【丸井グループ】戦略的なサステナビリティ経営を軸にV字回復

「健康経営」に取り組む企業が増えてきていますが、経営的な観点から見れば、健康経営に取り組むことの「費用対効果」が気になるところでしょう。

株式会社丸井グループは、健康経営(同社では「ウェルネス経営」と呼称)を含む、戦略的なサステナビリティ経営に取り組むことで、「健康経営銘柄」に連続して選定されるとともに、業績においても増収増益を実現しています。

同社の執行役員として、そして統括産業医として「ウェルネス経営」を推進する小島玲子先生にお話を伺いました。

目次[非表示]

  1. 1.「健康」がゴールではない。丸井グループの「ウェルネス経営」とは
  2. 2.「企業文化の変革」に注力して経営危機からV字回復
  3. 3.健康経営の推進が業績やワークエンゲージメントに与える好影響
  4. 4.健康経営はコストではなく投資


「健康」がゴールではない。丸井グループの「ウェルネス経営」とは

〈プロフィール〉

小島玲子(こじま・れいこ)

産業医、医学博士。丸井グループ執行役員、健康推進部部長、専属産業医。産業医科大学医学部卒業。大手メーカーの専属産業医を10年間務める傍ら、総合病院の心療内科にて定期外来診療を担当する。2006年より北里大学大学院の産業精神保健学教室に在籍し、2010年、医学博士号を取得。翌年に丸井グループ専属産業医となり、2014年、健康推進部の新設に伴って部長に就任。2019年、執行役員に就任。著書は『産業保健活動事典』(2011年)、『改訂 職場面接ストラテジー』(2018年)など。日本産業衛生学会専門医、指導医。

――最初に、小島玲子先生のご略歴について教えていただけますか。

株式会社丸井グループ産業医で執行役員の小島玲子と申します。産業医科大学を卒業後、産業医として約20年、複数の企業に勤めてきました。

当社では後述する通り、社員の健康が目的ではなくもっと広い概念の取り組みと捉えているため、健康経営ではなく「ウェルネス経営」という名称で呼んでいます。

ウェルネス経営をはじめとする各種の取組みの効果が実を結び、「健康経営銘柄」に選定されました。また、業績においても増収増益を実現しています。


――「ウェルネス経営」が一般的な健康経営と違う部分はどのようなところでしょうか。

おそらく、多くの企業で取り組まれている健康経営のゴールは、病気予防を軸にした社員の「健康」だと思います。

もちろん社員の「健康」は企業活動のベースとなりますので、とても大切です。

当社でも設立50年以上になる丸井健康保険組合により、自前の人間ドックや健康施策を行っており、産業保健部門による様々な取り組みも行われています。

しかし、丸井グループのウェルネス経営は、社員の健康そのものが目的ではありません。

当社が目指しているのは、ウェルネス経営を通じた「企業文化の変革」と「社会のしあわせ」です。

働く全員が自ら考え、自ら行動して創造性を高め、「社会のしあわせ」に貢献する取り組みを主体的に行うことです。


「企業文化の変革」に注力して経営危機からV字回復

――ウェルネス経営の推進方法は、具体的にどのような活動なのでしょうか。

ウェルネス経営の基本は、自ら手を挙げ、社員が自発的に取り組むことからです。

そこで、2016年に全社横断のウェルネス経営推進プロジェクトを立ち上げました。

プロジェクトのメンバー選考は、氏名や所属を匿名にした小論文の公募で行われますので、熱意が伝われば新入社員もメンバーに選任されます。

初年度は50人の枠に260人の応募があり、倍率5倍を超える一番人気のプロジェクトとなりました。

そして、手挙げ式で選抜されたウェルネス経営推進のプロジェクトメンバーが「こんな活動をしたい」とアイディアを出し合い、メンバー同士で対話を重ねながら、実行に移していきます。

たとえば、全社員がいきいきと運動できる企画を考えたり、近隣の企業にプロジェクトメンバーが出かけて行き、その企業と一緒に社外向けの健康経営セミナーやヨガ教室を開催するなど、社員発の取り組みが多く行われています。

こうしてウェルネス経営に共感する「伝道師」を増やすためにも、プロジェクトメンバーは1期1年間で総入れ替えし、現在4期目となっています。他の各種プロジェクトが出来た現在でも応募は2倍を超える人気があります

つまり、ボトムアップからのアプローチが活かされた活動になっているのです。

――「ウェルネス経営」に注力しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。

丸井グループには、「すべての人がしあわせを感じられるインクルーシブで豊かな社会を共に創る」という「ビジョン2050」があります。このビジョン実現のために行っているのがウェルネス経営です。

