始休暇延長」期間中の有給休暇の取得が難しいケースも多いと考えられます。
あるいは、お正月はわりと暇になるある部署だけが全員有給休暇扱いとなり、そのしわ寄せが“出社組”に及ぶような場合には、事前に話し合い、よく検討する必要があります。
さらに「自由に使える5日間」の有給休暇を確保できない労働者には、特別休暇付与などの措置が必要です。
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2020年は労務管理にとっても大きな変化のある1年となりました。
病気をはじめ、不測の事態に備え、有給休暇を大事にしたい従業員も多いはずですので、計画的付与については、労使間で納得のいく形で行うことが大切です。
また、適切に休暇を取ることは、健康経営や産業保健の観点からも、とても重要になります。
解説:川越雄一(かわごえ・ゆういち)
川越社会保険労務士事務所所長。平成3年に社会保険労務士を開業し、現在宮崎県内を中心に130社を超える企業の労務指導に携わる。「人を大切にする経営学会会員」。著書に『スグできる!人材定着25の実践-もう誰も潰さない!辞めさせない!―』等がある。
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