〈産業医コラム〉10月1日はピンクリボンデー
福内産業医事務所
日本医師会認定産業医 福内 雅子
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ピンクリボンデーとは
ピンクリボンは、乳がんの早期発見、早期診断、早期治療の重要性を伝えるために世界共通で用いられているシンボルです。
1980年代に米国で生まれ、日本では2003年頃からピンクリボン運動が始まりました。
毎年10月1日はピンクリボンデーとされており、東京タワーなど各地のシンボルをピンク色にライトアップしたり、企業や病院とタイアップした講演会など様々な乳がん啓発イベントが開催されます。
なぜ乳がんの啓発が必要か
日本人女性が生涯で乳がんに罹患する確率は10.6%、およそ9人に1人です(2017年)。
そして、日本人の乳癌好発年齢は、40代後半と60代前半です。
この年代は、多くの女性が、職場で重要なポストに就いていたり、育児や介護などでとても忙しい時期でもあります。
それゆえ、自分のことはついつい後回しになってしまう方が多く、気がついたら何年も乳がん検診から遠のいてしまう方が出てきてしまうのです。
職域の定期健診には乳がん検診が含まれていないため、改めて受けていただく必要があります。
ただ、この年代は大きな病気をしたことがない方が多いため、「早期発見のために検診を」と言われても、いまいち受診に繋がりません。
日本人の乳がん検診受診率は47.9%(2019年)といまだに欧米(70〜80%)との間に大きな差を認めます。
乳がんにおいては、早期発見が非常に大きな意味をもつため、一人でも多くの女性に定期的な乳がん検診をお受けいただくよう呼びかけていくことが必要なのです。
乳がんは早期発見がとても大切
乳がんの種類により異なりますが、Stage0(非浸潤性乳がん しこりになる前のごく早期のがん)の5年生存率はほぼ100%、10年生存率は95%を超えます。
StageⅠ(しこりの大きさが2cmを超えず、脇のリンパ節への転移がない)における10年生存率は90%以上です。
言い換えると、早期に発見された乳癌患者さんの多くは、10年後も乳癌で亡くなっていないということです。
これは、肺がんや膵臓がんと比較するとかなり高い数字です。
乳がんを予防する方法は残念ながらありません。
大切なのは、乳がんで命を落とさないこと、そのために早期発見が必要です。
乳がん検診の実際
ほとんどの乳がん検診では、マンモグラフィと超音波のいずれか、または両方が行われています。
男性のために説明しますと、マンモグラフィというのは乳房を大胸筋ごと根元から十分に引っ張り出し(この時点で痛い)、さらに2枚の板で乳房をできるだけ薄く潰して(さらに痛い……)撮影するレントゲン写真のことです。
乳房の大小に関わらず、痛みを伴います。
欧米の乳がん罹患率は日本よりも高く、いまだ増加傾向ですが、1990年代以降乳がんによる死亡は減少しています(日本は両者とも増加)。
この要因の1つが、マンモグラフィでの乳がん検診普及による早期発見の増加だとされています。
痛いからできれば受けたくないという方もいらっしゃるのですが、しこりになる前の早期乳がん発見、ひいては乳がんによる死亡を避けるために、マンモグラフィは欠かせない検査なのです。
なお、超音波検査については、マンモグラフィで“高濃度乳腺”とされる方や40代の方に追加することで乳がん発見率が上昇するということがわかっています。
あくまで個人的な意見ですが、2つの検査を交互に行うとそれぞれの検査間隔が長くなってしまうので、40代以上の方についてはマンモグラフィに超音波を適宜追加していただく方法をお勧めいたします。そして30代の方については年1回の超音波検査をおすすめいたします
乳がん検診を受けやすい環境を
平日は忙しい女性のために、土日にあいている健診機関も徐々に増えつつあります。
そして、ピンクリボンデーに合わせて毎年10月の第3日曜日には、全国規模で乳がん検診を実施するJ.M.S (ジャパン・マンモグラフィ・サンデー)が開催されます(2021年は10月17日の予定。実施機関など詳細はhttps://jms-pinkribbon.com/)。
乳がん検診は定期健診に含まれない項目であり、がん検診の取り扱い自体デリケートなものなのですが、例えば健診の際に乳がん検診をオプション検査として追加しやすい仕組みや健診機関の選定であったり、乳がん検診や精密検査を受けるための時間を確保しやすい環境づくりであったり、会社側でできることがあると私は思います。
ピンクリボンをきっかけに、男女問わず乳がんに関心を向けていただければ嬉しいですし、身近なパートナーやご家族からの「乳がん検診、受けてきたら?」というひとことが受診のきっかけになったら、それはとても素敵なことです。
文章出典:株式会社イーウェル「健康コラム」より寄稿