眼科専門医であり産業医でもある、川島素子先生に聞く「職場における目の健康課題とその対策」

現代の人は仕事だけでなくプライベートでもスマートフォンやパソコンの画面を見つめる時間が長くなっており、目にかかる負荷も大きいと言われています。

本記事では、眼科専門医・産業医として活躍されている川島素子先生へインタビューを行い、見過ごされがちな「目の健康」とその改善策についてお話を伺いました。


現代の働く人は自覚なく「目」を使い過ぎている

〈プロフィール〉

川島素子(かわしま・もとこ):1998年慶應義塾大学医学部卒業。東京都済生会向島病院、東京都済生会中央病院、東京歯科大学市川総合病院を経て、2012年慶應義塾大学医学部眼科学教室特任講師。2022年より久喜かわしま眼科副院長、せんじゅ眼科理事、2021年よりかわしま労働衛生コンサルタント事務所代表。眼科の臨床・研究だけでなく、産業医、労働衛生コンサルタントとして眼科と産業保健をつなぐ活動にも取り組んでいる。


川島素子先生、本日はよろしくお願いします。はじめに、今回のインタビューの要点を教えていただけますか。

お伝えしたいことは大きく分けて二つあります。

一つは、働く人は目の不調を見過ごしてしまいがちであり、またその深刻さや正しい対処法があまり知られていないということ。

そしてもう一つは、目の不調は生産性等にも大きく影響するため、企業はもっと「働く人の目の健康」について、意識を持って対応していただきたいということ。

以上の2点が、眼科専門医・産業医としてお伝えしたいことです。


働く人の「目」の健康についてどのような課題があるとお考えですか。

私が産業医として活動を始めたのは10年ほど前ですが、その当時でさえVDT(Visual Display Terminals)に関する目の疲れ、目の乾きについて課題を抱えるものの何も対処していない人は多いと感じていました。

しかし、現在はそれ以上に過酷な状況であることが挙げられます。

その背景には、スマートフォンやパソコンを利用する時間が圧倒的に増えていることにあります。

デバイスの多様化や業務の多くがデジタル化したことで、就業時間中にパソコンの画面を見続けることはもちろん、通勤中や休憩中、就寝前にもスマートフォンを利用するような機会が増えました。

現代の働く人は目を休める時間が極端に短い傾向にあるため、今後は多くの方が目の健康課題に直面することを懸念しています。


コロナ禍以降の働き方・生活様式の変化による影響についてはいかがでしょうか。

新型コロナウイルス感染症の流行により、リモートワークの急激な普及など労働の環境も大きな変化がありましたが、部屋の明るさや机と椅子の高さ、画面と目の距離など、業務に適していない環境でパソコン作業をする人も増加したと考えます。

また、職場にいてもマスクを着けている時間が長いかと思いますが、マスクをしていることで自分の吐いた息が目の表面にあたり、涙の蒸発が促されて目を乾かしてしまう「マスクドライアイ」といった、いわば現代的な課題も出てきています。

目にかかる負荷が増えている一方で、こうした「目の健康課題」に気づける機会は少ないのです。

例えば、年に1回は法定の健康診断がありますが、目に関する診断項目は視力検査くらいのものしかなく、自身の目の不調に向き合う場面が少ないという現状があります。

生活習慣病等であれば、健康診断で有所見の結果が出た場合、再検査や保健指導につながり、本人の自覚にもつながる機会がありますが、「目が乾く・かすむ」「ちょっと見えづらい」程度の症状では見過ごされてしまうことがほとんどです。

ただし、これらの目の不調の影には様々なリスクが隠れているため、充分な注意が必要になるのです。


働く世代が特に注意したい目の健康課題とその対策

働く人は、どのような目の不調に気を付ければ良いでしょうか。

代表的なものはドライアイです。

ドライアイという言葉は広く一般に知られており、自覚症状のある人も多いのですが、その危険性や対策についてまでは浸透していないと感じています。

ドライアイは単に目が乾くということだけでなく、乾きにより目の表面が傷付きやすい状態になることが危険なのです。

目の表面の傷が増えてくると自覚症状として見えづらさや痛みを感じるようになってしまい、日常生活にも大きな影響が出てしまいます。

また、ドライアイは頭痛と、ドライアイによる眼精疲労は肩こりや倦怠感とも深い関わりがあるとされています。

それらの不調により集中力が下がることでプレゼンティーズイムにも影響し、生産性を低下させる要因になるのです。

そのため、働く人のみならず、企業においても適切な対策が求められており「たかが乾き目」ではすまされないことを知ってほしいです。

後ほど調査データもご提示して詳しくお話しますが、ドライアイをはじめとした目の不調・プレゼンティーイズムの損失はとても大きなものですので、決して看過できるものではありません。


緑内障に罹患する人も多いと聞きますが、注意点を教えていただけますか。

もう一つ、働く世代の人が特に注意したい目の病気として緑内障が挙げられますが、これも重症化するまで見過ごされがちな疾患です。

緑内障は罹患率が高く、かつ最終的には失明につながる恐れのある疾患ですので、細心の注意が必要になります。

事実として、緑内障は40歳以上のおよそ20人に1人が罹患する病気とも言われており、日本における視覚障がいの原因の第1位です。なお、視覚障がい認定で身体障害者手帳を保有する方の1/4以上が緑内障によるものなのです。

