災害・感染症対策の事前準備を企業ですすめる時のポイント
「防災」は「災い(わざわい)を防ぐ」という意味ですが、実際には、地震や風水害などの発生を防ぐことはできません。
そこで企業は、そのような災害が起こる前に準備をすることで、災害による被害を少しでも小さくすることが重要です。
今回は、地震や台風などの自然災害、そして感染症に対して、事前に進めておくべき活動のポイントを説明します。
目次[非表示]
- 1.地震に対する事前準備
- 1.1.建物の耐震診断と耐震化工事
- 1.2.建物内の設備・什器備品の固定
- 2.台風に対する事前準備
- 2.1.設備などハード面の対策
- 2.2.従業員の出社・退社に関する考え方
- 3.インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などの感染症に対する事前準備
- 3.1.感染症に対する正しい理解が必要
- 3.2.感染防止に必要な備蓄品の確保
- 3.3.自社の感染症対策を見直す
解説:本田茂樹
三井住友海上火災保険株式会社に入社後、リスクマネジメント会社の勤務を経て、現在はミネルヴァベリタス株式会社の顧問であり信州大学にて特任教授も務める。
リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。
これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭を執るとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。
地震に対する事前準備
地震に対する事前準備の目的は、大きく激しい揺れから「従業員の命」と「会社資産」を守ることです。
建物の耐震診断と耐震化工事
会社の経営資源において重要なもの、例えば、従業員や生産設備、そして商品在庫などは、自社のビルや工場・倉庫に存在します。
もし、それらの建物が地震の揺れで倒壊すると、多数の従業員が負傷したり、また設備や什器備品に大きな被害が発生します。
そこで、自社の建物が大きな地震の揺れに耐えられるかどうか、専門家の診断を受けて判断することが求められます。
そして、その耐震診断の結果に基づき、必要に応じた耐震化工事を実施することで、建物そのものの被害、さらに建物内の従業員や設備・什器備品の被害を小さくすることができます。
また、建築された時点で耐震基準を満たしている場合でも、時間の経過とともに建物が老朽化していることも考えられますから、耐震診断を受けることが推奨されます。
建物内の設備・什器備品の固定
建物のそのものに大きな被害がない場合でも、内部の設備・什器備品には被害が発生する可能性があります。
具体的には、固定されていない設備や什器備品は、激しい揺れによって、移動、あるいは転倒し、また高い場所に設置されているものは落下することが考えられます。
そこで、設備・什器備品については、固定するなどして転倒や落下を防ぎます。
特に、製造現場で機械類を固定していないと、転倒によって機械そのものが損傷するだけではなく、従業員が負傷する、また避難経路をふさぐことが考えられますから、的確に実施しましょう。
台風に対する事前準備
台風は、地震のような突発的な災害ではなく、被害に見舞われる可能性を事前に予測することができます。
台風が上陸する2~3日前までには、自社の所在する場所が大きな影響をうけるかどうかが明らかになりますから、その段階から準備行動を強化しましょう。
また、自治体が公表している「洪水ハザードマップ」や「高潮ハザードマップ」には、実際に水害が発生した場合にどれくらいの範囲で被害がでるのか、またその際の浸水深がどのくらいかなどの情報が示されています。
企業は、これらの情報も十分に活用して、台風に対する準備を進めることが求められます。
設備などハード面の対策
台風による雨や風から、従業員の命や設備・機器を守るために、次に示すハード面の対策を進めます。
- 排水溝や側溝を点検し、ごみや落ち葉を取り除く
- 建物の外に置かれている植木鉢など、風で吹き飛ばされる可能性があるものは屋内に入れる
- 窓ガラスに飛散防止フィルムを貼る(ない場合は、養生テープで代用する)
- ブラインドやカーテンは閉める
- 電子機器類など濡れ損が発生するものは、高所に移動する
- 土のうや止水板を準備する
- 半地下や地下にあり、スロープを使って入出庫する方式の駐車場で、外部からの浸水を防ぐことが難しい場合は、事前に車両を安全な場所に移す
- 防災備蓄で不足しているものや期限が切れているものは補充する など
また、建物の外で行う作業は、風雨が強まる前に終えておきましょう。
従業員の出社・退社に関する考え方
従業員の出社・退社のタイミングが、台風の接近によって風雨が強くなる時間帯と重なる場合、従業員の安全確保を最優先とした指示を出すことが重要です。
- 会社に出勤した後、風雨が強まり帰宅が危険であると考えられる場合は、風雨がおさまるまで従業員の帰宅を抑制し、必要に応じて宿泊対応も検討する
- 翌日の出勤時間帯に風雨が強まると考えられる場合は、在宅勤務にする、あるいは風雨がおさまってから出勤するなどの指示を出す
- 月曜日など、休日の翌日に風雨が強まる場合は、休前日に指示を出す など
このような対応、特に在宅勤務や宿泊対応には準備期間が必要です。
平常時にこそ、在宅勤務システムの構築、計画運休が実施された際の社内ルールの作成、そして会社での宿泊体制の準備などを進めておくことが求められます。
インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症などの感染症に対する事前準備
感染症の流行が社会的にも大きな話題となることが増えています。
感染症は、その発生そのものを止めることはできませんが、的確な準備を行うことで、従業員の感染リスクを抑えることが極めて重要です。
感染症に対する正しい理解が必要
感染予防のためには、それぞれの感染症に対する正しい理解が必要です。職場で流行する可能性がある感染症の症状や感染経路、そして感染防止対策などを知り、それらを全従業員で実践することが求められます。
そのためには、平常時から衛生委員会などを通じて産業医とも連携し、従業員に対して感染症に関する正しい知識を啓発しておくことが非常に重要です。
感染防止に必要な備蓄品の確保
感染防止に必要とされる手指消毒用アルコール剤、咳エチケットに必要なマスク、またドアノブなどを消毒する次亜塩素酸ナトリウム液などの備蓄は、平常時に終えておくことが大切です。 流行期に入ってしまうと、それらの物資が市場から払底することが考えられるからです。
自社の感染症対策を見直す
日本では、当時は新型インフルエンザと呼ばれた「インフルエンザ(A/H1N1)2009」が、2009年から2010年にかけて流行しましたが、そのタイミングで自社の感染症対策を構築したという企業が多くあります。
しかし、その後、新型コロナウイルス感染症などの新たな感染症の流行や「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の制定・改正など状況の変化が見られますから、これを機会に自社の感染症対策を見直すことをお勧めします。
具体的には、企業のBCP(事業継続計画)を策定していき、適切な対応を行うことが今後は必要になってくると思われます。
〈解説者のプロフィール〉
本田茂樹(ほんだ・しげき)
三井住友海上火災保険株式会社に入社後、リスクマネジメント会社の勤務を経て、現在はミネルヴァベリタス株式会社の顧問であり信州大学経営大学院にて非常勤講師も務める。リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。
これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭を執るとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。
近著に「中小企業の防災マニュアル」(労働調査会)「健康長寿のまちづくり-超高齢社会への挑戦」(時評社)などがある。
【関連リンク】
近著「中小医療機関のための BCP策定マニュアル」(株式会社社会保険研究所)
【セミナー情報】
2020年10月29日:今、医療機関に求められるBCP(事業継続計画)(防犯防災総合展2020)
2020年10月30日:SDGsにおける防災と事業継続〜2030年に向けた取り組み〜(防犯防災総合展2020)
2020年11月12日:新型コロナウイルス感染症流行下の防災とBCP ~想定外を作らない
2020年11月13日:地震、台風、感染症に備える、最新『BCP(事業継続計画)』の策定と見直し