2023年度から開始された「第4期がん対策推進基本計画」の要点を紹介

2023年3月末に「第4期がん対策基本計画」が閣議決定され、4月より計画に向けた取り組みが始まりました。

同計画は、今後約6年間のがん対策に関する国の方針をあらわしたものであり、その内容はがんの罹患者数の減少や、適した医療体制の提供、がんとの共生など多岐に渡っています。

本記事では、「第4期がん対策基本法」のトピックを紹介していきます。

目次[非表示]

  1. 1.2023年4月より「第4期がん対策推進基本計画」が開始
    1. 1.1.わが国におけるがんの現状とがん対策推進基本計画の変遷
      1. 1.1.1.第1期がん対策推進基本計画(2007年)
      2. 1.1.2.第2期がん対策推進基本計画(2012年)
      3. 1.1.3.第3期がん対策推進基本計画(2018年)
    2. 1.2.2023年3月、新たに策定された「第4期がん対策推進基本計画」
  2. 2.新たながん対策推進基本計画の「3本柱」と分野別目標
    1. 2.1.第4期がん対策推進基本計画における目標3本柱
      1. 2.1.1.1.がん予防分野における分野別目標
      2. 2.1.2.2.がん医療分野の分野別目標
      3. 2.1.3.3.がんとの共生分野の分野別目標
  3. 3.がん対策推進基本計画を支える基盤と推進のための必要事項
    1. 3.1.第4期がん対策推進基本計画を支える基盤について
    2. 3.2.第4期基本計画を推進するための必要事項


2023年4月より「第4期がん対策推進基本計画」が開始

わが国におけるがんの現状とがん対策推進基本計画の変遷

2023年、新たに厚生労働省から公表された「がん対策基本推進計画」によれば、1981年以降、日本における死因の第1位はがんであるとされています。

また、2021年には年間で約38万人ががんで命を落としています。割合にすると「約3人に1人」ががんで亡くなり、「約2人に1人」が生涯のうちに何等かのがんに罹患するという現状があり、生命と健康にとって大きな課題になっています。

がん対策に関する国としての取り組みは以前から進められており、1984年には「対がん10カ年総合戦略」が策定され、2006年には「がん対策基本法」が成立。その翌年の2007年には「がん対策推進基本計画」が策定されています。

第1期がん対策推進基本計画(2007年)

2007年に第1期基本計画が策定され、がん診療連携拠点病院の整備と緩和ケア提供体制の強化、そして地域がん登録の充実が図られました。

第2期がん対策推進基本計画(2012年)

2012年には第2期基本計画が策定。小児がん、がん教育、がん患者の就労を含めた社会的な問題等への取り組みが盛り込まれました。また、2015年に「がん対策加速化プラン」が策定され、施策に遅れがある分野へ強化行われています。

第3期がん対策推進基本計画(2018年)

第3期基本計画は2018年に策定されており、「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す。」という目標を掲げ〈がん予防〉〈がん医療の充実〉〈がんとの共生〉の3本柱を軸とした総合的ながん対策が推進されました。

そのほか、高齢者やAYA世代(思春期世代と若年成人世代)というように、ライフステージに応じたがん対策や、ゲノム医療の推進が盛り込まれています。


2023年3月、新たに策定された「第4期がん対策推進基本計画」

このようにして、医療提供体制の整備等の様々ながん対策が推進されていく中、医療機関における進捗状況の差が発生していることや、がんに関する情報提供あるいは普及啓発のさらなる推進が必要であるということが、第3期基本計画の中間評価報告書にて指摘されていました。

また、わが国においては人口減少や少子高齢化社会が到来しており、持続可能かつ質の高いがん対策を行っていくためには、より一層の取り組みに着手することが重要になっています。

こうした背景から第3期基本計画の見直しが行われ、2023年3月に新たに策定されたものが「第4がん対策推進基本計画」です。

同計画は、「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す。」という全体目標のもと、前述した第3期基本計画の〈がん予防〉〈がん医療の充実〉〈がんとの共生〉という3本柱の構成は維持しつつ、各分野における現状および課題に対し、取り組むべき施策が定められています。

