人的資本経営とは?健康経営との関連、情報開示・推進のポイントを紹介
近年、企業からの注目が高まる「人的資本経営」。
本記事では、2022年に公表された「人材版伊藤レポート2.0」の内容をもとに、人的資本経営に関する基本的な内容と、情報開示や健康経営との関連性といったトピックを紹介します。
企業価値の向上に向け、注目される「人的資本経営」とは
人的資本経営とは、人材とその能力等を資本と捉えた経営のこと
人材を資本として捉えるという考えは、1776年にイギリスの経済学者アダム・スミスがその著書『国富論』の中で記した一節が起源とされています。
この考え方は、後にアメリカの経済学者であるゲイリー・ベッカー等によって「人的資本(ヒューマンキャピタル)」という言葉で定義されることになります。
その後、2001年にOECD(経済協力開発機構)の報告書では、人的資本を「個人的、社会的、経済的厚生の創出に寄与する知識、技能、能力及び属性で、個々人に備わったもの」と定義を拡大しました。
また、近年では、人的資本経営を中長期的な企業価値向上に向けた人材戦略と位置づけ、ESG(Environment:環境/Social:社会/Governance:ガバナンス)の観点から関心が高まりつつあり、企業においてもその重要性が注目されています。
「人材版伊藤レポート」で大きな注目を集めている人的資本経営
2020年、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」において人的資本に関する議論が行われ、報告書として「人材版伊藤レポート」が公表されました。
同報告書によれば、人材の「材」は「財」であるとされ、人的資本経営というキーワードが再び大きな注目を集めることになります。
人的資本が重要視される背景には、第四次産業革命や少子高齢化、「人生100年時代」の到来といった社会情勢をはじめ、脱炭素化、新型コロナウイルスにおける働き方の変革といった出来事があると考えられています。
そして、国内では2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードに「人的資本への投資と開示」に関する記載が盛り込まれたことも大きな話題になりました。
また、岸田政権による成長戦略「新しい資本主義」では、その中核に「人への投資」が位置づけられていることも注目を集める一因となっています。
人的資本経営の情報開示に関する潮流と、開示の内容
ISO30414の策定~日本における人的資本の情報開示
2018年、ISO(国際標準化機構)はISO30414を策定し、人的資本に関する情報開示を開始しました。
「伊藤レポート2.0」によれば、こうしたISOの策定や開示の義務化等を受け、海外では人的資本に関する情報の開示に向けて機運が高まっており、その傾向は継続しているとされています。
また、国内においては2021年にはコーポレートガバナンス・コードが改訂(※)され、人的資本や知的財産に関する情報の開示が求められるようになったことで、企業からより一層注目を集めることになりました。※日本取引所グループ
人的資本の情報開示、その内容とは
人的資本の情報開示については、主に多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備の方針、そしてその実施状況等について行われます。
また、人的資本に関する情報開示の際には、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ、分かりやすく具体的に情報を開示・提供する必要があります。
金融庁では「「経営・人的資本・多様性等」の開示例」として、人的資本等の情報開示にまつわる好事例集を公開していますので、企業の方は参考にしてみましょう。
なお、人的資本経営における人材戦略とはどのようなものであるかというと、「3つの視点」と「5つの共通要素」がキーワードとされていますので、要点を以下で紹介していきます。
人的資本経営、推進の要点は?「3つの視点」と「5つの共通要素」
人的資本経営のキーワードである「3つの視点」と「5つの共通要素」の要点
人的資本経営では、経営戦略と人材戦略の連動が重要となります。
「人材版伊藤レポート2.0」では人的資本経営の要点として「3P・5Fモデル」を提唱しています。
3Pは「3つの視点(Perspectives)」、5Fは「5つの共通要素(Common Factors)」であり、それぞれ次のような内容となっています。
▼人的資本経営における「3つの視点(Perspectives)」
①経営戦略と連動しているか
②目指すべきビジネスモデルや経営戦略と現時点での人材や人材戦略との間のギャップを把握できているか
③人材戦略が実行されるプロセスの中で、組織や個人の行動変容を促し、企業文化として定着しているか
▼人的資本経営における「5つの共通要素(Common Factors)」
①目指すべきビジネスモデルや経営戦略の実現に向けて、多様な個人が活躍するポートフォリオを構築できているかという要素(動的な人材ポートフォリオ)
②個々人の多様性が、対話やイノベーション、事業のアウトプット・アウトカムにつながる環境にあるのか(「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」)
③目指すべき将来と現在との間のスキルギャップを埋めていく(「リスキル・学び直し」)
④多様な個人が主体的、意欲的に取り組めているか(「社員エンゲージメント」)
⑤時間や場所にとらわれない働き方
人的資本経営の推進はCHROが中心的役割をもつ
人的資本経営の実現には、経営戦略と連動した人材戦略を実践し、同時にこれら非財務情報をいかに可視化させ、投資家に伝えていくかということが重要とされています。
「人材版伊藤レポート2.0」を読むと、前述した3つの視点の中で最も重要とされているのは「経営戦略と人材戦略を連動させるための取組」であることがわかります。
具体的には、人材戦略の起案・策定および実行を担当する責任者としてCHRO(最高人事責任者)の設置等を起点にすることが推奨されています。
CHROは、自社の社員との対話のみならず、投資家等のステークホルダーとのコミュニケーションを主導する役割を持ちます。
そして、CEOやCFOといった経営陣とは定期の議論を行い、経営戦略とのつながりを意識しつつ取組みを進めることが肝要になります。
経営戦略と人材戦略の連動について、そのほかには次のような取組みが挙げられています。
- 全社的経営課題の抽出
- KPIの設定、背景・理由の説明
- 人事と事業の両部門の役割分担の検証、人事部門のケイパビリティ向上
- サクセションプランの具体的プログラム化
- 指名委員会委員長への社外取締役の登用
- 役員報酬への人材に関するKPIの反映
人的資本経営と健康経営の関連性
人的資本経営の推進で重要視される健康経営・ウェルビーイング
人的資本経営の取組みを推進するための工夫として、健康経営への投資とウェルビーイングの視点の取り込むことが挙げられています。
具体的には、社員の「健康・保持増進」や「エンゲージメント向上」といった取組みが重要視されています。
社員の健康保持・増進は、生産性や企業のイメージを向上させ、組織の活性化にも期待ができることから、経営陣は意識を持って取組むことが肝要です。
これらの活動はエンゲージメントの向上にもつながることから、ウェルビーイングの視点からも重要視されています。
また、経営陣が健康経営の意義や重要性を理解し、ステークホルダーへ情報発信することも欠かせません。
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人的資本経営における健康経営の推進
人的資本経営において重要な取組みとなる健康経営。
その健康経営を効果的にするため、「人材版伊藤レポート2.0」では、健康経営推進の組織・体制を構築することにも言及しています。
例えば、健康経営を推進する管理職や担当者を置き、健康経営の理念を広め、理解度を高めること。
また、健康経営の推進に関する具体的な方策を示すことや、ノウハウを共有する等して、実効性を担保する体制を構築することです。
経営陣としても、企業価値の向上を目指しウェルビーイングを捉えることで、多様な人材が能力を発揮できる組織を作るという視点が必要になります。
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「人材版伊藤レポート2.0」の内容を元に、人的資本経営に関する基礎的な情報と、健康経営との関連性について紹介しました。
人材を資本としてみなす人的資本経営においては、健康経営に関する活動も重要になりますので、日頃の産業保健活動を大切にしていきましょう。