〈産業医コラム〉女性の健康(更年期編)

日本医師会認定産業医・産業衛生学会専攻医

永田 明久

近年、就業人口の減少や共働き世帯の増加から、職場における女性の存在感は日々高まっています。2016年4月に通称「女性活躍推進法」1)が施行、2018年に改正を経て、2022年4月1日から女性活躍推進法に基づく行動計画の策定・届出、情報公表が101人以上300人以下の中小企業にも義務化され女性が活躍しやすい基盤をつくることが求められています。


「第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ~(令和2年12月25日閣議決定)」2)では2030年代には、誰もが性別を意識することなく活躍でき、指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会となることを目指す、と明記されています。


2020年までに指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度となるように期待する目標設定がされていましたが、2020年代の可能な限り早期に達成することを目指すと修正されています。進捗が遅れている要因については、社会全体として固定的な性別役割分担意識が根強く、経済分野においては管理職・役員へのパイプラインの構築が途上であることが指摘されました。


諸外国に目を向けてみると、「世界経済フォーラム(ダボス会議)」で「ジェンダー・ギャップ指数2021」3)が公表され、日本の総合スコアは0.656(0が完全不平等、1が完全平等)であり、156カ国中120位と横ばいであり、先進国でも最低レベル、アジア諸国の中では韓国、中国やASEAN諸国より低い結果となってしまいました(2022年は5月22日~26日に開催)。


これらの背景のもと、女性がもっと仕事で活躍できるようになるためには、多様な働き方を模索し、長時間労働や「女性の健康」について正しく配慮する必要があります。特に、管理職への昇進はプライベートの犠牲が伴うイメージがあるため、これを払拭するため働き方の自由度をあげ、社会全体のワークライフ改善に取り組むことが望まれます。


女性の健康について正しく配慮するために、今回は「更年期症候群」に着目したいと思います。

2021年7月にNHKが更年期症状について大規模な調査を実施し4)、更年期症状が働く人に何らかのマイナスの影響を与えた人は推計100万人を超えると報告されました。

現在、更年期世代(45~54歳)は労働者のおよそ750万人を占めており、離職を選択する方も存在します。会社は積極的に更年期を理解することにより、更年期ロスを最小化することがCSRの一環としても重要といえるでしょう。

まず、女性のライフステージを確認すると、「出生後」、「小児期」、「思春期」、「成熟期」を経て「更年期」、「老年期」と経過します。

女性の生涯における疾患分布は更年期で大きく変化する点が男性と異なります。特に、更年期・老年期に関わる疾患の中で、女性ホルモン(エストロゲン等)に関連する更年期症状は社会生活に影響を及ぼします。


更年期症状とは、ほてり、めまい、気分の落ち込み等、ホルモンバランスの乱れに起因する心身の不調をいいます。主に40~50歳代の誰もが経験する可能性があり、女性の更年期とは、閉経前の5年間と閉経後の5年間を併せた10年間を指します。

全国の40~50歳代の男女およそ4万5千人へのアンケートの結果4)、更年期特有の症状を「現在、経験している」または「過去3年以内にした」と回答した女性は約37%でした。


女性の更年期は閉経を基準とします。閉経とは月経が完全に止まってしまう現象を指し、1年以上月経が来ないことを確認してはじめて閉経と言います。世界的には更年期という言葉は使われず、「閉経移行期」または「周閉経期」と「閉経後」という区分をすることが多くなっています。


更年期症候群の要因としては、主に卵巣機能の低下による内分泌環境の変化(エストロゲンの低下)が挙げられますが、その他にも該当する年齢には家族との関係性が変化したり、心理的な影響が更年期症候群の症状の出現に関与しているといわれています。


更年期症状については、大きく3つに分けられます。

①血管の拡張と放熱に関係する症状として、ほてり・のぼぜ・ホットフラッシュ・発汗等、

②精神症状として、気分の落ち込み、意欲の低下、イライラ、情緒不安定、不眠等、

③その他の身体症状として、めまい、動悸、胸が締め付けられるような感じ、頭痛、肩こり、腰や背中の痛み、関節の痛み、冷え、しびれ、疲れ易さ等があります。


更年期症状が出現する頻度は、日本では前述の通り約37%でしたが、2014年の海外の報告では、40~64歳の女性の約57%に血管運動神経症状(VMS)が出現したと報告され、倦怠感、うつ傾向、睡眠障害等も認められ、QoL(生活の質)が低下します5-6)

特にホットフラッシュは、最も一般的な症状であり、日常生活や睡眠といったQoLに大きな影響を及ぼし、不安、神経過敏、日常生活における生産性の低下、うつ病を引き起こすことがあります。更年期症状が雇用や収入に悪影響があった女性は推定75.3万人に上りました4)。


更年期症候群の治療は、ホルモン補充療法(HRT)、漢方薬、向精神薬が挙げられます。

HRTは、更年期障害の主たる原因の一つは閉経に伴う女性ホルモンであるエストロゲンの減少であるため、エストロゲンを補充するホルモン補充療法は更年期障害に有効です。ただし、健康な女性では問題ありませんが、既にもっている病気の種類によっては、HRTが出来ない方もいらっしゃいます。


