労働安全衛生法をわかりやすく解説!義務事項や改正のポイントを理解しよう
労働安全衛生法とは、労働者の健康と安全を守るための事業者の責務を明記した法律です。時代に応じて変化する業種に対応するため、法改正が重ねられています。
企業は労働安全衛生法を正しく理解し、従業員が働きやすい職場環境づくりが求められます。
しかし、労働安全衛生法の義務や最新のルールまで理解することが難しいと感じる人事・労務担当者の方も多いのではないでしょうか。本記事では、労働安全衛生法について、目的や背景、内容をわかりやすく解説します。
2024年、2025年の法改正についても紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次[非表示]
- ・労働安全衛生法とは
- ・労働安全衛生法で定められている事業者の義務
- ・1.安全衛生管理体制の確立(10~19条の3)
- ・2.危険・健康障害の防止措置(20~36条)
- ・3.機械・危険物・有害物などの規制(37~58条)
- ・4.労働者の就業にあたっての措置(59~63条)
- ・5.作業環境管理と作業管理(65条、68条の2、71条の2~4)
- ・6.健康管理(66~68条、69~71条)
- ・7.心身の状態に関する情報の取扱いなど(101~115条の2)
- ・労働安全衛生法にもとづく命令とは
- ・労働安全衛生法に違反するとどうなる?
- ・2024年・2025年 改正のポイント
- ・産業保健職と連携して、抜け漏れがない法令対応を
労働安全衛生法とは
労働安全衛生法の目的や背景、労働基準法との違いについて解説します。
労働安全衛生法の目的
労働安全衛生法は、職場における労働災害や健康障害から従業員を守り、快適に働ける環境づくりを促進する目的があります。
この目的を果たすための施策として、以下の3つを定めています。
- 労働災害防止のための基準の策定
安全衛生に携わる人の役割と責任の明確化
事業者や労働者による自主的な安全衛生活動の促進
労災防止の基準や安全衛生業務を担う役割を明確化し、企業や従業員が主体的に取り組める体制をつくることを目的としています。
参考:労働安全衛生法第1条│e-Gov法令検索
労働安全衛生法が制定された背景
労働安全衛生法は、高度経済成長期に労働災害が多発した背景から、1972年に制定されました。
1955年~1973年の19年間に及ぶ高度経済成長期では、工場法や鉱業法など一部の業種に特化した法規制が定められていたものの、労働災害による死傷者は30万人を超え、死亡者数は6000人以上に上りました。
労働安全衛生法では、建設業や製造業など、高度経済成長期に主流であった業種に沿って制定されました。労働安全衛生法の制定後は、労働災害による死亡者数が急激に減少しており、時代に合わせて法改正が重ねられています。
引用:労働災害による死傷者数、死亡者数|独立行政法人 労働政策研究・研修機構
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労働基準法との違いは?
同じく労働者を守る法律である労働基準法との違いは、成立の背景と目的にあります。
労働基準法は、戦後の新日本国憲法が制定された際に成立した法律で、労働者の基本的な権利を規定するものです。例えば、最低賃金や労働時間、必要な休憩時間、休日など最低限の条件を保証します。
一方で、労働安全衛生法は、労働基準法だけでは労災を防止できなかったことから、安全衛生規制が必要となり成立したものです。従業員の安全と健康を守るため、管理の基準や体制を定めています。
労働安全衛生法で定められている事業者の義務
労働安全衛生法が事業者に定める義務は主に以下の7つです。
- 安全衛生管理体制の確立
- 危険・健康障害の防止措置
- 機械・危険物・有害物などの規制
- 労働者の就業にあたっての措置
- 作業環境管理と作業管理
- 健康管理
- 心身の状態に関する情報の取扱いなど
それぞれについて解説します。
1.安全衛生管理体制の確立(10~19条の3)
労災防止を目指して自主的な取り組みを実施するため、企業に対して「安全衛生管理体制」の確立を義務付けています。安全衛生管理を担う役割をもつ管理者として、以下の設置が求められます。
- 総括安全衛生管理者
- 安全管理者
- 衛生管理者
- 衛生推進者・安全衛生推進者
- 産業医
- 化学物質管理者
- 保護具着用管理責任者
- 作業主任者
さらに、労働者の危険防止対策に関する審議を行う場として、以下の委員会の設置を義務付けています。
管理者の選任条件や各委員会設置の義務基準は、企業の業種や従業員数によって細かく規定されています。設置が必要な管理者、委員会を正しく把握し、安全衛生管理体制を整備することが大切です。
安全衛生管理体制の詳しい基準や、管理者の選任に関しては、以下の記事を参考にしてみてください。
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2.危険・健康障害の防止措置(20~36条)
労働者の危険や健康障害の防止について定めた内容です。
具体的には、以下のように労働者の危険につながるような事項について、必要な措置を講じる義務を課しています。
- 機械や設備により生じる危険
作業場所での転落の防止
有害物質による健康被害の予防
換気や照明などの作業場の環境整備
その他にも、建設業などで多い元請け企業の安全管理責任についても明記されています。下請け企業が安全な作業を行えるよう、元請け企業には設備の安全確保が求められます。
参考:労働安全衛生法 第4章「労働者の危険又は健康障害を防止するための措置」│e-Gov法令検索
3.機械・危険物・有害物などの規制(37~58条)
労働者に危険が及ぶ恐れのある機械や危険物、有害物に関して、検査や表示などが義務付けられています。
