〈産業医コラム〉産業保健とマインドフルネス
労働衛生コンサルタント 日本医師会認定産業医
久保 浩太
「マインドフルネス」とは人事担当だけでなく、働いている方々であれば一度は聞いたことのある話であると思います。産業保健は仕事と人のマッチングを適正に行い、健やかに仕事を続けることを目指す領域です。
作業環境管理から始まり、作業管理、個人の健康管理の順で進めることが望ましいとされていますが、現実問題では作業環境の管理だけではうまくいかないことの方が多いでしょう。
ましてや、コロナ禍の今、テレワークの普及によって、昨年までごく普通であった、作業環境が激変している職場がある(もちろんそうでないところも多いと思いますが)というのが現在の我々の居るところではないでしょうか。
つまり、作業環境の整備が急務である今、作業管理と健康管理の重要性がその時間的な合間で非常に有用性を増しているのです。
まさに「マインドフルネス」はこの作業管理と健康管理に直結する要素のひとつとなり得ます。
「マインドフルネス」とは、一言で言うと、古代から存在していた瞑想のテクニックから宗教色を減じ、実生活に落とし込んだ心理のテクニックのことを指します。特徴としては、わかりやすく言えば“現在”の自分の感情に“気づく”ということです。
この“気づく”というキーワードに反応される方は心理面にたけた方々と思われます。
なぜなら、これこそがストレスチェックに代表される、ストレスマネジメントのセルフケアの基盤となる為です。
具体的にはマインドフルネスは瞑想に似た要素があります。
目をつむったり、時間をかけたりするところです。もちろんリラクセーションの効果もありますが、実のところは自分の思考を観察するために、五感をわざと遮断したり、一見無駄にも見える時間をかけたりしているのです。
最近は瞑想アプリなどもありますので、調べてみると良いでしょう。(※1)
コツは“今”に着目することで、“未来”や“過去”のことは一度置いておくということです。
例えば、来週のプレゼンは大変そうだ、と思ったとしたら、“来週”なので一旦放っておいて“今”できる入浴をするとか、誰かと相談をするとか行動に移っていくことです。来週失敗することを恐れて、メンタルを深堀りしていくことはしません。これがマインドフルネス的な発想といえます。
マインドフルネスには内服薬でいう、気分安定剤のような効果があります。(医学的観点から見ると思考様式が内服と同じような効果をもたらしうるのは、精神医学や心療内科の興味深いところであり、神秘的ですらあるところです。)
そのため、薬効と副作用があるように、良い点と悪い点があります。
良い点はメンタルが落ち気味のとき、“今”に着目するため行動を起こしやすくなります。
悪い点としてはメンタルの調子がよく、この先の“未来”に希望を持っているとき、“今”に着目してしまうと、その希望も興ざめしてしまう危険性をはらんでいるのです。
仕事をする上ではこの良い面を活かして、悪い面は何とか抑えたいというのが本望でしょう。そのためには、まず自分の体調が良いのか悪いのかを見極めるセルフケアの能力が必須です。体調が悪いということが分かっていればマインドフルネスを取り入れるとメリットが多く、体調が良い時には取り入れなければよいのです。
体調の悪い時には産業保健スタッフはとても味方になりますので、もし体調がすぐれない時や自分自身の中で仕事がうまくいっていないと感じるときには早期の相談をされることをお勧めいたします。
(※1)参考情報
マインドフルネスといったら「Serch inside youself」
要約サイトhttps://youdoku.hatenablog.com/entry/2018/07/05/093809
1人で実践を行うにはやや空しいという方には
https://yoga-lava.com/meisoon/?utm_source=GAW_brand
■久保 浩太 【略歴】労働衛生コンサルタント、日本医師会認定産業医、産業衛生学会専攻医、遠隔産業衛生研究会(発起人)、麻酔科学会専門医
※文章出典:株式会社イーウェル「健康コラム」より寄稿