〈産業医コラム〉メンタルヘルス不調者対応で重要な「主治医との連携」
榊原産業医パートナーズ株式会社代表
産業医・精神科医 榊原 亙
人事労務担当者の方にとって、休職者への対応は悩ましい課題の1つでしょう。そこで本記事では、休職者対応の基本である主治医連携について、ポイントを紹介します。
職場のメンタルヘルス対策には、
・一次予防(不調の未然防止)
・二次予防(不調の早期発見および対応)
・三次予防(職場復帰支援)
の3つの要素があります。これらの体制整備には相応の時間を要しますが、具体的な取り組みの中には、それほど時間をかけなくとも効果が得られやすいものもあります。
私自身、「メンタル不調での休職が増えているため、ストレスチェックで不調者を早めに見つけたい」と人事労務担当者から相談をいただくことがあります。
しかし、ストレスチェックの目的はあくまでも一次予防です。既に不調者が続出している場合、優先していただきたいのが二次予防、特に不調者の主治医との連携です。
メンタルヘルス不調者が休職する場合、休職直後は療養に専念できる環境を整える大切な時期です。同時に、特に休職の前後で医療機関を初診したケースでは、主治医においても治療戦略を組み立てていく重要な時期にあたります。
ここで、少し想像してみてください。患者さんに関する情報が多い場合と少ない場合では、主治医にとって治療しやすいのはどちらでしょうか。もちろん、情報が多い場合ですよね。
例えば、
・普段はどのような職場環境で、どのような業務をしているのか
・会社はいつ頃から不調を把握していて、何か就業上の配慮を行ったのか
・休職期限はいつまでで、会社は復職時にどのような水準まで回復していてほしいのか
・どのような職場復帰支援制度があるのか
これらの情報を、休職前後の早い段階で会社から主治医へ共有することで、主治医は治療計画を立てやすくなります。
会社から主治医への情報共有とセットで考えたいのが、主治医から会社(産業医)への情報共有です。主治医は、不調者の復職が可能と判断した時点で診断書を記載します。この書類に有用な情報が多いと、会社が復職可否を判断する際の大きな助けとなります。そこで、どのような項目を主治医に記載してほしいのか、主治医への情報共有の際にあらかじめ書面で明記しておくことをお勧めします。
メンタルヘルス不調の未然防止は、企業のメンタルヘルス対策においてじっくりと取り組むべき内容です。一方で、既に不調をきたしているケースの早期発見や職場復帰支援により、着実に不調者を減らしていくことも重要です。
中でも、主治医連携を想定したフローを整備しておくことでスムーズな対応が可能となるでしょう。
人事労務担当者の皆さんには、ぜひ産業保健スタッフと共同でこうしたフローを整えていただけたらと思います。
※主治医連携においては不調者ご本人の同意を得た上、個人情報取扱に十分配慮をしながら進めていただけたらと思います。
文章出典:株式会社イーウェル「健康コラム」より寄稿