機械に関する規制については、機械の故障、異常によるけがや事故を防止するため、以下の事項を義務付けています。
- 製造許可方法
- 検査時期
譲渡制限
機械の検定制度 など
作業上の危険物や有害物については、以下のように製造や譲渡時のルールを定めています。
- 製造の禁止範囲や許可制度
容器への警告表示義務
譲渡時の情報提供義務 など
ボイラーやクレーンなどの特定機械等に該当する機械は、製造に都道府県労働局長の許可や規格適合性の検査が必要です。
また、事業者には危険性・有害性のある化学物質に対してリスクアセスメントが求められます。リスクアセスメントとは、職場に潜んでいる業務上のリスクを特定し、それを改善していく取り組みです。リスクアセスメントの結果をもとに、安全対策の実施をはかります。
参考:労働安全衛生法 第5章「機械等並びに危険物及び有害物に関する規制」│e-Gov法令検索
4.労働者の就業にあたっての措置(59~63条)
労働者が安全に働くための施策として、安全衛生教育の実施義務があります。
安全衛生教育とは、労災防止のために必要な安全衛生知識を習得する教育研修のことです。雇入れ時や作業内容の変更時に実施することを義務付けられています。
クレーンやボイラーなど一定の危険性を伴う機械業務の場合は、特別教育を行う必要があります。また、特に危険・有害な業務については、業務の種類に応じた一定の資格がない者の就業は禁止されています。
参考:労働安全衛生法 第6章「労働者の就業に当たつての措置」│e-Gov法令検索
5.作業環境管理と作業管理(65条、68条の2、71条の2~4)
作業環境管理とは、粉じんや放射線などの健康障害を及ぼす有害因子の状態を把握し、可能な限り良好な状態で管理することです。
労働安全衛生法では、労働者の健康に影響を与える恐れがある業務を行う場合、作業環境の測定と記録を実施し、その結果に応じた改善措置を義務付けています。
熱中症対策を例にとって考えてみましょう。
熱ストレスを示すWBGT値などを用いて作業環境下でのリスクを測定します。改善が求められる場合には、涼める場所を設けたり、休憩場所に氷を設置したりするなど、環境改善を行うのが作業環境管理です。
その他、受動喫煙や作業環境に適した照明・湿度・騒音にも配慮し、快適に働ける職場環境の形成が必要です。
作業管理とは、作業量や時間、方法、姿勢の適正化や保護具着用により負荷を減らすことを指します。
悪影響を及ぼす作業方法がないかを確認し、休憩時間を増やしたり、重い荷物を運ばないようにしたりするなどの措置を行います。
参考:労働衛生の3管理│厚生労働省
参考:労働安全衛生法 第7章「健康の保持増進のための措置」│e-Gov法令検索
6.健康管理(66~68条、69~71条)
労働者の健康管理を目的として、事業者には健康診断やストレスチェックの実施、医師による面接指導を義務付けています。
健康診断については、年1回以上の定期健康診断や有害業務に就く労働者への特殊健康診断など、実施義務は対象者により異なります。
ストレスチェックは、常時使用する労働者が50名以上の事業場において、年1回の実施が義務です。ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定された労働者から希望があった場合、医師による面接指導を行う必要があります。
また、面接指導は長時間労働により疲労が蓄積している労働者に対しても実施する義務があります。指導にもとづいて就業上の配慮事項を企業と共有し、必要な措置を行いましょう。
参考:労働安全衛生法 第7章「健康の保持増進のための措置」│e-Gov法令検索
7.心身の状態に関する情報の取扱いなど(101~115条の2)
労働安全衛生法第11章「雑則」では、安全衛生に関する法令の周知や労働者の心身の状態の情報の取扱いなど、実務的な規定を定めています。
法令の周知として、法令の要旨を作業上の見やすい場所に掲示したり、産業医選任時には業務内容を知らせたりする義務があります。
また、健康診断やストレスチェックなど、健康に関する情報は個人情報として慎重に扱わなければなりません。知り得た情報に対して厳格な守秘義務が課せられ、健康保持に必要な範囲内での情報収集と使用にとどめる必要があります。
参考:労働安全衛生法 第11章「雑則」│e-Gov法令検索
労働安全衛生法にもとづく命令とは
労働安全衛生法にもとづく命令として、「労働安全衛生法施行令」と「労働安全衛生規則」があります。労働安全衛生法に定められている内容を具体的に実行するためのルールを定めたものです。
労働安全衛生法施行令
労働安全衛生法に定められた事項を実施するための細かなルールを規定した政令です。具体的には、主に以下の事項を定めています。
- 用語の定義
衛生管理者、産業医など管理者を選任すべき事業場・作業・業種の条件
労働安全衛生法で規制される機械や有害物の範囲
職長等の教育を行うべき業種
就業制限
作業環境測定
健康診断を行うべき有害な業務
健康管理手帳の交付
参考:労働安全衛生法施行令| e-Gov 法令検索
労働安全衛生規則
職場で労働者の安全と健康を守り、快適な作業環境の形成促進を目的として制定された厚生労働省発行の省令です。労働安全衛生法や労働安全衛生法施行令を具体的に実行するための行動指針をまとめたもので「安衛則」と呼ばれます。主に、以下の4つから構成されています。
通則 |
|
安全基準 |
危険性のある機械や化学物質の取扱いや点検、安全教育などの規定 |
衛生基準 |
衛生面でのリスク防止のための環境整備や点検、保護具着用、教育などの規定 |
特別規則 |
建築業を行う元方事業者、機械や建築物貸与者の危険防止義務の規定 |
参考:労働安全衛生規則| e-Gov 法令検索
労働安全衛生法に違反するとどうなる?
