〈産業医コラム〉労働生産性向上に向けたテレワークの作業管理

日本医師会認定産業医
労働衛生コンサルタント
岩城聡子

新型コロナウイルス感染症の世界的流行が落ち着きつつある中、社会活動の正常化が徐々に進んでいます。コロナ禍の3年間で顕著だったのは、テレワークを導入する企業が着実に増えたことです。

総務省の調査(常用雇用者が100人以上の企業が対象)によると、コロナ流行前の雇用型テレワーク実施率は令和元年時点で29.6%でしたが、流行後の令和3年は57.4%となり、テレワーク導入率は過半数を超えました。テレワークの形態としては9割以上が在宅勤務となっています。


テレワーク時に頭痛や肩こり、目の疲れ等の訴えが多いことは、コロナ流行当初より指摘されていました。こうした点を踏まえ2021年10月のコラム(テレワークガイドライン改定)では、テレワークの作業環境管理について説明しました。


今回はテレワークにおける作業管理について触れたいと思います。

テレワークでは周囲から声をかけることもなく、作業に集中しやすいメリットがある反面、同じ作業を数時間続けてしまうケースもあり得ます。長時間にわたり、同じ姿勢でパソコン作業を続けると、目や首、肩周りに負担がかかりやすくなります。対策としては以下が挙げられます。


厚生労働省情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインによると、作業時間が長すぎないよう、1時間以内で1サイクル、サイクルの間は10-15分の作業休止、サイクル中も1,2回の小休止を取ることが提案されています。


テレワークで情報機器を使用する場合は、日本人間工学会の「タブレット・スマートフォンなどを用いて在宅ワーク・在宅学習を行う際に実践したい7つの人間工学ヒント」が提案している「20-20-20ルール」を実践しましょう。「20-20-20ルール」は、20分ごとに20秒間小休止し、20フィート(約6m)以上先をみるというものです。窓のない部屋では、目を閉じて目を休めることも有効です。作業に集中していると、20分という時間はあっという間ですので、20分ごとにアラームを設定するのもいいでしょう。

(7つの人間工学ヒントtip1掲載)

  

■在宅ワーク/在宅学習で情報機器を使⽤する場合は、「20-20-20 ルール」を実践しましょう。

上記の提案は、眼精疲労軽減、筋骨格系障害の軽減、労働生産性向上、過度の疲労軽減に効果的と思われますが、眼鏡等の視力矯正も大変重要です。運転を前提とした視力矯正は、遠方の物がよく見えるようになっていることが多いです。一方でテレワークにおいては、近くの物を見る作業が大半です。遠くの物を見ることを前提にした眼鏡をテレワークで使用していると、目に負担がかかる可能性もあります。

これを機に、使用中の眼鏡がテレワークに適しているか検討することも作業管理として重要と考えられます。


テレワークにおいては、通勤などでの移動がないことにより、運動不足になりやすいことが指摘されています。

世界保健機関(WHO)によると、身体の不活動は世界中のすべての死亡原因となる危険因子の5.5%を占めると推定されています。必要に応じて姿勢を変えて活動性を高めることと、一日あたりの座位姿勢の総時間を減らすことが健康管理上重要と考えられます。前述の7つの人間工学ヒントによると、作業中は、座り姿勢10分+立ち姿勢5分の組み合わせで、情報機器使用者の労働生産性を維持しやすくなり、さらに、座り姿勢20分+2分間のアクティブレストを繰り返すだけでも食後の血糖値を下げる効果があるとされています。

(7つの人間工学ヒントTip2掲載)

  

■タブレットやノート PC などの情報機器を使⽤する場合は、座った姿勢と⽴った姿勢を交互に取りましょう。

上記の作業管理は、筋骨格系障害軽減や労働生産性向上、過度の疲労軽減のみならず、非伝染性疾患(心血管疾患、癌、糖尿病など)のリスク低減にも効果が見込めます。

テレワークによるデメリットとして、労働生産性の低下が当初より挙げられておりましたが、作業管理を適切に介入することで、こうした生産性の改善も見込めるようになるでしょう。


まとめ

江戸時代の水戸藩では文武修業の場(一張・いっちょう)である弘道館と、修業の余暇に心身を休める場(一弛・いっし)である偕楽園が一対の教育施設として創設されました。心身を休める時間は大変重要という点では、情報通信機器に囲まれたテレワーク時代にも通じる考え方のように感じます。


〈参考〉

  • 総務省 通信利用動向調査(企業編)
  • 日本産業衛生学会 新型コロナウイルス対策ガイド第5版表2 在宅勤務における課題
  • 厚生労働省情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン
  • 日本人間工学会「タブレット・スマートフォンなどを用いて在宅ワーク・在宅学習を行う際に実践したい7つの人間工学ヒント」
  • 偕楽園ホームページ

文章出典:株式会社イーウェル「健康コラム」より寄稿

岩城聡子

岩城聡子

労働衛生コンサルタント、日本医師会認定産業医、日本循環器学会専門医。関東で嘱託産業医および内科医として勤務

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