漢方薬は有効であることが示唆されており、主に用いられる薬剤として三大漢方薬と呼ばれる当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸があります。

向精神薬は、精神症状のみならず、ホットフラッシュなどを軽減すると言われています。


更年期症状が及ぼす社会への影響として、「仕事を辞めた」人は約1割も存在しました。仕事にマイナスの影響があった「更年期ロス」の内訳を見ると女性では「仕事を辞めた」という人の割合が最も多い結果でした。

「症状への業務上の配慮がなかった」「偏見を感じた」「嫌がらせやハラスメントを受けた」といった回答も少なくなく、職場での配慮の欠如も浮き彫りになりました。

また、オーストラリア女性へのアンケートでも更年期症状が仕事満足度と働く意欲を低下させ、離職意向を高めていると報告されています7)。

さらに、アメリカの更年期情勢においても、労働生産性を低下させていることが分かっています8)。

本邦でのNHKの調査でも、更年期症状が原因で、いずれかの雇用劣化(非正規化、降格・昇進辞退、労働時間・業務量減、仕事をやめた)が起きたと自ら認識した者の割合は、全体の15.3%を占めていました。


離職した1割の主な理由は

「仕事を続ける自信がなくなったから(60.7%)」

「働ける体調ではなかったから(42.5%)」

「職場に迷惑がかかると思ったから(29.6%)」

「職場に居づらくなったから(22.6%)」

を挙げる人が多いという結果であり、自責が強い傾向がありました。


年期ロスは職場や周囲の対応に原因がある可能性があり、降格や人事評価の低下や退職勧奨など労働面での問題に加えて、「症状への業務上の配慮がなかった」「偏見を感じた」「からかわれたり軽くあしらわれたりした」「嫌がらせやハラスメントを受けた」という人も少なくありません。

また、職場で更年期症状により問題を抱えても相談できていない女性が60.8%もいることは看過できない状況です。


更年期症状と仕事を両立するために職場でどんな支援や制度が必要か尋ねたところ、女性では「育児休暇や生理休暇の使いやすさ」が43.6%で最も多く、次いで「休んだときの収入補償」41.6%でした4)


職場で更年期症状がどのように扱われるのが望ましいか聞いたところ、男女ともに40%近くが「職場の誰もが更年期症状や対処法について理解できる研修(職場の全員への研修)」を望んでいる一方、「職場の人には知られたくない・自分ひとりの問題にしておきたい」という人も女性で9.5%に上っています。


職場の誰もが更年期症状を理解できる環境をつくり、制度を有効に活用できるように工夫することが求められています。


更年期は女性の健康でフォーカスされますが社会全体の問題です。

月経や不妊治療、更年期といった女性の健康に関する話題はオープンに語られることが少なく、当事者自身も知識が乏しい場合があります。しかし、女性のウェルビーイングの向上や、ライフプランとキャリアプランの両立に向け、啓発が求められているところです。


そこで、悩みを抱える当事者だけでなく、その周囲の理解を促進するためにも、男女のみならず企業等組織に対しても、広く正しい知識を発信していくことが重要です。


特に女性は、「休暇を使いやすい職場環境」を求めています。

雇用劣化が起きた時の職場環境として、「人手不足」「対人ストレスが大きい」「求められる責任や役割が大きい」を挙げる人が多く、雇用劣化が起きた原因として、「仕事を続ける自信がなくなったから」「働ける体調ではなかったから」「職場に迷惑がかかると思ったから」「職場に居づらくなったから」を挙げる人が多いという結果でした。


社員に長く安心して働いてもらうためには、ライフステージの変化に応じて柔軟に適用できる支援策の提供が不可欠ですが、更年期離職防止策を会社全体で検討することが重要であり、相談できる窓口の設置も検討してみても良いかもしれません。肝心なのは「労働者を思いやる心」です。


引用参考文献

1) 「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」

2) 内閣府「第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ~(令和2年12月25日閣議決定)」

3)  WORLD ECDONOMIC FORUM Global Gender Gap Report 2021 

4)  NHK「更年期と仕事に関する調査2021」

5)  Makara-Studzińśka et al Epidemiology of the symptoms of menopause - an intercontinental review. Menopause Review. 2014;13(3):203-211.

6)  Avis NE et al  Duration of menopausal vasomotor symptoms over the menopause transition. JAMA Intern Med 2015 175(4):531–539.

7) Jack G et al Work PM.(2014) Women and the menopause: an Australian exploratory study. Climacteric.17(Suppl 2):34.

8)Whiteley J et al Shah S.(2013)The impact of menopausal symptoms on quality of life, productivity, and economic outcomes. J Women's Health 22(11):983–990.


文章出典:株式会社イーウェル「健康コラム」より寄稿

永田明久

永田明久

博士(医学)、法務博士、日本医師会認定産業医・産業衛生学会専攻医、日本輸血・細胞治療学会認定医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本血液学会専門医・指導医

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