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<産業医コラム>外国人労働者の安全衛生管理

オホーツクの味

「お飲み物は何になさいますか?」。北海道は東のオホーツク海が見えるホテルで、夕食会場に入るとスタッフが流暢な日本語で注文をとり来てくれました。声に顔を上げると、名札には外国人のお名前。よく見ると、会場では多くの外国人スタッフが注文を取ったり、食器を下げたりと熱心に働いています。

どうやら会場は多数の外国人スタッフのおかげで仕事が回っている様子であり、片付けや調理は当然のこと、接客なども担っていました。日本で外国人労働者が活躍していることは知っていましたが、都市部に集中している印象であったため驚くとともに、外国人人材の活躍の場所がますます拡大していることを実感しました。

なお、次の瞬間には北海道の海の幸に心奪われてしまい、どこの国から来たのかを聞くことができなかったのはご愛嬌です。

外国人労働者の抱える安全・健康の課題

それに伴い、外国人は文化的な背景が異なるため、日本で仕事や生活する上で様々な問題が生じます。今回は、特に安全・健康の面に焦点を当ててみましょう。

まず安全面においては、休業4日以上の死傷労働災害は、外国人労働者の増加とともに増え続け、令和3年には、年千人率は3.3と全労働者の2.7を0.6ポイント上回っています。もちろん、業種によって数値は異なりますが、根底には言葉の壁や異文化理解に代表されるようなコミュニケーションのエラーや、安全に対する捉え方が異なることがあることが考えられます。

次に健康面においてはどうでしょうか。そもそも、外国人労働者にとって、異国である日本で医療機関を受診することは想像以上にハードルが高いと言われています。理由としては、受診をしても症状をうまく伝えられない、どこの病院に行けばよいかわからない、そもそも病院に行った事がほとんどない(自国では医療保険が整っていないので診療代が高いため)など挙げられます。

その結果、体調が非常に悪化してからでないと受診を検討せず、治療に時間がかかるという状況に繋がりかねません。また、日本人が当然と思っている1年に1度の健康診断ですら、出身国における医療・保険制度の違いや、宗教・文化・習慣の違いから不思議に思われることもあります。

以上のように、日本人の常識が必ずしも外国人労働者にとっては常識ではないことを捉える必要があります。

対応力の差が企業の成長につながる

このような状況の中、CSR(企業の社会的責任)の観点からも、今まで以上に安全と健康に意識した企業活動を求められるようになっております。そのため、今後は外国人労働者を抱える企業は大きく2極化する可能性があります。違いを理解した上で尊重して柔軟に変化して働きやすい職場環境を模索する企業と、それ以外の企業です。
どちらの企業が継続的成長を遂げられるかは言うまでもありません。

産業保健スタッフの活用

一方で、多くの企業においては、問題だという認識はあるが具体的にどのように対策をすればよいかわからないと言ったような声もあるでしょう。一般的には、適切にリスクアセスメントを行った上で、限られたリソースをどのような順番で、どのように割り振っていくのかを社内で検討する必要があります。

その際に、労働安全衛生に携わるスタッフとして、産業医に相談して協力を得ることも検討ください。産業保健の面からよりよい対策や助言を得ることができるでしょう。

まとめ

多様な価値観や文化が等しく尊重される社会は素晴らしく理想です。一方で、「働く」となると、過度の個別化・個性を尊重すると、結果的に労働者と事業者の双方にとって不幸な結果につながる可能性もあります。
そのため、事業者、労働者、また社内の各種関係者が必要とすることや重要だと考えることを丁寧に協議しながら進めていくことが重要となります。外国人労働者の働きやすい環境を整備することを通して、日本人も含めた社員全員にとって働きやすい環境を目指し、企業の風土を改革し企業価値を高めることに挑戦してみませんか。


<参考文献>


この記事の講師

藏田 清文(くらた きよふみ)
日本医師会認定産業医
合同会社藏田産業医事務所

大阪大学理学部卒業後、2011年4月より国家公務員として勤務開始。同年3月に発生した東日本大震災に伴う緊急事態への対応が業務の大半を占めており、精神的に参ってしまう方や体調不良を訴えて当庁できない方が身近にいた。この経験から働き方を含めた健康管理の重要性を考えるようになり、群馬大学医学部に入学し医師免許を取得。
専属産業医としての経験を経て、現在は嘱託産業医として小売業、製造業、不動産業等の複数企業での産業医活動に従事。


文章出典:​​​​​​​株式会社イーウェル「健康コラム」より寄稿

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