従業員のヘルスリテラシーを高める方法とは?健康経営推進に役立つ取組を紹介
労働人口の減少に伴い、生涯現役を目指して働きやすい職場環境づくりや、健康づくりが企業には求められています。
従業員がいきいきと健康に働くためには、従業員自身が病気の治療や予防に関して正しく理解をして推進することが重要です。
本記事では、従業員の健康保持増進のために、具体的に何をすれば良いのか分からないとお困りの人事・労務担当者の方に向けて、ヘルスリテラシー向上に役立つ取組を紹介します。
ヘルスリテラシーとは?
ヘルスリテラシーとは「良い健康を維持促進するために情報へアクセスし、理解し、活用する動機付けと能力を決定する認知的、社会的スキル」と1998年にWHOが定義しました。
インターネットやテレビ、新聞など、さまざまな媒体の中から信頼できる情報を選定し、正しく理解をしたうえで自身の生活に活用できる状態であることが「ヘルスリテラシーが高い」と言えます。
ナットビームの3段階のヘルスリテラシーレベル
英国公衆衛生分野を代表するナットビームは、2000年にヘルスリテラシーレベルを3段階に分類しました。
段階があがるほど個人の健康だけでなく、他者を巻き込んだ集団レベルでのアクションが求められる高度な能力となります。
レベル1 |
病院や薬局からもらう説明書などを、正しく読んで理解ができるかなど、基本的な読み書きの能力 |
レベル2 |
病気の治療法や健康法について情報収集をし、病気についての考えを医師や家族に伝えたり、自分に必要な情報を取捨選択する能力 |
レベル3 |
病気の治療法や健康法について、情報が本当に正しいのか批判的に分析し、コミュニティーや社会に対してアクションを行う能力 |
参考:健康教育におけるヘルスリテラシーの概念と応用|大竹聡,池崎澄江,山崎喜比古,日健教誌 第12巻 第2号2004年
なぜ低い?日本人のヘルスリテラシー
2023年にジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社メディカルカンパニーが日本・アメリカ・イギリス・オーストラリア・中国・フィンランドの6か国を対象にヘルスリテラシー国際調査を実施しました。
調査の結果、日本のヘルスリテラシー自己評価は10点満点中5.4点で、これは6か国で最も低い点数です。
引用:ヘルスリテラシー国際調査|ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 メディカル カンパニー
「情報収集・判断」「行動」「デジタル活用」「コミュニケーション」における自己評価が低く、健康・医療情報の判断や、適切な病院受診、症状の説明などに課題があることが分かりました。
日本のヘルスリテラシーが低い理由として、プライマリ・ケアの不足とメディアリテラシーの欠如があげられます。
プライマリ・ケアの不足
プライマリ・ケアとは、自身の健康から家族のことまで、身近で何でも気軽に相談できる総合的な医療のことです。日本では「かかりつけ医制度」があるものの、諸外国と比較してプライマリ・ケアの制度が浸透しておらず、何か起きても、どの医療機関を受診すべきか迷ったり、受診をしても医師と適切なコミュニケーションが取れていない人が多い傾向にあります。
令和5年に成立した改正医療法により、令和7年4月より「かかりつけ医療機能報告制度」が開始します。この改正によって、「かかりつけ医」に期待される役割がプライマリ・ケアと同義であることが暗に示されました。
かかりつけ医機能の強化が、日本のヘルスリテラシー向上のカギとなるでしょう。
参考:かかりつけ医機能報告制度|一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
メディアリテラシーの欠如
欧米先進国では「マスメディアは信頼できない」と批判的に捉える人が多い一方で、日本ではテレビや新聞などマスメディアへの信頼度が高い傾向にあります。
