上司に本気の体当たり!ファンスポーツで新型健康経営
最近そこかしこで耳にする「健康経営」というワード。でも、「実際のところ、何をやれば良いの!?」と困っている人事・総務・労務担当者も多いのではないでしょうか。社員のためにと制作した啓蒙パンフレットも、読まれなければ意味がありません。社内調整に調整を重ねて企画したイベントも、社員が嫌々参加しただけで終わっては、虚しいだけです。
そう、「健康経営」は手段を誤れば、社員の共感が得られず、成果を実感できないままカタチだけで終わってしまう危険がいっぱい。
では、社員を巻き込むにはどうすれば良いのでしょう。
それには「楽しそうで、つい参加したくなる仕掛けづくり」が大切です。
「健康経営だ、働き方改革だ」とカタいことは言わずに、参加してみたら結果的に気分爽快、健康に対する意識まで変わっていたというのがひとつの理想形。今回は、その仕掛けづくりにぴったりの「ファンスポーツ」について、ファンスポーツ協会の鈴木氏にお話をうかがいしました。
取材協力:ファンスポーツ協会 鈴木 俊和 氏
『魅力的なスポーツ』『スポーツの新たな魅力』を創造することで、スポーツ市場の拡大に貢献し、人の心身の発達と社会の活性化を促すエンジンとなる。」を活動理念とする協会。設立は2016年12月。これまでに「バブルサッカー」や「ビリッカー」をはじめとする、新しいスポーツを日本に紹介してきた。
ちょっと聞き慣れない「ファンスポーツ」とは?
ーー「ファンスポーツ」と言われてもイメージできる人は少ないと思うのですが、どんなスポーツがあるのでしょうか。
ファンスポーツ協会では、ビニールのボールをまとって体当たりする「バブルサッカー」から、プロジェクションマッピングとクライミングを組み合わせた新感覚のスポーツ「サイバークライミング」まで、現在10種類程のファンスポーツメニューがあります。
(写真:バブルサッカー)
ーーバブルサッカーは、まさに「ファンスポーツ」と呼ぶのに相応しい、見るからに楽しそうなビジュアルですね。
ルールは基本的にフットサルと同じなのですが、ビニールの球体を着用することで、動きが制限されます。そこで、元々の運動能力に左右されず、色々な人が楽しめるんです。
ーーファンスポーツの定義は何ですか?
ファンスポーツ協会として取り扱う際に設けている基準は、「競技性があること、競技ルールが明確であること、審判が必要であること、競技人口の拡大を目指していること、競技として自立運営を目指していること」などです。しかし、スポーツ人口の裾野拡大を目指しているため、何よりも「みんなが楽しめる」ことを重視しています。
東京の中心から新しいスポーツを発信する
ーーファンスポーツ協会の設立は2016年の12月ということですが、それまでどんな経緯があったのでしょうか?
協会の母体となる企業で、元々スポーツ施設を運営していたんです。ランニングとヨガのためのスタジオで、利用者の方に楽しんでいただけるように頻繁にイベントを開催していました。
そうした環境では、海外の新しいスポーツの情報も自然と入ってきます。当初からバブルサッカーは気になっていたんですが、広い会場が確保できず、なかなか実施する機会がありませんでした。
そんな折、テレビ東京の本社があった旧東京タワースタジオを借りることが決まりました。現在、東京タワーメディアセンター内の「スターライズタワー」として、会場レンタルを行っている場所です。
そこで、2013年10月のスターライズタワー立ち上げ時に、かねてから気になっていたバブルサッカーをやってみようと考えました。東京の中心にあり、かつてテレビ局だった場所から新しいスポーツを発信したら面白いんじゃないかと。
ーーそこで「日本バブルサッカー連盟」を立ち上げられたんですね。
はい。まず、ノルウェー発祥のバブルサッカーの普及にあたって、日本バブルサッカー連盟を設立しました。その後、フランス発祥のビリヤードとサッカーを合わせた「ビリッカー」を取り上げる際には、日本ビリッカー連盟を立ち上げています。
以降も、次々と新しいファンスポーツを紹介しているのですが、その度に連盟を立ち上げるわけにもいかないので、バブルサッカーやビリッカーも含めてファンスポーツの普及を目指す協会として2016年12月にファンスポーツ協会を設立しました。
(写真:ビリッカー)
ーーそれぞれのファンスポーツは、個人参加が多いのでしょうか?