「ウェルネス」という言葉は、1960年代に米国の医師が「輝くようにいきいきした状態」と定義したのが最初だそうです。

社員全員が「イキイキ」した状態になれば、社会の活力にもつながります。ウェルネス経営は、近年注目されているSDGsにもリンクするものだと思います。

また、ウェルネス経営などサステナビリティ経営に注力することになったひとつのきっかけとして、当社は2009年・2011年と、二度の経営危機を経験していることがあります。

通常、経営危機を乗り越えるためには事業戦略も不可欠ですが、当社はその事業戦略の土台となる「企業文化」に注目したのです。

自ら考え、自ら手を挙げる企業文化にシフトし、その企業文化の変革を軸として、経営危機からの「V字回復」を成し遂げることが出来ました。


健康経営の推進が業績やワークエンゲージメントに与える好影響

――「ウェルネス経営」の推進によって具体的にどのような効果があったのでしょうか。

ウェルネス経営に重きを置く企業文化を醸成してきたことのひとつの効果として、「人件費の削減」と「ワークエンゲージメントの向上」に成功しています。

2008年3月期の年間の一人当たり平均残業時間は130時間でしたが、2019年3月期には42時間となり、88時間もの削減を実現しています。

これを金額に置き換えると、2008年に33.6億円だった残業代を7.7億円まで下げ、25.9億円の削減が出来たことになります。

そして、6.8%(2008年)だった離職率も2.3%(2019年)にすることができています。

また、新職業性ストレス調査票を用いたストレスチェック組織分析では、全社員のワークエンゲージメントが3年間で3ポイント向上しました。

また「社会のしあわせ」をめざす取り組みとして、しあわせの「見える化」についても実証実験を行っています。


――どのようにして「しあわせ」を測るのでしょうか?

「しあわせ」を客観的に測るコンセンサスの得られた指標は、社会にいまだ存在していません。

何とかしあわせを何とか「見える化」できないかということで、日立製作所の矢野和男氏が開発したスマートフォンアプリ「ハピネスプラネット」を用いて実証実験を行いました。

このアプリは、スマートフォンに内蔵されている加速度センサーを利用して身体の動きを計測し、その動きから「しあわせ」を数値化することができます。

このアプリを活用してチーム毎にしあわせ度を競う「しあわせフェス」というイベントを2019年9月に行ない、社員約700名が自発的に参加しました。

ここで数値化された「しあわせ」をもとに、参加者の心の資本(希望、困難への対処力など)がどのくらい向上したかが概算でわかります。

心の資本の向上効果には業績換算式があり、それによるとしあわせフェスによる心の資本の向上効果は21.7憶円の営業利益向上に相当することがわかりました。

これは2019年12月の「MARUI IRDAY」にて投資家の方へも情報展開しています。

ウェルネス経営を推進したことによって得られる効果は、こうした各種の数字だけにとどまりませんが、各種の取組みの結果を数字として「見える化」することが重要と考えています。

これらの取組みが評価され、3年連続で「健康経営銘柄」に選定していただくこともできました。


健康経営はコストではなく投資

――最後に、企業の方にメッセージをお願いします。

健康経営の推進には、費用や時間といったコストが発生しますので、前向きではない企業もあるかもしれません。

あるいは「健康経営に取り組んでいるけれど、それほど効果を実感していない」というケースもあるでしょう。

特に経営層や健康経営の実務者は、「健康経営」を通じて自社が何を成し遂げたいのか、あらためて考えることが必要だと思います。

「健康」を病気予防のためと狭くとらえていると、発生する費用はコストと思えるかもしれません。

しかし健康経営は、そのやり方によっては、社員の疾病予防にも、職場の活性化にも、企業文化の醸成にも、企業価値向上にも、一石何鳥にもなる取り組みとなり得るのです。

各企業が「当社は健康経営を通じて何を成し遂げたいのか」を考えることが、今後の日本の健康経営の発展にとって大切だと思います。


〈企業概要〉

株式会社丸井グループ

1931年創業、社員数約5,300名。創業以来、小売・金融一体の独自のビジネスモデルを、時代や顧客のニーズの変化に合わせて、革新・進化を行ってきた。「ウェルネス経営」をひとつの軸にサステナビリティ経営に取り組み、「健康経営銘柄」の選定を受けるなど、高レベルな活動に取り組む。

株式会社丸井グループ公式ホームページはこちら


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