そして、その評価についても分野別に目標等を明確化し、PDCAサイクルの実効性を確保するためのロジックモデルが活用されます。

また、第4期基がん対策推進基本計画の実行期間は2023年度から2028年度の6年間が目安とされています。


新たながん対策推進基本計画の「3本柱」と分野別目標

第4期がん対策推進基本計画における目標3本柱

「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す。」という目標に向け、第4期基本計画でも引き続き〈1.がん予防〉〈2.がん医療の充実〉〈3.がんとの共生〉の3本柱にて施策が推進されますが、1から3それぞれにも目標が掲げられています。

ここでは、それぞれの分野における目標とその内容について、概要を紹介します。


1.がん予防分野における分野別目標

まず、がん予防分野における目標については「がんを知り、がんを予防すること、がん検診による早期発見・早期治療を促すことで、がん罹患率・がん死亡率の減少を目指す」とされています。

特に、がんの一次予防については、喫煙・飲酒・運動不足・食生活といった生活習慣によるものが重要視されていることや、感染症を要因とする子宮頸がん、肝がん、胃がんなどについては、感染症対策についても施策が掲げられています。

具体的ながん予防の内容については以下の内容が挙げられています。

1.がん予防

(1)がんの1次予防

①生活習慣について

②感染症対策について

(2)がんの2次予防(がん検診)

①受診率向上対策について

②がん検診の精度管理等について

③科学的根拠に基づくがん検診の実施について

出典:厚生労働省「がん対策推進基本計画(令和5年3月)」


2.がん医療分野の分野別目標

がん医療の分野に関しては「適切な医療を受けられる体制を充実させることで、がん生存率の向上・がん死亡率の減少・すべてのがん患者及びその家族等の療養生活の質の向上を目指す」ことが目標とされています。

ここでは、適切な医療を受けられる体制の均てん化・集約化をはじめ、がんゲノム医療をより一層推進する観点から、引き続きがんゲノム医療中核拠点等病院を中心とした医療提供体制の整備等も進められます。

その他、各種の手術法や療法等についても触れられており、取り組むべき施策として、様々な目標が設定されました。

2.がん医療

(1)がん医療提供体制等

①医療提供体制の均てん化・集約化について

②がんゲノム医療について

③手術療法・放射線療法・薬物療法について

④チーム医療の推進について

⑤がんのリハビリテーションについて

⑥支持療法の推進について

⑦がんと診断された時からの緩和ケアの推進について

⑧妊孕性温存療法について

(2)希少がん及び難治性がん対策

(3)小児がん及びAYA世代のがん対策

(4)高齢者のがん対策

(5)新規医薬品、医療機器及び医療技術の速やかな医療実装

出典:厚生労働省「がん対策推進基本計画(令和5年3月)」


3.がんとの共生分野の分野別目標

3つ目は「がんとの共生」分野における目標についてです。ここでは「がんになっても安心して生活し、尊厳を持って生きることのできる地域共生社会を実現することで、全てのがん患者及びその家族等の療養生活の質の向上を目指す」という目標が挙げられています。

がんとの共生については、がん患者本人やその家族等の精神心理的・社会的な悩みに対応することが必要とされていますが、がんおよびその治療に関する相談ニーズ・利用率についても課題となっています。

そのため、患者の療養生活が多様化する中では、各拠点病院やがん相談支援センターが中心となって、相談支援や情報提供に取り組むことが挙げられています。

がんとの共生に関する目標の項目は以下のようになっています。

3.がんとの共生

(1)相談支援及び情報提供

①相談支援について

②情報提供について

(2)社会連携に基づく緩和ケア等のがん対策・患者支援

(3)がん患者等の社会的な問題への対策(サバイバーシップ支援)

①就労支援について

②アピアランスケアについて

③がん診断後の自殺対策について

④その他の社会的な問題について

(4)ライフステージに応じた療養環境への支援

①小児・AYA世代について

②高齢者について

出典:厚生労働省「がん対策推進基本計画(令和5年3月)」

■あわせて読みたい関連記事■

  〈がんと仕事〉「2人に1人がなる」がんの基礎知識と予防方法を知ろう 日本では「2人に1人ががんになり、3人に1人が死亡する」といわれています。医療の進化により、かつては「不治の病」といわれていたがんも、今では治療をしながら働ける「長く付き合う病気」に変化しつつあります。一方で、がんと診断されたことで約3割の人が仕事を辞めてしまっている現状があります。「働く世代」でも増えるがん。がんに対する偏見をなくすためにも、まずは正しい知識を持つことが大切です。がんの現状と予防方法について紹介します。 エムステージ 産業保健サポート


