リスクマネジメントの専門家が語る、産業医と連携したBCP策定の必要性
先日、政府から緊急事態宣言の延長が発表されました。
長期戦が見込まれる新型コロナウイルス感染症との戦いにおいて、企業や労働者は「ウィズコロナ時代」を生き抜いていく覚悟が求められているとも言えるでしょう。
そして「ウィズコロナ時代」に不可欠となるのがBCPの存在です。
リスクマネジメントの専門家、本田茂樹先生に「BCP策定のポイント」「産業保健との連携」について取材しました。
(リモート取材:2020年4月)
新型コロナウイルス感染症の拡大で注目が高まる「BCP」とは
最近よく耳にするようになった「BCP」について教えてください。
BCP(Business Continuity Plan)とは、有事の際に企業活動を停止させないための「事業継続計画」のことです。
例えば今回の新型コロナウイルスのような感染症や、地震・台風などの災害が発生した際、企業にとっての重要事業を守り、活動を中断させないための社内システムのことをいいます。
感染症に関するBCPの重要性は、新型インフルエンザが2009年に流行した際、大きな注目を浴びたことで記憶に新しい方も多いと思います。
新型コロナウイルス感染症の拡大により、BCPの重要性が大きなテーマとなっていますね。
日本は災害の多い国ですので、平時からBCPは重要視されてきましたが、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大によってさらに注目が高まっていると感じています。
感染症の拡大が災害発生時と異なる部分は、事業場(建物)の物理的な損傷がないことや、インフラも完全停止とならずに済む可能性があるところです。
つまり、適切なBCPを運用し、感染予防措置をとることで、災害と比較して事業継続が可能な場合が多いのです。
なお、災害発生時でも、感染症拡大時でも、運用するBCPの「基本骨格」は同じです。
ですので、社内でしっかりしたBCPがあれば、地震や水害・台風といった自然災害発生時にも役立ちます。
本田先生のもとにも新型コロナウイルス対策のBCPについて相談が増えているのでしょうか。
リスクマネジメントのコンサルタントをしている私のもとにも、多くの相談が来ています。
しかし同時に、BCPの策定にハードルの高さを感じている方も多いと考えています。
こうしたニーズを踏まえ、新型コロナウイルスの感染症対策としてのBCP策定のポイントをまとめた資料を制作しました。
この資料は、企業の方であればどなたでもダウンロードができます。このようなご時世ですので、ぜひ多くの方に参考にしていただきたい、そんな思いで制作しました。
※本田茂樹先生が制作した「企業における新型コロナウイルスの感染症対策 産業医を活用したBCP策定のポイント」は記事の末尾のURLからダウンロードができます。
感染症対策のBCPには「産業医との連携」が不可欠な理由
資料の中には「産業医と連携することの重要性」がありますが、なぜBCP策定に産業医の存在が不可欠なのでしょうか。
自然災害に関する項目を決定するのと違い、感染症に関するBCPの策定には「医療の専門家として」産業医の存在が欠かせないためです。
産業医の役割は、まず職場に感染症予防の「正しい知識」を提供してもらうことにあります。
そして、医学的知見が必要となる「従業員の就業判定」などに産業医が携わってもらうことで、感染リスクを最小化しつつ、産業医を活用して事業継続に繋げていく必要があるでしょう。
やはり新型コロナウイルスなどの感染症に関するBCPには、企業と産業医が連携することで大きな効果を発揮すると考えています。
事業者や衛生担当者だけでは判断できない事柄などは、産業医に相談することが有効です。
企業がBCPを策定する際にポイントとなることを教えてください。
企業におけるBCPを策定時のポイントは何と言っても「トップダウンで進めること」です。
その理由は、BCPの策定にはいくつかの決裁が必要となり、それぞれで迅速な判断がポイントになるからです。トップダウン型で進めることで、迅速なBCP策定を実現することが可能になります。
具体的な方法として、企業の衛生担当者と産業医が開催する衛生委員会に経営層が同席することが、感染症対策としての「BCP策定の近道」になるでしょう。
経営層が衛生委員会に参加することで、職場の現状・課題を直に把握することができ、それによって、BCP策定時の各種決裁がスムーズになるのです。
要点については「企業における新型コロナウイルスの感染症対策 BCP策定のポイント」にまとめましたので、詳細は資料でご覧いただければと思います。
企業はBCPの「コスパ」をどう考えるべきか
BCPの策定は「いつ」「何から」始めればよいでしょうか。
まだBCPを策定していない場合は「今」策定したほうが良いと考えます。
「何から始めるべきか……」と考えあぐねている企業の方も多いと思います。しかし、まずはスモールスタートで良いのです。
足りないものや重点的に注意すべき部分を洗い出し、小さくても対策していくことが大切になります。
そして、実際にBCPを運用している最中にも産業医との連携は必要になります。
在宅勤務に切り替わった従業員は運動量にも減少の変化があるでしょうから、生活習慣のケアも必要になりますし、有事の際にはメンタルヘルスのケアも重要になります。
その際にも、産業医の存在が大きなものになるでしょう。
最後になりますが、例えば「次年度に予算を確保してからBCPを策定しよう」という考えもあると思います。
さらに、BCPを「コスパ(コストパフォーマンス)」で見れば、パフォーマンスの発揮はいつになるかわかりません。
しかし、適切なBCPを策定・運用することができれば、こうした有事の際に必ずパフォーマンスを発揮し、事業継続の要になるはずです。
これを機に、BCPの策定をぜひ検討してください。
解説:本田茂樹(ほんだ・しげき)
三井住友海上火災保険株式会社に入社後、リスクマネジメント会社の勤務を経て、現在はミネルヴァベリタス株式会社の顧問であり信州大学にて特任教授も務める。
リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。
これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭を執るとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。
近著に「中小医療機関のための BCP策定マニュアル(社会保険研究所)」「いま、企業に求められる感染症対策と事業継続計画(ピラールプレス)」がある。
【セミナー情報】
2020年10月29日:今、医療機関に求められるBCP(事業継続計画)(防犯防災総合展2020)
2020年10月30日:SDGsにおける防災と事業継続〜2030年に向けた取り組み〜(防犯防災総合展2020)
2020年11月12日:新型コロナウイルス感染症流行下の防災とBCP ~想定外を作らない
2020年11月13日:地震、台風、感染症に備える、最新『BCP(事業継続計画)』の策定と見直し