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<産業医コラム>海外渡航、その前に~健康管理の注意点~

コロナ禍が明けて、ようやく海外への渡航も自由にできるようになり、海外赴任や出張の機会も増えてきているのではないでしょうか。いざ海外へ、となったとき、どのような準備が必要か、また体調管理の面でどのような点に気を付ければよいか、など、出張先の状況に合わせた情報収集が必要になります。今回、海外渡航における情報収集に関する要点を簡単にまとめていきます。

1.事前準備

まずは出張先がどのような地域かを確認した上で、下記の内容に関して準備を進めていきます。出張先の地域の情報については、下記リンクをご参照ください。

厚生労働省 FORTH: https://www.forth.go.jp/index.html
外務省 世界の医療事情: https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/index.html

  • 予防接種:出張先の国や地域で推奨される予防接種(黄熱病、肝炎、狂犬病など)を確認し、必要な場合は早めに接種します。予防接種によっては接種回数や間隔が決まっており、医療機関の受診からすべての接種を終えるのに2か月近くかかることもありますので、注意しましょう。海外渡航に関する予防接種情報は厚生労働省 FORTH「海外渡航のためのワクチン」(https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/useful_vaccination.html)をご参照ください。
    また、海外渡航者向けの予防接種を取り扱っている医療機関の情報については、日本渡航医学会のホームページ(https://plaza.umin.ac.jp/jstah/02travelclinics/index.html)で検索することができます。

  • 医療保険の確認:出張中に適用される医療保険を確認し、海外での医療費や緊急搬送がカバーされているか確認します。必要であれば、追加の保険に加入しましょう。

  • 常備薬の準備:慣れない環境で体調を崩す可能性があるため、常備薬(風邪薬、消化薬、鎮痛薬など)や自分の持病に対応する薬を持参します。特に、高血圧や糖尿病など、毎日継続して内服する必要がある薬については、出張中に内服の継続が途切れないよう、出張期間より1~2週間ほど多めに医療機関から処方してもらいましょう。薬の持ち込みに関する現地の規制も確認してください。

2.出張中の健康管理

  • 現地の水・食事に注意:特に衛生状態が懸念される地域では、飲み水や氷に注意し、屋台などの不衛生な場所での食事を避けましょう。サラダに使用する生野菜の洗浄や、ジュースに入っている氷に水道水が使われていることもありますので、注意が必要です。できるだけ瓶入りの水や加熱された食べ物を選びましょう。また、エチオピアなどアフリカの地域によっては生肉を食べる習慣がありますが、腸管出血性大腸菌感染症など細菌性腸炎のリスクが非常に高まりますので、生肉の摂取は避けましょう。

  • 感染症対策:出張先によってはマラリアやデング熱などの感染症が流行していることがあります。蚊に刺されないように長袖を着用したり、虫除けを使用したりすることが重要です。虫除けは、虫除け効果の高い「ディート」という成分が30%含まれるものを選びましょう。また、虫除けは日に何回か塗り直すようにすると効果的です。

  • 睡眠と休息:時差ぼけや慣れない環境でのストレスが溜まりやすいため、十分な睡眠と休息を心がけましょう。可能であれば、出張前に少しずつ現地の時間に体を合わせておくとよいです。また、出張地域が高地の場合、酸素濃度が低く高山病のリスクがあります。高地に順応するには時間がかかりますので、出張の際は余裕を持った日程を組みましょう。

  • 水分補給:長時間の移動や慣れない環境での活動は脱水症状を引き起こしやすいため、適度な水分補給を忘れないようにします。暑い中での屋外活動が想定される場合は、経口補水液の粉末タイプを持参するのもおすすめです。

  • 定期的な運動:可能であれば、軽い運動やストレッチを行うことで、体調維持とストレス解消に役立ちます。

3.トラブル発生時の対応

  • 現地の医療機関情報を確認: 到着後すぐに、現地で信頼できる医療機関の場所や緊急連絡先を確認しておきましょう。事前に前述の厚生労働省や外務省のホームページで、出張先の地域の医療機関情報を確認しておくこともおすすめです。また、宿泊先や企業の現地オフィスに問い合わせることで、迅速に対応できる情報を得られることがあります。

  • 緊急連絡先の確保: 出張中に健康問題が発生した場合にすぐに連絡できるよう、会社の健康管理部門や現地の連絡先を把握しておきましょう。

  • 自分の体調変化に敏感になる: 疲れやすさや軽い体調不良でも無視せず、早めに対応することが大切です。

4.帰国後の健康管理

  • 帰国後の健康状態の確認: 帰国後もしばらく体調を観察し、異変があればすぐに医師に相談しましょう。特に、長期的に影響が出る可能性がある感染症の症状に注意を払いましょう。マラリアやデング熱など、海外での感染が疑われる場合は、日本渡航医学会に掲載されている「帰国後診療機関リスト」に掲載されている医療機関を受診されることをおすすめします。(https://plaza.umin.ac.jp/jstah/03posttravel/index.htm)

海外渡航では、慣れない環境で体調を崩す場面も多く想定されます。上記事項について準備をし、健康に気をつけながら効率的に出張を行いましょう。

文章出典:人事・総務向け「ウェルビーイング経営」サポートメディア「ウェルナレ」専門家記事より寄稿​​​​​​​

末永 麻由美

末永 麻由美

日本医師会認定産業医 日本小児科学会専門医 日本結核・非結核性抗酸菌症学会認定医 健康経営エキスパートアドバイザー 大学病院、市中病院、小児専門病院、結核専門研究機関での勤務、保健所での行政医師としての勤務を経て、予防医学に興味を持ち、2023年より産業医として活動開始。専門は小児科、結核診療。

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