がん対策推進基本計画を支える基盤と推進のための必要事項

第4期がん対策推進基本計画を支える基盤について

第4期基本計画を支える基盤となるのが、全ゲノム解析等の新たな技術による研究の推進や、がん医療の現場を担う人材やビッグデータの解析専門家といったスペシャリストの育成などがあります。

がん教育による知識の普及啓発も欠かせないものであり、引き続き児童生徒の発達段階に応じたがん教育を推進されます。

また、2016年より開始された「がん登録推進法」に関し、がん登録数は増加してきています。よって、その情報の効果的な利活用が目標とされました。

その他にも、患者・市民参画の推進として、国および都道府県といった地方公共団体と国民(がん患者含む)が協力して取り組みを推進することも、基盤の一つになります。

デジタル化の推進も基盤の一つとなっており、ICTやAIを含むデジタル技術の利活用を通じ、医療・保険といった各種サービスへのアクセシビリティ向上も欠かせないものとされています。

第4期がん対策推進基本計画を支える基盤

(1)全ゲノム解析等の新たな技術を含む更なるがん研究の推進

(2)人材育成の強化

(3)がん教育及びがんに関する知識の普及啓発

(4)がん登録の利活用の推進

(5)患者・市民参画の推進

(6)デジタル化の推進

出典:厚生労働省「第4期がん対策推進基本計画(令和5年3月28日閣議決定)概要」


第4期基本計画を推進するための必要事項

最後に、第4期基本計画を推進するための必要事項についてです。

新たながん対策推進基本計画を総合的かつ計画的に推進するための重要な事項として、以下1~7の項目が掲げられており、その内容は多岐に渡っています。

がん対策の方針は国が打ち出し、各都道府県などの自治体も加わる形で推進されますが、国民の努力なくして実現は出来ないことも挙げられています。

そのために、我々も日ごろからがんに関する正しい情報を適切な方法で入手し、対策に向けて活動していくことが大切です。

それぞれの詳細については「がん対策推進基本計画」に記載されていますので、確認しておきましょう。

第4期基本計画を推進するための必要事項

1.関係者等の連携協力の更なる強化

2.感染症発生・まん延時や災害時等を見据えた対策

3.都道府県による計画の策定

4.国民の努力

5.必要な財政措置の実施と予算の効率化・重点化

6.目標の達成状況の把握

7.基本計画の見直し

出典:厚生労働省「第4期がん対策推進基本計画(令和5年3月28日閣議決定)概要」

「第4期がん対策推進基本計画」にて策定された内容は、本記事に記載したものだけでなく、広範にわたっていますので、気になる方は厚生労働省のホームページにて詳細を確認してみましょう。

当メディアSanpoNaviには、がん対策がご専門の立道昌幸先生(東海大学)へインタビューした記事もありますので、ぜひご覧ください。

  〈解説:立道昌幸先生〉企業におけるがん対策、実現のための要点とは 就労年齢が高くなるほど、がんをはじめとした病気にり患するリスクも高くなることが考えられます。本記事では、がん対策の専門家である東海大学の立道昌幸先生へインタビューを行い、企業におけるがん対策の要点をお聞きしました。 エムステージ 産業保健サポート



株式会社エムステージでは、産業医や保健師の紹介からメンタルヘルス領域まで、産業保健のあらゆるお悩みに対応するサービスを展開しています。人事労務課題にお困りの方はぜひ一度お問い合わせください。

  エムステージ 産業保健トータルサポート 1,900企業とサービスご契約中です!官公庁、大手企業から中小企業・スタートアップまで幅広くご活用中です。産業医・産業保健師の選任、ストレスチェック、メンタルヘルス・ハラスメント研修、外部相談窓口等。メンタル不調者(休職者・離職者)の増加、健康経営有料法人の取得に向けて、ストレスチェックの結果活用、など企業のニーズにお応えします。 エムステージ 産業保健トータルサポート


サンポナビ編集部

サンポナビ編集部

企業の産業保健を応援する『サンポナビ』編集部です。産業医サポートサービスを提供している株式会社エムステージが運営しています。 産業医をお探しの企業様、ストレスチェック後の高ストレス者面接でお困りの企業様は、ぜひお問い合わせボタンからご相談ください。

関連記事


\導入数4,600事業場!/エムステージの産業保健サービス