<産業医コラム>ブレスト・アウェアネスとは~自分でできる乳がんチェック~
1.乳がんの現状
乳がんという言葉を聞いて、どのようなイメージをお持ちでしょうか。
著名人で乳がんの闘病が報道されている方も多くいらっしゃり、「とても恐ろしい病気」「いつか自分も罹るかもしれない」というイメージがあるかもしれません。実際、乳がんの罹患数(新たにがんと診断された人数)、死亡数ともに年々増加しており、日本人女性の16人に1人が、一生の間に乳がんになると予測されています。
がんは基本的に高齢になるほど発症率が上昇しますが乳がんは比較的若年に多く、罹患のピークが40代~60代にあることも特徴です。(下表参考)
仕事や子育てなど、社会生活で重要な役割を担っている年代の女性が向き合わなければならない大きな課題の1つになっています。
出典:乳がん診療ガイドライン2022年版
2.ブレスト・アウェアネスとは
実は乳がんと診断された方の5年後の生存率(転移がない場合)は90%以上あり、がんの中では予後良好です。早期に治療に繋げることができれば乳房の温存もできますし、早期の職場復帰が期待できます。つまり、いかに早くがんを見つけられるかが生活の質そのものと直結します。
そこで近年、女性のための健康教育として盛り込まれているのが「ブレスト・アウェアネス」です。これは1990年代から欧米で広まり、日本では「乳房を意識する生活習慣」と定義づけられました。まだ日本での認知度は低いですが、今後ますます教育が進み普及してくると予想されます。ブレスト・アウェアネスは、しこりなどの異常を見つける、いわゆる自己触診とは異なります。実のところ自己触診というのはその効果が確認されていないことから推奨されていません。
ではブレスト・アウェアネスを行ううえでの4つのポイントをご紹介します。
1) 自分の乳房の状態を知る
着替えや入浴、シャワーの際に乳房を見て、触って、感じましょう。浴室の鏡でチェックしたり、仰向けになったときに触ってみたり、生活の中で気軽に乳房を意識する習慣を身に付けることが第一歩です。
2) 乳房の変化に気を付ける
注意すべき乳房の変化として、腫瘤(しこり)、乳頭からの血性(赤色や褐色)の分泌物、乳頭周囲の皮膚のただれ、皮膚の凹みなどがあります。しこりを探すという意識は必要ありませんので、いつもの乳房と変わりがないかという気持ちで取り組みましょう。普段の状態をよく知っていて初めて、小さなしこりなどの変化にも気づくことができます。
3) 変化に気づいたらすぐに医師に相談する
乳房の変化が全て乳がんの症状ではありませんが、変化に気づいたら医療機関を受診しましょう。早い段階で乳がんの治療に繋げることができると、治療そのものが軽くなり体の負担、費用の負担が減ります。早ければ早いほど、仕事への影響も少なくなります。
4) 40歳になったら2年に1回乳がん検診を受ける
乳がん検診の対象は40歳以上の女性で、2年に1度受ける必要があります。検診は市町村が主体となり実施され、ほとんどが公費負担となります。自治体によっては30歳から受けることができたり、年に1回受けられたりと様々です。各々お住いの市区町村の案内を確認する必要があります。
がん検診は2年に1度ですが、がんは進行が早いため受診の合間に腫瘍が大きくなりステージが進行してしまうケースも多くあります。だからこそ、このブレスト・アウェアネスの考え方が肝要になってきます。
3.乳がん検診のポイント
さて、2-4)で触れた「乳がん検診」についてもう少し掘り下げていきたいと思います。
乳がん検診の目的は「乳がんで亡くなる女性を減らす」ことです。乳がん検診にはマンモグラフィ、超音波検査、視診、触診など様々な検査方法がありますが、この目的に対し効果が証明されている検査方法はマンモグラフィのみとなります。
マンモグラフィ(以下、MMG)とは、乳房を圧迫して撮影するX線撮影のことです。大変有用な検査ですがMMGにも弱点があり、50歳未満の、まだ乳腺が多い乳房でのがんの検出が難しいとされています。そういった乳房を高濃度乳房といいますが、高濃度乳房は被ばく量が増えますし、圧迫の痛みを強く感じることもあります。
人間ドックなどで医師からMMGの説明を受けるときは、「私は高濃度乳房ですか?」と訊いてみるのもいいかもしれません。その場合は超音波検査も数年に一度併用することで見落としの確率を下げることができます。超音波検査には被爆や痛みもありませんので、MMGと併せて補助的に使っていくことが有用視されています。
4.職場におけるがん教育の意義
以上、乳がん早期発見のための考え方、ブレスト・アウェアネスとがん検診についてお話させていただきました。
ブレスト・アウェアネスは、検診対象外である39歳以下の女性もぜひ身に付けておいてほしいと思います。特別なスキルは必要ないため、集団教育が効果を発揮することでしょう。
がん教育の一環として、職場での教育、さらには義務教育の中に浸透していくことで、若い方の乳がんの早期診断に繋げる効果が期待できます。
自分の体を一番よく知っているのは自分です。がん早期発見の鍵を握っているのも、医療者ではなく自分自身なのです。(乳がんだけでなく全ての病気に言えることですね)
職場での健康教育のご参考になりましたら幸いです。
<参考文献>
参考文献:マンモグラフィによる乳がん検診の手引-精度管理マニュアル-第8版
ブレスト・アウェアネス(乳房の健康チェック)のすすめ | 乳がん検診の適切な情報提供に関する研究 | 福井県済生会病院 (brestcs.org)