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仕事と不妊治療の両立支援とは?働き続けられる職場づくりのポイントを解説


出産年齢の高齢化に伴い、仕事をしながら不妊治療を受ける人も珍しくなくなりました。不妊治療は通院スケジュールの調整しにくさなどの負担が大きく、仕事との両立に困難さを抱える従業員が少なくありません。

企業は、従業員が長く働き続けられるために、仕事と不妊治療の両立支援を推進することが求められています。しかし、デリケートな問題ゆえに、どのように支援すればよいか分からない人事担当者の方も多いのではないでしょうか。

本記事では、仕事と不妊治療の両立を推進するために求められる施策を紹介します。不妊治療の流れや支援状況、取組を推進する企業の事例も解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

不妊治療とは?

不妊治療とは


不妊とは、男女が妊娠を希望して性交渉を行っているにもかかわらず、一定期間妊娠しない状態を指します。日本産科婦人科学会の定義では、1年間不妊の状態であると「不妊症」とされます。

不妊治療の実際の流れや通院頻度について解説します。

参考:不妊症│公益社団法人日本産科婦人科学会

一般的な不妊治療の流れ

一般的な不妊治療は、検査により不妊の原因を特定し、原因に応じた治療を行います。

不妊検査による原因の特定

不妊の原因が男女どちらにあるのかを調べ、特定を行います。女性はエコー検査や血液検査を行い、ホルモン分泌や子宮内の異常がないかを確認します。月経ごとの検査が必要であり、痛みを伴う検査もあることから、身体的な負担が大きいでしょう。

男性は精液検査を行い、精子の量や運動量などから、性機能障害がみられないかを確認します。

ただし、検査を行っても原因を特定できないケースも珍しくありません。そのため、負担をかけて検査を行っても原因が分からず、精神的に疲弊しやすいといえるでしょう。

参考:Q7.不妊症の検査はどこで、どんなことをするのですか?│一般社団法人日本生殖医学会

原因に応じた不妊治療

原因に応じた不妊治療を行い、妊娠を促します。原因が特定できない場合も、排卵の誘発などの方法を用いて治療するのが一般的です。不妊治療には、以下のように「一般不妊治療」と「生殖補助医療」がありますが、方法や必要な期間は治療法により異なります。

一般不妊治療

タイミング法や排卵誘発法、人工授精など。原因を調べてから治療を始めるため、半年から1年以内と比較的時間を要する。

生殖補助医療

体外受精や顕微授精(卵子に直接的に精子を注入する方法)。一般不妊治療でも効果が得られない場合に行う。3~6か月と一般不妊治療に比べ早く開始できる。


参考:Q8.不妊症の治療にはどんな方法があり、どのように行うのですか?│一般社団法人日本生殖医学会

仕事と不妊治療の両立支援とは

仕事と不妊治療の両立支援とは

不妊の検査や治療を受けたことがある、もしくは現在受けている夫婦は22.7%です。約4.4組に1組の割合で治療経験があり、不妊治療を受けて出産する夫婦の数は少なくありません。

不妊治療経験者のうち、26.1%が仕事と治療の両立ができずに離職や雇用形態の変更、不妊治療を諦めていることが分かっています。通院回数の多さによる精神的負担や業務調整の困難さから、不妊治療と仕事の両立に難しさを感じるようです。

仕事と不妊治療の両立状況

仕事と不妊の両立状況グラフ


従業員が安心して長く働き続けるため、不妊治療を受けながらも就業を継続できる環境整備が企業に求められています。

仕事と不妊治療の両立が困難な理由


仕事と不妊治療の両立が困難な理由

以下のように、不妊治療と仕事の両立が困難な理由として以下の3つが多いといえます。

  • 急な通院が必要
  • 精神面での負担
  • 体調不良や体力面での負担

仕事と治療の両立ができなかった理由


仕事と治療の両立ができなかった理由グラフ

急な通院が必要

不妊治療は、月経周期に合わせて行うため、通院の予定を立てにくいでしょう。例えば、女性が体外受精を行う場合、月経開始から2~3日目に受診するように指示されることがあります。

