〈プロに聞く〉転倒災害・疾病予防のために重要な「足の健康」とその対策

厚生労働省により今年の4月から開始された「第14次労働災害防止計画」では、発生件数の多い転倒災害の防止や腰痛予防に重点が置かれる内容となっており、企業・労働者にとってその対策は喫緊の課題と言われています。

本記事では、足の健康について詳しい株式会社NarrativeFoot代表の我妻誠一氏にお話しを伺いました。


足の状態は身体の健康と深いつながりがある

はじめに、自己紹介をお願いします

株式会社NarrativeFoot代表の我妻誠一と申します。

これまでに、ヘルスケアソリューションを展開する様々な企業にて20年以上、一貫してヘルスケア領域に携わる中で、色々な疾患のプロダクト開発などを行ってきました。

その中でも糖尿病・認知症・がんの予防や患者支援プログラムなどに携わることで、QOL(Quality of lifeの略)とは「足の健康」に集約されるのではないかと考えるようになりました。

厚生労働省が掲げる「健康寿命」とは自立歩行が出来る事であり、そのためには足をいかに健康な状態に保つかが重要であると思い、この会社を立ち上げました。

私が運営している株式会社NarrativeFootは、足の健康を支援する会社です。

一人でも多くの方の、足と靴の悩みを解決するお手伝いをすることがミッションです。


労働災害と足の健康について教えてください

労働災害の発生状況に注目してみると、2021年のデータは、休業4日以上の死傷災害の中で最も多いのは転倒災害で、全体の22.5%を占めています。

墜落・転落と合わせると全体の約37%に上り、足元に起因する事故が多く発生していることがわかります。

また、この転倒災害は、近年増加傾向にあり2021年は3万3000人以上の死傷者が報告されています。

これに対策を講じるような形で、2023年4月から開始した「第14次労働災害防止計画」では、転倒災害の低減や腰痛対策について重点的な目標が掲げられるなど、働く人にとって大きな課題となっていることが分かります。

その背景には、高年齢労働者の増加だけでなく、急速に普及したテレワークなど、労働環境の変化も関係しており、腰痛や転倒災害を防止するためには、正しい姿勢や足の機能について知ることが重要だと考えています。

また、足の構造や状態は、様々な病気や疾患と関連しています。例えば、糖尿病では、高血糖が神経や血管にダメージを与え、足の神経障害を併発します。また、関節リウマチでは、関節の炎症が足の関節や組織を攻撃し、変形や痛みを引き起こすことがあります。