また、欧米では複数の考えを提示して読者に判断をさせる記事がスタンダードですが、日本のメディアでは両論併記の記事は多くなく、医師などの信頼できる人からの正しい答えを教わりたいというニーズがあります。
ヘルスリテラシーの向上には、自らの健康・医療に関する問題について受け身型でいるのではなく、主体的に物事を判断し、関与していく姿勢が必要です。
参考:ヘルスリテラシー講座|市民研通信・特別連載
ヘルスリテラシーが低いことで起きるデメリット
ヘルスリテラシーが低いと、下記のデメリットが生じます。
- 予防サービス(健康診断・ワクチン接種)を利用しない
- 治療や薬などの適切な知識に乏しい
- 病気やケガの兆候に気付きにくく悪化させやすい
- 労働災害が発生しやすくなる
- 救急サービスを利用しやすい
- 医療費が高くなる
個人の健康管理がおろそかになることで、労災が発生するなどの企業のリスク増加や、死亡率や医療費の増大による国の社会課題にもつながります。
企業がヘルスリテラシーの向上を目指すべき理由
従業員のヘルスリテラシーが高まることで、アブセンティーズム※1やプレゼンティーズム※2の改善によって生産性の向上が期待できます。
企業の業績向上のためには、従業員の健康管理・維持へ投資を行うことが重要です。
健康経営優良法人の認定要件にも、健康経営の実践に向けた土台づくりとして「ヘルスリテラシーの向上」が含まれています。
具体的な評価項目は「管理職または一般社員に対する教育機会の設定」で、健康をテーマとした研修の実施や、定期的な情報提供が求められています。
※1 アブセンティーズム…会社を病欠・病気休業している状態
※2 プレゼンティーズム…出勤しているものの健康問題が理由で生産性が低下している状態
女性の健康に関するヘルスリテラシー
また、健康経営優良法人の認定要件には「女性活躍支援」も基準のひとつとなっています。女性特有の健康リスクへの対応を含めた、ヘルスリテラシー向上のための取組や、不調者を支援する体制の整備も企業には求められています。
女性特有の健康リスク
- 月経前症候群(PMS)
- 子宮内膜症・子宮筋腫
- 不妊
- 子宮頸がん・乳がん
- 更年期障害 など
参考:健康経営とヘルスリテラシー|特集・健康経営と予防医学
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ヘルスリテラシーを高めるには?必要な5つの戦略
順天堂大学の福田洋教授は、従業員のヘルスリテラシーが企業の成長にとって重要ではあるものの、いきなり高めるためのアクションを行うのではなく、段階的な5つの戦略が必要であると提唱しています。
- ヘルスリテラシーを「知る」
- ヘルスリテラシーに「合わせる」
- ヘルスリテラシーのハードルを「下げる」
- ヘルスリテラシーを「高める」
- ヘルスリテラシーを「広める」
各ステップの内容を具体的に解説します。
参考:心身の状態を理解して正しい行動を取る「ヘルスリテラシー」の高め方|日本の人事部
1.【知る】従業員のヘルスリテラシーや健康課題を把握する
まずはへルスリテラシーについて、従業員がどの程度認識をしているのかチェックしましょう。
ヘルスリテラシー尺度(HLS-14)では、機能的ヘルスリテラシー・伝達的ヘルスリテラシー・批判的ヘルスリテラシーに関する各項目を1点~5点で点数をつけ評価することができます。
引用:医療者と患者のコミュニケーション:ヘルスリテラシーを手がかりにして|厚生労働省eJIM
また、健康診断やストレスチェックを実施して、従業員がどのような健康課題を抱えているのか把握することも重要です。
2.【 合わせる】コミュニケーション方法を工夫する
従業員のヘルスリテラシーや健康課題を踏まえて、ヘルスリテラシーが不十分な従業員でも理解がしやすいように、専門用語ではなく簡単な言葉で説明をするなど、コミュニケーションの方法を工夫する必要があります。
健康診断結果の数値を元に、放置するとどれくらい危険なのかが、視覚でわかるように図などイラストでイメージさせるといった保健指導が求められます。