予定よりも早く月経が来た場合、急に業務を調整して通院のための日程を確保する必要があります。しかし、調整ができずに通院ができない場合もあるでしょう。

急な通院の必要性が生じ、日程調整がつかず適切に治療が進まないことが困難さの一つです。

精神面での負担

頻繁な来院が必要であり、治療によっては決められた時間での内服、注射が必要な場合もあるため、エネルギーを消耗しやすいでしょう。

また、不妊治療を行っても必ず妊娠が成立するとは限りません。加齢とともに流産のリスクも高まるため、妊娠が成立しても流産となってしまう可能性もあります。

治療プロセスの中で期待と失望が繰り返され、「治療の終わりがみえない」といった精神面の負担が大きいでしょう。

体調不良や体力面での負担

ホルモン剤注射による副作用で、頭痛、腹痛、めまい、吐き気などの体調不良が生じるケースがあります。

特に、体外受精では体内から卵子を取り出す「採卵」は、身体へ負担がかかります。採卵した日は腹腔(ふくこう)内の出血が生じやすいため、仕事を休むことが望ましいとされています。

体力的にも負担がかかる治療であるため、仕事と両立して取り組むことが難しいでしょう。

不妊治療で休む頻度はどれくらい?

不妊治療に要する通院日数の目安

引用:不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル│厚生労働省

上記の表にあるように、月経周期ごとに通院頻度が変わります。月経のタイミングに合わせて受診する必要があり、予定を立てにくいでしょう。また、生殖補助医療の場合、女性は頻繁な来院が必要であり、身体的な負担が伴います。

不妊治療のための休暇制度は義務?

不妊治療を行うための休暇制度は、企業の義務ではありません。

しかし、厚生労働省では、次世代育成支援対策推進法にもとづく行動計画指針として、不妊治療のための休暇制度や有給休暇、柔軟な働き方などの対策を推進しています。

特に、不妊に関する相談を行う不妊専門相談センターや不妊治療費の助成事業など、不妊治療を受けやすくする取組が行われています。
国の施策としても、不妊治療を受けやすくする休暇制度はできるだけ設けることが望まれています。

参考:次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画策定指針の改正について│厚生労働省

休暇制度を設けると「くるみんプラス認定」へ

くるみん認定制度とは、一定の基準を満たした企業が「子育てサポート企業」として認められるホワイトマークのひとつです。次世代育成支援対策推進法にもとづく一般事業主行動計画を策定し、目標が達成されて企業が認定されます。

令和4年4月より、不妊治療と仕事の両立をしやすい職場環境の整備に取り組む企業についても「くるみんプラス」として認定する制度が創設されました。認定されるとマークを広告やWebサイトなどに使用でき、企業のイメージアップやアピールにつながります。

くるみんプラスとして認定される基準は以下の通りです。休暇制度や柔軟な勤務制度、方針の周知、研修実施などが条件として挙げられています。

認定基準

内容


次の(1)及び(2)の制度を設けていること


(1)不妊治療のための休暇制度(不妊治療を含む多様な目的で利用することができる休暇制度や利用目的を限定しない休暇制度を含み、年次有給休暇は含まない。


(2)不妊治療のために利用することができる、半日単位・時間単位の年次有給休暇、所定外労働の制限、時差出勤、フレックスタイム制、短時間勤務、テレワークのうちいずれかの制度



不妊治療と仕事との両立に関する方針を示し、講じている措置の内容とともに社内に周知していること。

不妊治療と仕事との両立に関する研修その他の不妊治療と仕事との両立に関する労働者の理解を促進するための取組を実施していること。

不妊治療を受ける労働者からの不妊治療と仕事との両立に関する相談に応じる担当者(両立支援担当者)を選任し、社内に周知していること。

引用:プラス認定とは│厚生労働省をもとに作成

厚生労働省が認定する制度であり、国の施策としても、不妊治療と仕事の両立支援が重要視されているものといえるでしょう。

不妊治療と仕事の両立に対する企業の支援状況

不妊治療と仕事の両立に対する企業の支援状況

不妊治療と仕事の両立が困難だと感じる従業員が少なくない中、企業として十分に支援を行えているとはいい難い現状があります。従業員のプライベートな問題であるため企業は状況把握ができず、適切な支援につながりにくいようです。

約6割の企業で不妊治療を行う従業員の把握ができていない

厚生労働省の調査では、約6割の企業で、不妊治療を行う従業員を把握できていないことが分かっています。さらに、約7割の企業が不妊治療のための支援制度を実施していません。企業が従業員の不妊治療を積極的に支援しているとは言い難い状態といえるでしょう。

不妊治療を行っている社員の把握状況

不妊治療を行っている社員の把握状況

不妊治療を行っている社員が受けられる支援制度等の実施状況

	不妊治療を行っている社員が受けられる支援制度等の実施状況

プライバシーに関わる問題ゆえに対応に苦慮している

以下のように、従業員への支援が充実していない理由として、「要望等が表面化していないため」が4分の1を占めています。従業員からサポートを求める声が企業側に届きにくい状況にあることがうかがえます。

不妊治療を行っている従業員が受けられる支援をしていない理由

	不妊治療を行っている従業員が受けられる支援をしていない理由.

