〈産業医コラム〉家族が便潜血陽性。あなたはどうしますか?

クローバーホスピタル病院診療部長
原田 真吾


「検診を受けた結果、便潜血陽性だった。」と、家族から突然の連絡。

私は、医療の現場で消化器の専門医として従事しています。今まで何人もの便潜血陽性の患者さんを検査・手術・抗癌剤治療・緩和医療を行ってきました。

家族から想定外の連絡のため、自分の家族が大腸癌?抗癌剤治療?人工肛門?残された家族はどうなるのか?など、様々な不安がよぎりました。

便潜血陽性と連絡を受けた翌日には、大腸カメラができるように手配し、私自身不安な様子は一切見せずに平静を装いながら、一緒に病院に向かいました。大腸カメラを含めた人間ドッグを行い、結果は全て異常ありませんでした。

その時の安堵感と家族が健康であることへの感謝は今でも忘れられません。今回、私は家族に「便潜血陽性だった」と言われてとても不安になりましたが、データをもとに考えましょう。


便潜血検査は、検査を受けた人の約6%が陽性となり、さらにその中でも、便潜血陽性の場合、約3%に癌が発見されると言われています。

つまり、10,000人中600人が便潜血陽性となり、その600人の陽性者の中から18人に大腸癌が発見されます。

この数字を見て、どう考えますか?

便潜血陽性者の97%の方は癌ではないのです。良性のポリープ、痔、大腸の炎症、または便が硬く大腸の壁をこすって出血によるものなどが考えられます。

ただし、「97%の人が大丈夫だから、自分もきっと大丈夫だろう」と考えるのは、危険です。実は、便潜血反応は全ての異常を検出できるわけではありません。

早期の大腸癌は便潜血陽性となる確率は約60%、進行癌ならば約90%です。この数字からは、便潜血陰性だからといって大腸癌ではないということです。


私が今まで診察してきた患者さんの中には、検診で便潜血陽性を指摘されていましたが、数年間放置し、末期癌の状態で病院受診しにくる患者さんもたくさんいました。

そのような患者さんからは、「仕事が忙しくて受診できなかった」、「痔からの出血だと思っていた」、「自分が大腸癌のはずはないから大丈夫だろう」など様々な自分なりの解釈をしていました。

実際、便潜血陽性で要精密検査と指摘されたが、実際に医療機関を受診している方は約55%と半数に過ぎなかったというデータもあります。

つまり約45%の方が受診していないのが現状です。便潜血検査で陽性の人が精密検査を受けた場合、受けなかった人たちより生存率が平均5倍も高いという研究結果もあります。


さて、あなたの大切な家族が便潜血陽性だったらば、どうしますか?

おそらく、あなたは、放置せず1度病院受診をススメると思います。大腸癌は早期のうちに発見し、適切な治療を受ければ100%に近い確率で治りますが、放置すれば治るはずの癌を進行させることになりかねません。

お腹が痛い、便が細くなった、目で見て便に血が混じっている、便が出にくいなどの症状が現れたときは、早期癌ではなく進行癌となっている可能性があります。

無症状のうちに発見し治療することが重要です。あなた自身も家族から見れば大切な家族の1人ですので、検診で便潜血陽性となり要精密検査が必要となった場合は、近隣のクリニックやかかりつけ医に受診をしましょう。

参考文献
[1] 大腸がん検診マニュアル (日本消化器がん検診学会・大腸がん検診制度管理委員会編)

[2] 大腸ポリープ2014(日本消化器病学会編)


■原田 真吾(はらだ・しんご)
昭和大学医学部卒業。関東労災病院で研修後、横浜市立大学医学部消化器・腫瘍外科学入局。
現在はクローバーホスピタル病院診療部長として地域医療に貢献しながら、複数企業で産業医活動を行っている。

<資格>日本医師会認定産業医、産業衛生専攻医 労働衛生コンサルタント(保健衛生)、 日本在宅医療認定専門医・指導医、日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医、消化器がん外科治療認定医

※文章出典:株式会社イーウェル「健康コラム」より寄稿




原田真吾

原田真吾

(はらだ・しんご)昭和大学医学部卒業。関東労災病院で研修後、横浜市立大学医学部消化器・腫瘍外科学入局。現在はクローバーホスピタル病院診療部長として地域医療に貢献しながら、複数企業で産業医活動を行っている。

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