バブルサッカーを紹介した当初は、個人で参加される方が圧倒的に多かったですね。毎週のように個人向けのイベントを開催していました。しかし、徐々に法人利用が増え、2016年の夏頃からは法人利用者の方が多くなりました。
健康経営に役立つ!?法人利用の3シーン
ーー現在は、法人利用が多いとのことですが、具体的にはどんなシーンで利用されているのでしょうか?
法人利用には、大きく分けて2種類あります。まず、ショッピングモール等が来店者向けのイベントとして利用するケース。もうひとつが、健康経営のアプローチとして社内向けに利用するケースです。
社員総会のイベントや社内運動会の競技に
ーー健康経営のアプローチとして利用するケースについて、詳しく教えてください。
社員総会のイベントや社内運動会の競技のひとつとして、利用される企業が多いですね。先日は、バブルサッカーの道具を持って、沖縄に出張してきました。そちらの企業では、沖縄への社員旅行が恒例で、いつもビーチで綱引きなどの運動会を行っているそうです。今回は、その運動会の競技のひとつとしてバブルサッカーを採用いただきました。
ーー社内運動会は下火になっている印象がありますが。
ファンスポーツ協会として活動していると、むしろ社内運動会をポジティブに捉えている企業が増えている印象を受けます。
企業としては、社員旅行より経費を抑えられるメリットがありますし、参加する社員にとっても、旅行より拘束時間が短く、新人から運動が苦手な人まで幅広く活躍できる場が多いので好評のようです。店舗スタッフを対象にしたバブルサッカーの「企業カップ」を開催したスポーツメーカーもあります。
また、ファンスポーツは世代を超えて楽しめるのも魅力のひとつ。社内運動会の会場に、社員の子どもが参加できるコーナーを作って欲しいという依頼もありました。
社内研修に
社内研修にファンスポーツを活用している企業もあります。5月~6月頃は、新人研修としての利用が多いですね。同期の交流というよりも、既存社員と新人の交流を深めることを目的とした、アイスブレイクに活用されています。そのまま会場で飲食が可能ですし、別の場所を用意した飲み会セットプランもあるので、親睦を深めるにはぴったりだと思います。
試合中は、職場での上下関係に縛られず、チームとしてコミュニケーションがとれます。普段は交流のなかった人とコミュニケーションがとれることで、職場のストレスの原因となる人間関係のトラブルも防げるでしょう。
ーーそれは、最近問題になっているメンタル不調対策にもなりますし、結果的に健康経営に繋がりますね。
また、部署内のチームビルディングに活用しているケースもあります。バブルサッカーを通じて結束力を高めたり、メンバー一人ひとりの役割を考えることでチームビルディングを行ったり。そうしたケースでは、前半が終わると振り返りを行う等、プロさながらの意気込みを感じます。
企業対抗マッチング
ちょっと変わったところでは「企業対抗マッチング」という試みを行っています。ライバル会社とファンスポーツを通じて交流するための企画で、依頼企業に代わって私どもが挑戦状をライバル会社に届けるというものです。
ーーこれまで、どのような企業が「企業対抗マッチング」を利用されたのですか?
スポーツメーカーや代理店等にご利用いただきました。バブルサッカーは、サッカーと同じように整列して握手をするところから試合を始めるんですが、そのタイミングで名刺交換をするんです。普段は、絶対に名刺交換をしないライバル企業の社員が名刺交換をしている図は面白かったようで、皆さんたくさん写真を撮っていらっしゃいましたね。
(写真:フットダーツ大会)
ファンスポーツを活用している企業とは?
ーー企業の場合、どの部署から問い合わせがくるのでしょうか?
総務や人事担当者からのお問い合わせが多いですね。また、社内運動会や社員総会の手配を行う、旅行代理店を通じたお問い合わせもあります。
ーー元々ファンスポーツを体験したことのある方が利用するのですか?