労働災害防止の観点にとどまらず、適切な足のケアや予防策をとることで、足の健康を維持することができます。


腰痛予防と足の健康の関係について詳しく教えていただけますか

ギックリ腰や椎間板ヘルニア等の腰痛に悩む人は全国に2,800万人程いるといわれており、国民的な疾病ともいえる状況です。

業務上、長時間同じ姿勢を保つ仕事や立ち仕事、重い物を扱う仕事では、不安定な姿勢が足や腰に負担をかけます。

そもそも人の身体は、地面に設置している唯一の場所である足で支えています。この足は人体の面積の約2%しかないのです。

たった2%で身体のすべてを支えているという、身体のバランスと安定性を維持するためにとても重要な場所になるのです。

この身体のバランスと安定性を保つためには、本来自分に適した靴を履くことが大切になりますが、自分の足に合う靴を見つけるのは至難の業です。

また、業務上会社から支給される靴を履くようなケースもあると思います。


自分に適した靴選びのポイントはどのようなものでしょうか

正しい姿勢づくりと腰痛を防止するためには、靴の選び方はとても重要です。

多くの方が自分の足のサイズに合っているかどうかを試し履きで確認すると思いますが、その際につま先の位置でサイズを合わせたりしていませんか。

靴のサイズを確認する際は、椅子に腰掛け、足の指を上に向けます。そして「とんとん」とかかとを地面に当て、かかとから靴を合わせるのが本来の履き方です。

その状態でつま先に1~1.5㎝の余裕があるものを選びます。

また、靴紐を結んだ状態で店内を歩き、指や関節などが強く当たる部分が無いか等をチェックしましょう。

ちなみに、靴の脱ぎ履きの際に必ず靴紐も結びなおすようにしてください。

業務上、マジックテープの靴などを履いている方は、毎回履くときにはマジックテープを締めなおすことが重要です。

ぶかぶかの「履きやすい靴」は言い換えると「脱ぎやすい靴」でもあるので、仕事場では転倒などのリスクが高まります。


自分の足をチェックする際に注意すべき点はありますか

自分の足の構造や、特性を知ることが大切になります。

まず、足の構造は内側縦アーチ、外側縦アーチ、横アーチという3つのアーチが存在し、足の安定性と力を発揮させる役割をそれぞれが共同しながら担っているのです。

このアーチこそが足の安定性の重要な役割を担います。

例えば、足の内側アーチが低下していれば偏平足の状態です。偏平足は「柔らかい足」とも呼ばれ、地面を踏んだ時に力を発揮することが苦手です。

もう一つはハイアーチというもので、足の内側のアーチが高くなった状態。ハイアーチは「硬い足」とも呼ばれ、地面からの力を吸収することが苦手なのです。

その他にも外反母趾等がありますが、こうした足の特性は、靴底の減り方や足裏のタコのでき方で知ることもできます。

靴底が部分的にすり減っていたり、タコができていたりするような場合は、足に局所的な圧力がかかっている状態ですので、改善が必要です。


職場での足の健康・転倒予防を改善するための方法についてお聞かせください

ポイントは4つです。

1つ目は、適切な靴選びです。適切な靴は、足や腰の負担を軽減し、安定性を保てます。柔軟性とクッション性に優れた靴を選びことで足の健康をサポートします。出来れば靴は、足の形状や作業環境に合わせて選ぶことで、足の健康と快適さをサポートする役割を果たします。

2つ目は、姿勢の改善です。正しい姿勢は、足や脚への負担を軽減するのに役立ちます。立つ作業や重い物の持ち運びなど、業務中に正しい姿勢を保つよう意識しましょう。正しい姿勢は、足の健康に密接に関連しています。

3つ目は、インソールの活用です。足のアーチや姿勢のサポートには、インソールの使用が効果的です。自分の足の形状などに合ったインソールを履くことで、足の負担を軽減することができます。

4つ目は、定期的な足の状態チェックです。

足は年々変化するのです。40歳前後で筋肉の低下により足の形状が変わったり、出産後の女性はホルモンバランスの変化によって足の形状が変化します。

定期健康診断を年1回受けるように、足も同様に定期的な状態のチェックと必要に応じてメンテナンスを行う事が重要です。

海外では、長時間同じ姿勢を保つ仕事や立ち仕事、重い物を扱う仕事をする方には、会社がインソールを提供していたりします。

インソールは、足の不安定な姿勢を矯正し、正しい姿勢を保つことをサポートしてくれます。

また、インソールは「除圧」といって不安定な姿勢によって足の一部の箇所にかかっている圧力を分散させる効果があります。

これによりタコや魚の目が改善できたり、外反母趾による足の痛みが軽減されます。アメリカ等の諸外国では、インソールの着用は当たり前になっています。

当然、靴選びの際には、普段から使っているインソールを持参し、インソールを基準に靴のサイズ合わせをしています。

この背景には足の健康に関する考え方の違いがあるように思います。

例えば、眼鏡は視力の矯正だということは日本でもよく知られていますよね。これと同じように、アメリカでは姿勢や歩行の矯正としてインソールを着用することが広く一般に捉えられているのです。

私たちは、企業が労働災害や健康経営の一環で従業員へインソールを提供していくような環境を提供してきたいと考えています。

当社では、個々の足に合ったセミオーダーのインソールを企業向けにも提供しています。


足と健康の関連性について、とても勉強になりました。

ありがとうございます。

足の健康は、労働災害のリスクを軽減し、労働生産性を向上させるために重要な要素です。正しい姿勢の維持や転倒予防対策の実施は、足の健康を維持するための基本的な手段です。

また、インソールの活用は、足にかかる負担を軽減し、足の健康をサポートする効果的な方法です。

当社で取り扱っているセミオーダーのインソールは足形の測定は不要です。

インソールに水を注入することで内部の成分が徐々に固形化しますので、その場で作ることができて、尚且つどなたの足にもフィットするものがご提供できます。

また、当社ではインソールの他にも「靴と足のオンライン相談」「FOOT健診」「筋骨格系専門遺伝子分析」そして、それらに関連するFOOTCAREセミナーの実施など、様々なソリューションを提供していますので、ご興味がある方はお問い合わせください。

最後になりますが、労働災害の予防と足の健康への意識を高めることで、快適な労働環境を実現しましょう。

我妻誠一

我妻誠一

株式会社NarrativeFoot 代表 大学卒業後、ヘルスケアの大手ベンダーにてセールス部門の責任者として従事。 その後ヘルステックベンチャーにてゼロイチフェーズのbizdev部門の立上げや直近では産業保健領域での新規事業開発などサービス統括責任者を担当し、2022年12月に足の健康をドメインとした会社を設立

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