2023年4月より「第14次労働災害防止計画」がスタート
2023年4月より「第14次労働災害防止計画」がスタートします。
国から公表されるこの労働災害防止計画を基本とし、事業者や労働者は以降5年間の労働災害の防止や働く人の健康保持・増進を推進していくことになります。
計画には様々な内容が盛り込まれていますが、本記事ではその概要をピックアップしてお伝えします。
目次[非表示]
「第14次労働災害防止計画」の概要と労働災害の現状
「14次防」とは、2023年度以降の労働災害防止計画
「14次防」とは「第14次労働災害防止計画」の略称であり、国が公表・推進する安全衛生の計画です。
先般、厚生労働省より「第14次労働災害防止計画」の素案が公表され、2023年2月には労働政策審議会にて専門家による答申が行われました。
この「労働災害防止計画」は、端的にいえば政府が掲げる今後5年間の労働衛生や産業保健に関する方針であり、14次防は2023年4月から2028年3月までの5か年に関する計画です。
第1次の労働災害防止計画は1958年に策定されましたが、社会情勢や技術革新、働き方の変化を受け、これまでに様々な改定を繰り返してきた背景があります。ちなみに、「第13次労働災害防止計画」は2019年4月から2023年の3月までの計画です。
また、第14次労働災害防止計画の素案におれば、重点事項は以下のように定められています。
労働災害を取り巻く現状と課題
労働災害防止計画は、単に政府が方針を掲げるだけでなく、中央労働災害防止協会等をはじめとした労働災害防止団体、企業の経営者などの事業者、労働者の協力があってはじめて実現されます。
働く人にとって、「労働災害防止計画」は聞き慣れない言葉かもしれませんが、こうした取り組みによって、業務に関連した事故やけが、疾病といった労働災害の件数は減少し、安全と衛生の水準を向上させてきました。
一方で、近年でも労働災害による死者数は増加傾向にあります(上図)。
死傷災害の発生状況を見てみると、死傷災害件数とその千人率は上昇傾向であり、内訳では「転倒」「動作の反動・無理な動作」といった、働く人の作業行動に起因するものが多い。
労働災害の発生率に関しては、60歳以上の高年齢労働者が増加しているだけでなく、中小規模の事業場での労働災害が多数を占めています。そのため、14次防では働く高年齢者および中小規模の事業場における労災防止策が重要視されます。
また、高年齢者や女性就業者の増加、テレワークの普及等を背景に、様々な健康課題への対応が求められていることから、産業保健の体制や活動の見直しが必要とされています。
14次防における主なアウトプット指標とアウトカム指標
14次防においては、労働災害を防止するための具体的な計画が定められており、特にその重点事項における取組の進捗状況を「アウトプット指標」と定め、さらに達成目標を「アウトカム指標」と設定しています。
アウトプット指標は、事業者において実施される事項(後述)をアウトプット指標と定め、労働者の協力のもと推進します。また、国はその達成を目指し、本計画の進捗状況把握の指標として取り扱います。
そして、このアウトプット指標で定められる事項を実施し、その結果として期待される事項がアウトカム指標として定められます。
ちなみに、アウトカム指標に掲げられている数値は仮定および推定、期待を込めた試算値であるため、単にその数値の比較によって達成状況のみを評価することはしません。
これらの仮定や推定・期待が正しいかどうかということも含め、その取組がアウトカムに繋がっているかを検証します。
▼主なアウトプット指標(事項)
⑴労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進
・転倒災害対策(ハード・ソフトの両面からの対策)に取り組む事業場の割合を60%以上とする。
・卸売業・小売業/医療・福祉の事業場にて、正社員以外への安全衛生教育の実施率を90%以上にする(2027年まで)
・介護・看護作業において、ノーリフトケアを導入する事業場の割合を増加させる(2023年と比較して2027年までに)等
⑵高年齢労働者の労働災害防止対策の推進
・エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」に基づく取り組みを実施する事業場の割合を60%とする。
⑶労働者の健康確保対策の推進
・メンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合を2027年までに80%以上とする。
・必要な産業保健サービスを提供している事業場の割合を向上させる 等
※その他にも、外国人労働者が適切な労働災害防止の教育が受けられるよう、母国語で翻訳した教材の使用および教育を実施している事業場の増加や、化学物質のリスクアセスメントに関する指標が挙げられています。
▼主なアウトカム指標