引用:令和5年度不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査│厚生労働省

一方で、不妊治療を行っていることを職場に伝えない人が半数近くにのぼっています。従業員側の思いとしては、職場に隠しておきたいという気持ちが強いことがうかがえます。

背景にある理由として、「伝えなくても支障がない」が最も多く、サポートがなくても問題がないと考える従業員も一定数存在しています。しかし、「周囲に気遣いをしてほしくない」「うまくいかなかったときに職場にいづらい」という対人関係上の理由も多い傾向にあります。

不妊治療の職場への共有状況

不妊治療の職場への共有状況

職場でオープンにしていない理由

職場でオープンにしていない理由


以上のように、不妊治療はデリケートな問題であるため、従業員から声を上げにくく、要望が表面化しにくい現状があります。企業側もプライバシーに配慮する必要があるため、踏み込みにくさを感じており、支援が思うように進んでいないといえるでしょう。

不妊治療と仕事の両立支援に求められる5つの施策

不妊治療と仕事の両立支援に求められる5つの施策

従業員の不妊治療と仕事の両立支援のためには、次の5つの施策が求められます。

  • 相談窓口の設置
  • 勤務制度の見直し

  • 休暇制度や治療費助成の整備

  • 管理職への研修

  • 不妊治療に関する情報提供

相談窓口の設置

従業員が安心して相談でき、かつ専門的なアドバイスが受けられるように相談窓口を設置するとよいでしょう。不妊治療に関する悩みは、デリケートな性質から社内では相談しづらいことがあります。また、助言には医学的な知識が必要なケースも多く、専門家ではないと対応が難しい可能性があります。

女性の健康課題に詳しい専門家に相談できる外部相談窓口の設置を行い、従業員が気軽に相談できる体制を整えましょう。

株式会社エムステージでは、産業医・保健師・心理職等の専門職と、スピーディーに面談設定ができる「Sanpo保健室」を提供しています。専属の産業医や保健師がいなくても、必要な分だけ面談の実施が可能です。
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勤務制度の見直し

フレックスタイムやテレワーク、残業時間の制限などの勤務制度を、不妊治療でも利用できるように見直します。例えば、午前中の通院が必要な従業員にはフレックスタイム、身体的負担が大きい治療を行う場合は残業禁止とするとよいでしょう。

就業規則の改定が必要となる場合もあるため、従業員からの希望を正しく反映させて見直しを行うことが大切です。

休暇や治療費助成制度の整備

不妊治療のための休暇制度を設けることで、従業員が安心して治療を受けられるようになります。休暇制度を整備する場合、以下のポイントを意識して設計するとよいでしょう。

  • 従業員が使いやすい休暇制度の名称
  • 半日、時間単位での有給休暇取得

  • 失効する有給休暇の積立て

また、福利厚生の一環として、高額な治療費がかかる不妊治療に関しては、一定額の助成や貸付制度を行う企業もあります。

管理職への研修

不妊治療と仕事の両立に関する普及啓発の実施状況

引用:令和5年度不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査│厚生労働省

上記のように、不妊治療の両立支援に対する社内の啓発活動を行っている企業は非常に少ないといえます。職場の風土や意識が変わらなければ、不妊治療のための制度を従業員が使いにくく、支援につながらない恐れがあります。

企業が研修を通して従業員に周知をはかる対策が必要です。特に管理職への研修が重要でしょう。日常的に相談連絡する対象は上司であるため、相談対応や制度の説明ができるよう研修教育を行う必要があります。

管理職の相談対応のポイントは以下の通りです。管理職の不妊治療への理解を深め、適切に相談対応できる体制を整えておきましょう。

  • 「従業員の不妊治療と仕事との両立を支援する」という企業メッセージを伝える。
  • 不妊治療による業務への影響や治療期間など、治療と仕事の両立の実態を把握する。

  • 治療との両立に関して、部下が抱える課題や必要なサポート、働き方のニーズを把握する。必要に応じて、不妊治療休暇やフレックスタイム制、一時的な業務分担などの配慮を検討する。

