労働安全衛生法をわかりやすく解説!義務事項や改正のポイントを理解しよう


高度経済成長期以降に労働安全衛生法が制定されて以来、改正が繰り返されてきました。度重なる改正で内容が充実しているため、全貌を把握しづらいと感じる担当者の方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、労働安全衛生法の概要から義務の内容、2019年改正のポイントなどについてわかりやすく解説します。労働安全衛生法の詳細を把握したい場合は、ぜひ参考にしてください。

目次[非表示]

  1. 労働安全衛生法とは
    1. 労働安全衛生法が制定された背景
    2. 労働安全衛生法の目的
    3. 労働基準法との違い
  2. 労働安全衛生法で定められる義務一覧
    1. 管理者や責任者、産業医の選任
    2. 安全衛生委員会の設置
    3. 労働災害の防止措置
    4. 安全衛生教育の実施
    5. リスクアセスメントの実施
    6. 健康診断・ストレスチェックの実施
    7. 職場環境の整備
  3. 改正された労働安全衛生法のポイント
    1. 労働時間の適正把握
    2. 面接指導の実施要件の変更と拡充
    3. 産業医・産業保健機能の強化
    4. 産業医に関する情報の周知
    5. 心身の状態に関する情報の取扱いの適正化
  4. 労働安全衛生法を守って、快適な職場づくりを

労働安全衛生法とは

労働安全衛生法について、制定された背景や目的、労働基準法との違いについてわかりやすく解説します。

労働安全衛生法が制定された背景

労働安全衛生法が制定された背景として、高度経済成長期における労働災害の多発があげられます。1955年~1973年の19年間に及ぶ高度経済成長期では、労働災害による死傷者は30万人を超え、死亡者数は6000人以上に上りました。


引用:労働災害による死傷者数、死亡者数|独立行政法人 労働政策研究・研修機構

労働安全衛生法は1972年に制定されましたが、制定後は労働災害による死亡者数が急激に減少しています。

このことから、労働安全衛生法は労働者の生命と健康を守る上で、とても重要な役割を果たしていることがわかります。

労働安全衛生法の目的

労働安全衛生法の目的は、労働者を労働災害や健康被害から守り、安心して働ける社会を目指すことです。目的を果たすために、次の3点が規定されています。

  • 危険防止基準の確立:リスクマネジメントを行い、労働者の健康障害を防止する。さらに労働者に健康診断を実施して、健康リスクの有無を確認し、必要に応じて対策を行う
  • 責任体制の明確化:安全管理者や安全衛生管理者、産業医などを選任する
  • 自主的活動の促進:安全衛生委員会を設置したり、快適な職場環境づくりに取り組んだりして、労働者の安全や健康をサポートする

労働基準法との違い

労働基準法と労働安全衛生法には、制定の経緯や目的において違いがあります。

労働安全衛生法は、高度経済成長期の労働災害における死亡者数の増加を抑えるために、労働基準法をより詳細に規定する目的で作られました。

労働基準法には最低限の労働基準が記載されている反面、労働安全衛生法には職場の労働安全面に関連する組織体制や労働者の健康管理に関することがより詳しく書かれています。

労働安全衛生法で定められる義務一覧

労働安全衛生法には、以下の義務が定められています。

  • 管理者や責任者、産業医の選任
  • 安全衛生委員会の設置
  • 労働災害の防止措置
  • 安全衛生教育の実施

それぞれについて解説します。

管理者や責任者、産業医の選任

労働安全衛生法の「第三章 安全衛生管理体制」には、以下を選任することが定められています。

  • 総括安全衛生管理者
  • 安全管理者
  • 衛生管理者
  • 安全衛生推進者
  • 産業医

以上は事業規模によって、選任の義務について果たすべき内容が異なります。詳しくは、次の記事を参考にしてください。

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安全衛生委員会の設置

労働安全衛生法には、安全衛生委員会について次のように記載されています。

安全委員会及び衛生委員会を設けなければならないときは、それぞれの委員会の設置に代えて、安全衛生委員会を設置することができる。

引用:労働安全衛生法 第三章 第十九条

つまり、安全衛生委員会は安全委員会と衛生委員会を兼ねた組織で、労働者の健康被害を防止することを目的に設置されます。

常時50人以上の労働者を使用する事業場には「安全衛生委員会」の設置が義務付けられています。

労働災害の防止措置

労働安全衛生法には、次のように規定されていることから、事業者は労働災害の防止措置に努める必要があります。

労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。


引用:労働安全衛生法 第三章 第二十八条

具体的には高所作業時の安全帯着用や墜落防止措置の徹底などがあげられます。また、ガスや粉じん、放射線などによる健康障害の予防も求められます。

安全衛生教育の実施

安全衛生教育は、義務づけられている教育と、努力義務の教育に分けられます。

事業者に義務付けられている安全衛生教育は次のとおりです。

  • 雇入れたときの教育
  • 作業内容を変更した場合の教育
  • 厚生労働省が定めた危険または有害な業務に従事する際の教育
  • 職長や労働者を指導・監督する立場にある者への教育