失明や視覚障がいはQOL(生活・生命の質)に大きく影響し、転倒や交通事故はじめとした労働災害にもつながるほか、うつや認知症の要因ともなります。

なぜ緑内障は重症化するまで見過ごされがちになるかというと、一部の視野が欠けても両目で見えない部分を補ったり、脳で見えない部分を補正するため、なかなか症状や進行に気づくことが難しいからなのです。

さらに緑内障で欠けた視野は治療をしても回復しないため、早期に発見してこれ以上視野が欠けないよう進行を遅らせることが重要です。

ですので、特に40歳以上の人、近視の人、家族歴がある人ではリスクが高まることや、定期的な検診が大切になることを知ってほしいです。


目の不調について、個人で取り組める対策はありますか。

こうした目の疾患の予防・改善には、セルフケアとセルフチェックが重要になります。

セルフケアは、1時間のパソコン作業ごとに遠くを眺めたり、深呼吸(涙の分泌を促すといわれる)をしたりして目を休める時間を取り入れることや、画面を凝視し続けると瞬きの回数が減るため、意識して深い瞬きをすること、目の周りを温める、市販の目薬を手元に置いておくことなどが挙げられます。

また、画面に照明や窓からの光が映りこまないようにする、複数の画面を使用している場合は、ピント調節の回数を減らすために、目とディスプレイとの距離や文字サイズなどの設定を揃えるなどのパソコンの作業環境を整備することも大切です。

これらの方法の具体的な内容については参天製薬様と制作したリーフレットにまとめてありますので、ぜひ活用してみてください。

「そろそろ考えよう、自分の目のこと(参天製薬株式会社)」

※クリックにてPDFがご覧になれます。

参天製薬のホームページでは、見え方等のセルフチェックをオンラインで行うことができますので、自身で目の不調に気づき、場合によっては眼科を受診する等して、ドライアイや緑内障等の早期発見につなげてください。

視野セルフチェック(普段の生活では気づきにくい「視野の欠け」をチェック)​​​​​​​※スマートフォンには対応していません。

10秒&目の症状チェック(ドライアイの可能性をチェック)


目の健康管理は個人だけでなく企業でも課題意識を持って取り組むべき

目の健康保持・増進について、企業ではどのような取り組みが大切になりますか。

企業には、働く人の目の健康課題やそれにまつわる様々な不調は生産性にも大きく影響することを知っていただきたいです。

産業医科大学の研究によれば、目の不調等によるプレゼンティーイズムの経済的損失は「うつ病」より大きいと試算されており、看過できないものです。

それだけでなく、メンタルヘルス不調についても目の健康状態が深く関係しているとも考えられています。

ぜひともこうした事実を経営的な視点から受け止め、適切な対策に取り組んでいただきたいです。

具体的には、産業医等の専門スタッフと連携して、職場巡視で課題を発見することはもちろん、衛生委員会の場を有効活用する等して、リテラシーを向上させるための教育・啓発も行ってほしいです。


目の健康課題について、川島先生はどのような活動をされていますか。

これまでに様々な講演を行ってきましたが、最近では参天製薬様と一緒に、2022年6月から7月にかけて「アイケアチャレンジ!マンスリープログラム」を実施し、その中で目の不調対策と主要な目の疾患に関するセミナーを行う等、啓発活動に取り組んでいます。

このプログラムは、座学だけでなくアスレティックトレーナーも登壇し、参加者と一緒に眼精疲労解消のエクササイズも行います。

また、参加した442名に対しプログラム実施前後にアンケート調査を行っており、様々な成果を得ることができています。

プログラム実施前は41%の方が「目の調子が悪い」と回答していましたが、実施後は18%に減少しています。

目の不調が改善されることは、生産性にも好影響を与えます。目の不調に伴うプレゼンティーイズムによる損失額については、プログラム実施後に1人あたり月間9,746円の改善が認められました。

その他にも、プログラムを通じて多くの調査結果を得ることができましたので、詳細についてもチェックしてください。


「アイケアチャレンジ!マンスリープログラム」の詳細はこちら(プレスリリース)

▼「アイケアチャレンジ!マンスリープログラム」に関するお問い合わせ先は以下。

参天製薬株式会社 疾患啓発企画チーム healthcare_awareness@santen.com


目の健康を保持増進することは、従業員のパフォーマンス向上や健康で長く働ける職場づくりの上でとても大切なことです。

また、「アイケアチャレンジ!マンスリープログラム」の調査結果が示すよう、目の健康やそれにまつわる様々な課題は、適切な対応を行うことで改善することが可能なのです。

ぜひ、目の健康について見つめ直してみてください。



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川島素子

川島素子

(かわしま・もとこ):1998年慶應義塾大学医学部卒業。東京都済生会向島病院、東京都済生会中央病院、東京歯科大学市川総合病院を経て、2012年慶應義塾大学医学部眼科学教室特任講師。2022年より久喜かわしま眼科副院長、せんじゅ眼科理事、2021年よりかわしま労働衛生コンサルタント事務所代表。眼科の臨床・研究だけでなく、産業医、労働衛生コンサルタントとして眼科と産業保健をつなぐ活動にも取り組んでいる。

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