  • 不妊治療に関する情報はプライバシーに属することだと理解し、知り得た個人情報を適正に管理する。


参考:不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック│厚生労働省

不妊治療に関する情報提供

従業員が不妊治療に関する制度について知らないということがないように、情報提供を行う仕組みづくりも必要です。

研修で不妊治療に関する制度の説明をしたり、社内報での周知をはかったりするなど、人事部が中心となって周知します。また、管理職が部下に制度の説明ができるよう、研修を通じて理解を促す仕組みも求められます。

「不妊治療連絡カード」の活用

不妊治療を職場に知らせにくい従業員に対して効果的なツールなのが「不妊治療連絡カード」です。従業員に周知し、連絡方法を定式化しておくと、不妊治療を受けていることを知らせやすくなります。そのため、不妊治療を行う従業員を把握しやすくなるでしょう。

不妊治療連絡カードは、主治医が不妊治療の実施時期や特に配慮が必要な時期、具体的な配慮事項を記入するものです。従業員に必要な配慮と期間の根拠となるため、計画的な支援が可能となります。

参考:不妊治療連絡カードをご活用ください!│厚生労働省

不妊治療と仕事の両立を支援する企業事例

不妊治療と仕事の両立を支援する企業事例

不妊治療と仕事の両立を支援している企業の事例を3つ紹介します。

日本航空株式会社

日本航空株式会社では、女性従業員が半数を占めています。出産や育児のタイミングで離職が多いことを背景に、不妊治療や柔軟な働き方を支援する制度を導入しました。

不妊治療休職は、頻繁な通院が必要な生殖補助医療を行う場合、累計1年以内で2回まで分割して取得可能です。また、一般不妊治療に配慮し、失効した有給休暇を最大5日まで不妊治療のために活用できる制度も創設しました。

柔軟な働き方に関しては、勤務時間を10種類の時間帯から1日ごとに選べる「勤務時間帯選択制度」を整備しています。

業務調整が難しい不妊治療において、休暇や勤務体系を柔軟に対応できる制度に設計している点が同社の特徴です。

参考:不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル│厚生労働省
参考:DEI・福利厚生│日本航空

株式会社バンダイ

株式会社バンダイでは、従業員がより働きやすい環境のため、ライフステージやライフプランに応じた支援制度を整備しています。不妊治療を実際に行っている従業員へのヒアリングを行い、ニーズの高い制度を設けています。

休暇制度に関しては、1か月~1年間の休暇が取得可能です。不妊治療休暇などの直接的な名称ではなく、「こうのとり休暇」という従業員が利用しやすい名称を採用していましたが、全社的な周知に至らず、休暇制度の利用者が限定されていました。

そこで、2021年より従来の結婚休暇、看護・介護休暇と合わせた「ファミリーフレンドプラン」という名称での運用を開始しました。不妊治療としての休暇利用に抵抗感がある背景を踏まえ、休暇制度の一つとして従業員に認識してもらえるように取り組んでいます。

参考:事例4:株式会社バンダイ│家庭と仕事の両立支援ポータルサイト

株式会社大林組

株式会社大林組では、治療費の助成や貸付制度を拡充し、経済的な負担を軽減する施策で両立支援を行っています。

不妊治療の補助金制度は、2016年に共済会を通じて導入しました。共済会の会員と配偶者を対象とし、月1万円を上限に実費支給しています。

また、実費支給だけでなく、上限100万までの不妊治療費の貸付制度も実施しています。その他にも、妊活に関する検査や治療を割引価格で提供するなど、経済的な負担を減らす制度が同社の特徴です。

参考:不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル│厚生労働省

不妊治療との両立は専門職と連携した取組が重要

身体的にも精神的にも負担が大きく、職場で相談しにくいことが不妊治療と仕事の両立を困難にしています。
不妊治療との両立を企業全体の課題として捉え、従業員が安心して治療できる休暇制度や勤務体制の整備が必要です。さらに、管理職や一般従業員に対する普及啓発や組織の意識変革も求められます。

両立支援のために取り組むべき課題は多岐にわたりますが、いずれも医学的な知識を踏まえた支援が重要です。産業医や保健師などの専門職と連携し、実現性のあるサポートを実行していけるとよいでしょう。

株式会社エムステージでは、産業保健体制・健康診断・メンタルヘルス対策の3つを軸に、 健康経営に関するサポートを提供しています。人事労務課題にお困りの方はぜひ一度お問い合わせください。

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サンポナビ編集部

サンポナビ編集部

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