労働安全衛生法では、労働基準監督署による監督体制や、違反した際の罰則規定が定められています。
労働安全衛生法違反が疑われると、労働基準監督官による立ち入り検査の対象となります。さらに違反が発覚した場合には刑事罰の対象となり、懲役や罰則が科される可能性があります。
監督体制
監督体制として、労働基準監督官の権限を明確に定めています。労働基準監督官には、違反が疑われる企業への立入検査を行う権限があります。対象企業の関係者への質問や帳簿・書類の検査、作業環境測定などの実施が主な権限です。企業は、立入検査に協力し、作業停止などの是正指導に従う必要があります。
また、法令違反を通報した労働者に企業が不利益な取扱いをすることの禁止など、労働者の権利を守る内容も明記されています。
罰則規定
罰則の対象となりやすい違反内容は以下の通りです。
【50万円以下の罰金】
・総括安全管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医等を選任しなかった場合
・労災発生時に「労働者死傷病報告」を提出しなかった場合や、虚偽内容を報告した場合 など
【6か月以下の懲役または50万円以下の罰金】
・危険防止や健康障害防止について規定されている事項を実施しなかった場合 など
【1年以下の懲役または100万円以下の罰金】
・ボイラーやクレーンなどの特定機械の製造許可、検定を受けていない場合 など
【3年以下の懲役または300万円以下の罰金】
・重度の健康障害を生ずる化学物質の製造や輸入、譲渡、使用、提供をした場合
参考:労働安全衛生法 第10章「監督等」│e-Gov法令検索
参考:労働安全衛生法 第12章「罰則」│e-Gov法令検索
2024年・2025年 改正のポイント
労働安全衛生法は、産業構造の変化に伴って法改正を重ねてきました。
2024年、2025年の法改正のポイントについて解説します。
【2024年改正】新たな化学物質規制とは
2024年4月の改正では、化学物質に関する規制が新たに定められました。具体的には、以下の管理者の選任が義務化されました。
- 化学物質管理者
保護具着用管理責任者
化学物質管理者の選任
化学物質管理者とは、事業場における化学物質管理にかかわる技術的事項の管理者です。法律で求められている化学物質の自律的管理を化学物質管理者が中心となって担います。
具体的には、有害性が疑われる化学物質を取り扱う際のリスクアセスメントの実施と評価、労働者への周知と教育などを行います。
保護具着用管理責任者の選任
保護具着用管理責任者とは、化学物質による健康被害を防止するために使用される保護具の着用に関する管理者です。健康リスクを低減させるための保護具の選定や使用方法の教育、保守管理を行います。
【2025年改正】保護措置の対象拡大とは
2025年4月より、労働安全衛生法にもとづく4つの省令改正により、危険箇所等の作業現場での安全措置を行う対象範囲が拡大されます。従来は、安全措置が必要なのは雇用関係にある労働者に限定されていました。
しかし、2025年度からは「作業上で何らかの作業に従事する全ての者」に拡大されます。それに伴い、以下も保護措置の対象に含まれるため、対応が必要です。
- 一人親方
他社の労働者
資材搬入業者
警備員
保護措置の内容としては、危険な場所への立ち入りや火気使用、悪天候時の作業禁止、退避などの安全措置が求められます。また、一人親方や下請け業者に依頼し、危険が伴う場所で作業を行わせる場合、保護具使用の必要性を周知することも義務付けられます。
社内の従業員だけでなく、一人親方や他社の従業員なども含めた安全管理体制の見直しや請負構造の確認など、建築業を中心に法改正への対応が必要です。
参考:2025年4月から事業者が行う退避や立ち入り禁止等の措置について、以下の1、2を対象とする保護措置が義務付けられます│厚生労働省
産業保健職と連携して、抜け漏れがない法令対応を
労働安全衛生法では、労働者の健康に影響を与えかねない有害物質や機械、作業環境などに基準を設けて規制しています。労働安全衛生法に違反すると刑事責任を問われ、企業の信頼・信用に大きなダメージが与えられます。
業種や事業規模によって対応が必要な事項は異なるため、安全衛生の専門知識を有する産業保健職と連携し、抜け漏れなく法令対応を行いましょう。
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