⑴転倒の年齢別私傷年千人率を男女ともその増加に歯止めをかける
⑵60歳代以上の死傷年千人率を2027年までに男女ともその増加に歯止めをかける
⑶仕事等に関する強い不安、ストレス等がある労働者の割合を50%未満とする
これらの取り組みにより、死亡災害を5%減少、増加傾向にある死傷災害に歯止めをかけ、2027年までに減少させる狙いがあります。
次労働災害防止計画の重点対策について
自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発も欠かせないものとされています。
安全衛生の対策に取り組む企業・事業者が社会的に評価される環境を整備することを掲げています。(具体的には、安全衛生に取り組むことによる経営や人材確保・人材育成の観点から実利的なメリット等について周知)
あわせて、増加傾向にある高年齢労働者の労働災害防止対策の推進として「エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン)」に基づく対策の促進(エッセンス版の作成等による周知啓発)。
また、働く人の健康確保対策の推進については、メンタルヘルス不調対策や過重労働対策の推進等も引き続き行っていく考えとされています。
〈計画の重点事項〉
安全衛生を取り巻く現状と施策の方向性を踏まえ、以下の項目を重点事項とし、重点
事項ごとに具体的な取組を推進する。
- 自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発
- 労働者の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進
- 高年齢労働者の労働災害防止対策の推進
- 多様な働き方への対応や外国人労働者等の労働災害防止対策の推進
- 個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
- 業種別の労働災害防止対策の推進
- 労働者の健康確保対策の推進
- 化学物質等による健康障害防止対策の推進
14次防のキーワード「AI」「DX」「VR」「メタバース」「人的資本経営」
14次防の中には、計画を推進していくためのキーワードも複数挙げられています。
14次防における安全衛生対策は、ウィズコロナ時代を見据え、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展を踏まえ、AIやVR、メタバース等の積極的な活用が期待されているようです。
働き手や働き方の多様化に合わせ、様々なニーズに対応できるものを目指すとされているのです。
また、これら取り組みを進めていく上で掲げられているキーワードが「人的資本経営」であります。人的資本経営はその名の通り、人材をコストではなく「資本」として捉え、その人材へ投資することを基礎とした経営法で、近年では大きな注目を集めています。
14次防においては、労働災害の防止のみならず、こうした経営的な観点から安全衛生対策を推進することが重要であるとされています。
そしてもう一つは、多様な人材の一人ひとりが十分に能力を発揮できるよう、ウェルビーイングの確保も求められています。
産業保健に関する目標
14次防では、メンタルヘルス不調や過重労働対策、業種別の労災対策など、様々な分野における計画が盛り込まれています。
中でも産業保健に関する内容をピックアップすると、労働者の健康保持増進に関する課題はメンタルヘルスや働き方改革への対応、前述した多様な労働者の健康課題への対応などがあり「産業保健体制や活動の見直しが必要である」という記述があります。
また、産業保健活動の実態にも触れられており、法令に基づく産業保健体制が整備されているにもかかわらず、効果的な活動が行われていないことや、働く人の健康の保持増進が有効に図られていない事例があるため、この点も活動の推進が求められています。
そして、企業等の規模による産業保健活動の格差も取り上げられています。産業医の選任義務がない事業場(従業員50名未満)では産業保健活動が低調な傾向であり、小規模事業場における産業保健体制の確立についても触れられています。
・
・
・
ここに記載した内容は「第14次労働災害防止計画」を構成するほんの一部です。本計画には、述べてきた内容以外にも様々な課題と、その綿密な対策が掲げられていますので、人事担当者や産業保健スタッフの方は厚生労働省のページも必ず確認しておきましょう。
新型感染症の流行やそれに伴う働き方の多様化など、企業や労働者を取り巻く環境は大きく変化しました。不確実性が高い社会の中で、次の5年間も産業保健活動をはじめ、健康の保持増進に努めていただければと思います。
株式会社エムステージでは、産業医や保健師の紹介からメンタルヘルス領域まで、産業保健のあらゆるお悩みに対応するサービスを展開しています。人事労務課題にお困りの方はぜひ一度お問い合わせください。