3.【下げる】ヘルスリテラシーのハードルを下げる
社内報やメールマガジンでの健康情報には写真や漫画を活用するなど、情報理解に必要なヘルスリテラシーのハードルを下げることで、より多くの従業員に関心を持ってもらえるようになります。
また、社員食堂でカロリーを表記したヘルシーなメニューを提供したり、インセンティブ制のウォーキング大会を実施するなど、自然と健康を意識できるような仕組み作りをすることで、ヘルスリテラシーのハードルが下がり従業員の健康促進につながるでしょう。
健康に関する不安や疑問を抱えているが、病院受診はハードルが高いという従業員が気軽にいつでも相談ができるよう、社内に相談窓口を設けることも重要です。
4.【高める】自発的に健康情報を取得するように促す
ヘルスリテラシーを高めるには、①~③を十分に取り組んだうえで、従業員が自らスマホや健康アプリなどを活用して健康情報の検索をしたり、情報をうのみにしないメディアリテラシーを身に着ける教育が必要です。
健康づくりや健康経営に注力している企業では、日本医師会が総合監修を行う「日本健康マスター検定」の受験や、大阪商工会議所が主催するメンタルヘルスマネジメント検定を受験を推奨しています。
5.【広める】従業員同士が自ら健康情報の発信をする
従業員のヘルスリテラシーが高まると、衛生委員会での意見交換が活性化したり、社内の運動部などコミュニティの形成が進んだりと、自然と健康情報を発信する風土や文化が作られるようになります。
禁煙に成功した従業員が、同僚に禁煙方法をレクチャーしたりなど、個人の健康だけでなく組織全体の健康へつながることが期待できるでしょう。
株式会社エムステージでは、ヘルスリテラシーの向上に寄与する、ストレスの耐性や生産性の傾向を把握できる ストレスチェックサービス「Co-Labo」や、従業員の不調や生活習慣病に関する相談も オンラインでいつでも専門職に相談ができる「Sanpo保健室」を提供しています。
資料請求は無料ですので、ぜひお気軽にお問合せください。
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ヘルスリテラシー向上のための取り組み事例
ヘルスリテラシー向上を中心とした健康経営に取り組む企業の事例を紹介します。
株式会社ルネサンス
食事・運動・睡眠のログとアドバイス機能がついた健康アプリを従業員に利用させることで、生活習慣が改善し、「栄養バランスを考えている」と回答する従業員の割合が2018年度は41%だったのに対し、2021年度は55%まで増加させることができました。
個人のリテラシー向上だけではなく、スコアをめぐって従業員間のコミュニケーションが活性化し、会社全体として健康習慣の定着が見られました。
参考:健康経営 先進企業事例集|健康長寿産業連合会 健康経営ワーキング
富士フイルムシステムサービス株式会社
男性従業員の「肥満者増加」という課題の解決に向け、年2回のウォーキングイベントを開催しています。マネジメント層も巻き込んだ事業所対抗戦でチームを結成。
イベント開催後のアンケートでは、今まで運動習慣がなかった参加者の約9割以上の方が本施策をきっかけに「定期的に運動を実施したいという意欲を持つようになった」と回答しました。
参考:健康経営|富士フイルムシステムサービス株式会社
ヘルスリテラシーを高めて、いきいきと健康に働ける組織へ
従業員自らが健康に興味関心を持ち、自発的な健康習慣を身に付けることで、組織全体の活性化につながります。
従業員のヘルスリテラシーを高めるには、健康診断結果の活用や不調に関する相談窓口の設置など、産業保健職との連携が欠かせません。
株式会社エムステージでは産業医・保健師の紹介や専門職とのオンライン面談など、産業保健体制の構築から、健康診断やメンタルヘルス対策の実施など、健康経営に関するトータルソリューションを提供しています。組織規模や業界・業種に関係なく、お気軽にお問い合わせください。