視野を広げることが、仕事の悩みの突破口に


もしブラック・ジャックが仕事の悩みに答えたら。企業で人事部としての勤務経験があり、現在は企業のメンタルヘルス向上や人事労務問題のコンサルティングを手掛ける尾﨑健一氏(臨床心理士)が、そんな本を出版した「仕事の悩みの突破口は、たいてい、少しだけ視野を広げることにある」と話す尾崎氏に、本書を書いた狙いを聞いた。


尾﨑 健一(おざき・けんいち)


シニア産業カウンセラー、臨床心理士

1967年生まれ。外資系コンピューターメーカー在職中に職場のメンタルヘルスに関心を持ち、臨床心理士を目指して早稲田大学大学院に進学。その後、半導体メーカーの人事部、EPA(従業員支援プログラム)会社勤務を経て、2007年独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、組織のメンタルヘルス向上や人事労務問題のコンサルティングを手掛けている。そのかたわら研究を続け、秋田大学大学院で博士号取得(医学)。


「もしブラック・ジャックが仕事の悩みに答えたら」を出版


―2018年11月に「もしブラック・ジャックが仕事の悩みに答えたら」を出版されました。会員でもある産業カウンセラー協会の会報誌に書かれていた連載がもとになっているそうですね。


会員でもある産業カウンセラー協会から「会報誌に何か書きませんか」と依頼され、何を書こうか考えたのがきっかけです。せっかくなら、自分の好きなものとメンタルヘルスを組み合わせてみたいと思い、なじみやすく、説得力がある題材として、すぐにブラック・ジャックが浮かびました。

ブラック・ジャックは、一人一人をまっすぐに見つめ、自分の価値基準に従って、首尾一貫した行動をとります。そんなブラック・ジャックが仕事の悩みに答えたら、どういうことを言うのだろうという妄想から始まりました。産業カウンセラー協会が手塚プロダクションさんに協力を依頼、企画が実現しました。会報誌には、2018年春まで約2年間連載しました。



―ブラック・ジャックはもともと好きだったのですか


そうですね。子供のころから好きな漫画です。私はそれほど漫画を読む子供ではなかったのですが、ブラック・ジャックは家に全巻そろっていて、何回も読んだのを覚えています。

当時、過激な手術シーンやあっと驚くストーリー展開に魅了されました。そして、大人になってからも、歯科医院や図書館で見かけるたびに、読み返しました。そのとき、子供のころとはまた違った感想や新しい発見があると気づいたのです。

ブラック・ジャックに取り上げられている主なテーマは、命の大切さや道理など、普遍的に大切なことばかりです。それはいろいろな立場の人の心に、さまざまな観点から刺さるのではないかと思っていました。


人間の本質を描いたブラック・ジャックはメンタルヘルスにつながる


―ブラック・ジャックと「仕事の悩み」とは意外な組み合わせですね


以前は「仕事の悩みを自信に変えるドラッカーの言葉」という、ドラッカーの言葉からさまざまなメンタルヘルスの問題への対処法を探る本を書きました。ドラッカーは、「人間の本質から言うと、経営とはこういうこと」と言っています。

ブラック・ジャックも、手塚治虫が人間の本質について描いた作品です。人間の本質は、当然メンタルヘルスに関わってきますよね。どちらも仕事の悩みにつながっても不思議ではないのです。


―本書は「仕事でこじれる人間関係」「部下のボヤキ」「上司のボヤキ」「キャリアの分かれ道」の4章に分けた13個の「カルテ」で構成されていますね。


はい。それぞれのカルテには、

①【ある職場で】ある職場でのビジネスパーソンのボヤキ

②【ある一話】その悩みに対してヒントになりそうなブラック・ジャックのエピソード

③【ここに注目】そのエピソードがどのようにヒントになるのかの考察と、ブラック・ジャックならなんとアドバイスするのかについての“妄想”

―を書きました。



​​​​​​​実際に相談を受けた事例やよくあるケースをモデルに


―【ある職場で】には、「営業と対立する在庫管理のリーダー」や「凸凹チームを率いる新米マネージャー」、「総合職への転換をためらうアシスタント」などさまざまな立場で働く人の具体的な悩みの事例が出てきます。実際に相談を受けた事例ですか


基本的には実際に相談を受けた事例やよくあるケースをモデルとして出しています。細かい設定をリアルに表現しようというより、読者の経験に結び付きやすいように再構成しました。

読者のみなさんが、事例の登場人物に共感しやすくなっているといいなと思います。


―ブラック・ジャックのエピソードはどのように選びましたか


カウンセリングや人事コンサルティングをしていると、多くの働く人の悩みに接します。ブラック・ジャックを読んで、「ああ、これはこういう相談へのアドバイスにつながるな」と感じることが度々ありました。


仕事の悩みの突破口は、たいてい、少しだけ視野を広げることにあります。この本を通して言いたいことは、悩みを減らすために視野を広げようということです。そのため、紹介するブラック・ジャックのエピソードは、一見、悩み事例と遠そうなものの方がいいと思いました。ストレートなメッセージは「そうだね」と終わってしまいがちですが、そこに解釈が加わると、そのメッセージは心により刺さりやすくなります。「このエピソードはだいたいこう受け止める人が多い、でもこういう解釈もあるよね」という順番で伝えたかったのです。


広く活用されている心理療法の中に、「認知行動療法」というものがあります。平たく言うと、ある一面しか見ていない偏った思考を、様々な角度から検証し直すといったものです。例えば、仕事で失敗して「きっと仕事ができない奴だと思われたに違いない」と落ち込んでいる新入社員が、「一度も失敗しない人はいないのか?」と考えてみることで立ち直れることがあるでしょう。根拠のない「きっと」「間違いない」「いつも」といった思考も、少し視野を広げてやることで気分が楽になります。

この本は、もともと認知行動療法をベースとして書いた訳ではなかったのですが、結果的に、ブラック・ジャックを通すことで認知行動療法にも通じる本になりました



“何を語るか“より“誰がどのタイミングで語るか“が大切なときも


―この本をどのような人に読んでほしいですか


「手塚治虫の作品は『過去のもの』『子供向け』」と思って、「読んだことがない」という人に読んで欲しいです。本書は仕事の悩みと結びつけてあるので、「現代の大人にも通用する何かがある」と感じてもらえるのではないでしょうか。

また、ブラック・ジャックを読んだことがある方にも原作を振り返る意味で読んでもらいたいですね。手塚プロダクションの協力を得て、原作漫画の名シーンをふんだんに掲載していますので、以前の感想を思い出しつつ、新しい視点を発見してもらえたらうれしいです。


―企業の人事労務担当者には、この本をどのように活用してほしいですか


私自身、人事担当時代もコンサルタントの立場でも、社員に「何をどう伝えるか?」に苦労してきました。例えば部下に不満を持つ管理職に「ないものではなく、あるものに目を向けましょう」とか、上司に不満を言う部下に「相手は変えられない、自分を変えよう」と言っても、「きれいごとだ」「そんな当たり前のことを」と受け入れてもらえないことも多いのです。そんなわかりきったことも、ブラック・ジャックのストーリーを読んだ後なら意外と納得されるかもしれません。

“何を語るか“よりも、“誰が、どのタイミングで語るか“が大切なときがあります。他人のアドバイスにはなかなか耳を傾けられない人に、ブラック・ジャックの言葉を使ってみるのはいかがでしょうか。


もしブラック・ジャックが仕事の悩みに答えたら

価格:1,512円

発行元:日経BP社


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