会場として使っているスターライズタワーが元々テレビ局だったこともあり、テレビで紹介されることが多いんです。メディアでの紹介実績は、200件程。そこで、総務・人事担当者がメディアで見かけて興味を持ち、無料体験会に参加されるという流れが一般的です。
無料体験会は毎月実施しているんですが、毎回30名~50名程の参加があり、参加された企業の半分くらいが実際に利用されます。
(写真:無料体験会)
ーー成約率が高いですね。
ファンスポーツ協会を設立してからちょうど1年経つのですが、おかげさまで良い流れができており、この忘年会・新年会シーズンは、お引き受けしきれない程の引き合いをいただきました。
ーー法人に人気のファンスポーツは何ですか?
バブルサッカーが一番人気ですね。ビリッカーや、当たっても痛くないフライングディスクを使ったドッチボールのような競技「ドッチビー」も人気があります。
ーー会場の手配等は、総務・人事担当者が行うのですか?
会場の手配はこちらで行います。東京であれば、スターライズタワー内の会場を使うことが多いですね。アクセスが良く、東京タワー近くのわかりやすい場所にあるので、地方の支所の方からも好評なんですよ。また、地方で実施する場合も、こちらで会場を手配します。
ーー懇親会等の会場を探すのも大変だと聞きますから、総務・人事担当者にとっては助かりますね。
バブルサッカーであれば100人くらいまで参加でき、貸し切り料金が決まっているので予算も組みやすいようです。飲み会とセットになったプランもあるので、総務・人事担当の方の手間は省けるのではないかと思います。
ーー実際に利用した企業の反応は、どのようなものなのでしょうか?
これはスポーツ全般に言えることですが、スポーツの後は気持ちが高まるので、普段は話さない人と話すようになるなど、社員同士の交流が活発になります。また、試合中は若手も意見を言いやすくなるので、試合後は格段に風通しが良くなっていますね。
運営をお手伝いする側としては、打ち合わせのときは大人しかった幹事さんが盛り上がっている姿を見ると「楽しんでもらえて良かったな」と嬉しくなります。
(写真:サイバークライミング)
ーー社内イベントとしてのファンスポーツを利用する場合、どのようなメリットがあるのでしょうか?
企業においては、健康経営に関する意識が年々高まってきているのを感じます。スポーツを通じた交流は社員の健康促進になりますし、健康経営に対する企業姿勢を社内外に示すのにも有効だと思います。
また、健康診断でC判定やD判定が出た方のケアももちろん大事ですが、A判定やB判定の方々の健康促進や生活習慣病予防を課題にしていらっしゃる企業も多いのではないでしょうか。ファンスポーツは楽しみながら健康促進ができるので、予防にも有効な手段です。
ーー若手社員の場合、長時間労働や偏った食生活が続いていたとしても、若さと勢いで乗りきって、A判定B判定になることもあると聞きます。そうした若手を、早い段階で巻き込むことが大切になりますね。
そうですね。利用された企業の担当者からは「普段は懇親会に参加しない人も参加してくれた」「“飲み会よりも、こういうイベントの方が良い”と社員から言われた」といった声をお聞きします。いわゆる飲み会と比べたときに、特に若手の参加率が高まるようです。
ーーリピート利用も多いのでしょうか?
法人利用が個人利用を上回ってから1年強経っていますが、法人のリピート率は約1割です。予想以上の手応えを感じていますね。
ーー法人利用したいと思った場合、どこまで人事・総務担当者が企画する必要があるのでしょうか?
基本的に、まずヒアリングをしたうえで企業に合わせたご提案をしています。参加人数や目的に応じて色々なご要望にお応えできますので、気軽にご相談いただければ。
例えば、「ファンスポーツだけの運動会」など、数種類のファンスポーツを組み合わせたイベントなども可能です。
ーー最後に、ファンスポーツ協会としての夢や目標があれば教えてください。
「2020年に向けてスポーツの裾野を広げていきたい」という思いがあります。具体的には、バブルサッカーの世界大会を日本で開催したいですね。ゆくゆくは、ファンスポーツだけの大会等も開催したいです。
ーーありがとうございました。スポーツの「熱さ」に「緩さ」が程よくミックスされたファンスポーツは、これからの健康経営に欠かせない要素になるかもしれませんね。
取材・文/松山 あれい
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