さらに、努力義務にあたる教育は次のとおりです。

  • 安全管理者等労働災害を防止するための能力向上を図る教育
  • 危険または有害な業務に従事する者に対する安全衛生教育
  • 健康教育

アルバイトやパートタイムなどの短時間勤務者に対しても、安全衛生教育を実施する必要があります。

リスクアセスメントの実施

労働災害や健康障害を予防するためにも、リスクアセスメントが欠かせません。とくに安全衛生委員会は、適切にリスクアセスメントを遂行するために重要な役割を担っており、以下について調査審議されます。

  • 労働者の危険を防止するための対策
  • 労働者の健康障害を防止するための対策

事業者は安全衛生委員会を設置し、労働者の健康や安全を守るための対策を講じることが求められます。

健康診断・ストレスチェックの実施

労働安全衛生法では、労働者の安全と健康を確保するために、事業者に健康診断やストレスチェックの実施を義務付けています。

事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。

引用:労働安全衛生法 第七章 第六十六条

事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。

引用:労働安全衛生法 第七章 第六十六条の十

健康診断は企業規模に限らず、実施が義務付けられている点は注意しましょう。ストレスチェックについては労働者が50人以上いる事業所に限り、年1回の実施が義務化されています。50人未満の事業所については、努力義務となります。

健康診断やストレスチェックについて詳しくは、下記をご覧ください。

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職場環境の整備

労働安全衛生法では、職場環境について次のように定められています。

事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、次の措置を継続的かつ計画的に講ずることにより、快適な職場環境を形成するように努めなければならない。
一 作業環境を快適な状態に維持管理するための措置
二 労働者の従事する作業について、その方法を改善するための措置
三 作業に従事することによる労働者の疲労を回復するための施設又は設備の設置又は整備
四 前三号に掲げるもののほか、快適な職場環境を形成するため必要な措置

引用:第七章の二 第七十一条の二

職場環境を快適に保つためには、適度な室温の維持や衛生面への配慮などの労働環境への取り組みが欠かせません。さらに労働者の業務効率化や負担の軽減、人間関係の円滑化など幅広い取り組みが求められます。

職場環境の改善を進めるためには、社内でディスカッションをするなどして、労働者が主体となって取り組むことも重要です。

職場環境の改善については、次の記事で詳しく解説しています。

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改正された労働安全衛生法のポイント

2019年に労働安全衛生法が大きく改正されました。主な改正点のポイントは、次のとおりです。

  • 労働時間の適正把握
  • 面接指導の実施要件の変更と拡充
  • 産業医・産業保健機能の強化
  • 産業医に関する情報の周知
  • 心身の状態に関する情報の取扱いの適正化

各項目について詳しく解説します。

労働時間の適正把握

次のような客観的な方法を用いて、労働時間を適正に把握する必要があります。

  • タイムカードによる記録
  • ICカードによる記録
  • パソコンのログインとログアウトの時間の記録(パソコンの使用時間の記録)

さらに労働時間の記録は、3年間保管することが義務付けられています。

面接指導の実施要件の変更と拡充

面接指導の実施要件について、1か月あたりの時間外・休日労働時間が月100時間から月80時間に引き下げられました。これにより、面接指導の対象となる労働者が増えることになります。

さらに長時間労働者に対する面接指導の流れにも下記のように変更が加えられ、より手厚くなりました。

引用:改正労働安全衛生法のポイント|東京労働局

産業医・産業保健機能の強化

健康リスクが高い状況にある労働者に対する産業保険機能が強化されました。これにより、産業医による面接指導や健康相談が、長時間労働やメンタルヘルス不調などの問題を抱える労働者に行き渡りやすくなります。

また産業医の独立性や中立性を高めるために、環境の整備と産業医のあり方の見直しが行われました。これは、専門的立場から労働者の健康確保のための取り組みを実施しやすくすることが狙いです。

産業医に関する情報の周知

以下のような産業医に関する情報を、労働者に対して周知することが求められます。

  • 産業医の業務の具体的内容
  • 産業医に対する健康相談の申出の方法
  • 産業医による労働者の心身の状態に関する情報の取扱い方法

周知の方法についても定められており、作業場の見やすい箇所に掲示したり、書面を労働者に交付したりなどして、労働者が常に確認できる状態にする必要があります。

心身の状態に関する情報の取扱いの適正化

心身の状態に関する情報には、健康診断や面接指導、ストレスチェックの結果など、他人には知られたくはない労働者の健康関連の情報が含まれます。

それらの情報を収集する場合は、労働者の健康確保に必要な範囲内に留め、適切な保管や管理、使用が定められています。

労働安全衛生法を守って、快適な職場づくりを

労働安全衛生法は、高度経済成長期における労働災害が多発したことを受けて生まれた法律です。労働安全衛生法には義務と努力義務があり、それぞれ企業規模によって規定が異なります。

今回は、労働安全衛生法の原文を一部紹介しながら、法律の内容についてわかりやすく解説しました。労働安全衛生法について正しく理解して、快適な職場づくりを目指してください。


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