災害時の避難と感染症対策には、産業医との連携が効果的

本稿は、2020年7月31日現在の情報に基づいて執筆したものです。

目次[非表示]

  1. 1.頻発する水害等の自然災害と、新型コロナ対策を両立させることの大切さ
  2. 2.自宅が自然災害に見舞われて避難所で過ごす場合
    1. 2.1.避難する必要がない場合
    2. 2.2.避難所以外の選択肢を検討することも大切
    3. 2.3.避難所で過ごすときに注意すること
      1. 2.3.1.避難所に持参するもの
      2. 2.3.2.避難所での感染防止対策
  3. 3.仕事中、災害に見舞われて会社にとどまる場合
    1. 3.1.水害の場合は、被災する場所にいないことが最善の対策
    2. 3.2.会社にとどまらざるを得ない場合は「職場クラスター」を発生させないように努める
      1. 3.2.1.産業医による「職場巡視」を活かして滞在スペース確保する
      2. 3.2.2.飛沫感染防止のために対人距離を保つ
      3. 3.2.3.定期的な消毒
      4. 3.2.4.感染防止対策に必要な物資も備蓄しておく

頻発する水害等の自然災害と、新型コロナ対策を両立させることの大切さ

近年は台風や豪雨に見舞われる頻度が増え、その場合の被害も激甚化がみられます。特に、2017年以降は、「平成29年7月九州北部豪雨」、「平成30年7月豪雨」、「令和元年東日本台風(台風19号)」と毎年大きな水害被害が発生し、今年2020年も「令和2年7月豪雨」 の被害に見舞われており、被災地域では多くの人が避難所で過ごすことを余儀なくされています。

その一方、新型コロナウイルス感染症の流行は今後も継続することが見込まれており、避難所では感染防止対策に万全を期する必要があります。

テレワークも広く普及した現在、自宅で仕事をしている時に被災することも考えられます。

ここでは、自宅で自然災害に見舞われて避難所で過ごす場合と、職場にいるときに地震に見舞われてそこにとどまる場合について、それぞれ押さえておくべき点を確認しておきます。なお、これらの項目は、衛生委員会の場を活用して、従業員に周知しておくことが求められます。


自宅が自然災害に見舞われて避難所で過ごす場合

避難する必要がない場合

自宅が自然災害に見舞われた際、避難所に避難する必要があるのは、自宅にとどまることが危険な場合です。 

例えば、地震に見舞われたときも、自宅に大きな被害がなく、食料や水、そして生活に必要な物資が備蓄してあれば、自宅にとどまることができます。

ただし、自宅にとどまるためには、今後の地震発生に備えて、建物の耐震化や防災備蓄を進めておくことが重要です。


避難所以外の選択肢を検討することも大切

大きな災害が発生したときに、市町村がすべての住民を受け入れられる避難所を整備することは困難です。

また、避難所が開かれた場合も、多くの避難者が集まり、いわゆる「3密」(密閉・密集・密接)の状況になるとともに、トイレを含む生活環境が悪化することから、感染症の拡大も懸念されます。

この点については、産業医による衛生講話などを活用し、感染症に関するリテラシーを高めておくことが肝要です。

自宅が、ハザードマップにおいて浸水被害が想定される場所にある場合は、平常時から、親戚や知人宅に一時的に避難することを検討しておくとよいでしょう。


避難所で過ごすときに注意すること

避難所に持参するもの

非常持ち出し品に、マスク、アルコール消毒液、体温計を加えておきましょう。

避難所での感染防止対策

避難所を運営する側も、段ボールなどの間仕切りで飛沫感染を防ぐ、アルコール消毒液を適所に置くなどの感染防止対策を講じますが、避難所を利用する側も、自分自身で感染防止対策を徹底することが必要です。

・手洗いや消毒の徹底

食事の前や、トイレに行った後、また、手すりやドアノブなど多くの人が触れるものにさわった後などは、必ず手洗いやアルコールによる消毒を行います。


・「3密」を避ける

他の人とは2メートルほど距離をとるとともに、密接した状況での会話は避けましょう。


・自分自身の健康状態をチェックする

避難所で過ごす際は、発熱や咳などがないか健康状態を定期的に確認し、体調の変化があった場合は、避難所の運営者に申し出て指示を仰ぎます。


仕事中、災害に見舞われて会社にとどまる場合

水害の場合は、被災する場所にいないことが最善の対策

地震は、その発生時期をピンポイントで予測することはできませんが、台風や集中豪雨に伴い起こる水害は、その時期を予測することができます。例えば、台風の場合、上陸の可能性が高まると、どの地方にいつ頃上陸するか、またそのときの勢力がどれくらいかなど詳細が、テレビ・ラジオの気象情報を通じてわかるからです。

自社が、ハザードマップにおいて浸水被害が想定される場所にあれば、台風が接近し、浸水被害が考えられる場合、従業員に在宅勤務を指示し、会社に出社させないことが重要です。

また、浸水被害が想定されないケースでも、暴風の影響で交通機関が考えられる場合は、従業員の安全確保を最優先し、風がおさまり交通機関が平常運行に戻ってから出勤するなどの指示を出します。


会社にとどまらざるを得ない場合は「職場クラスター」を発生させないように努める

地震は突然起こるため、多くの従業員が会社にいる時間帯に被害に見舞われることも考えられます。首都直下地震のような大きな地震が起こった場合、市街地火災が多発し、またそれが延焼する中で従業員が帰宅すると、自ら危険にさらされるだけでなく、発災後に優先して行われるべき救助・救援活動に支障が生じかねません。このため、企業は、自社建物の安全を確認した上で、従業員を職場にとどめることを求められています。

その結果、新型コロナウイルス感染症の流行下で、多くの従業員が数日間職場で過ごすことになりますから、従業員同士によるクラスターが発生しないよう、感染防止対策を徹底することが重要です。

産業医による「職場巡視」を活かして滞在スペース確保する

職場が過密にならないように、できるだけ広い滞在スペースを確保します。会議室や応接室などの活用も検討して拡充を進めます。

ただし、書庫や倉庫など、余震が起こった場合に危険な場所は、滞在スペースには適しません。

また、咳や発熱など感染の疑いがある人には、専用スペースと専用トイレを準備します。

飛沫感染防止のために対人距離を保つ

人と人との間隔は、できるだけ2メートル確保できるようにレイアウトを決めておきます。他の従業員と十分な距離が保てない場合は、段ボールなどで間仕切りを作ります。

定期的な消毒

手すりやドアノブ、トイレなどの共用部分は、毎日時間を決めて消毒作業を実施します。

感染防止対策に必要な物資も備蓄しておく

水、食料品や使い捨てトイレ・トイレットペーパーなどの防災備蓄に加えて、感染防止対策に必要な物資の備蓄も必要です。

従業員の健康管理のための非接触型体温計の他、次の物資についても備蓄を検討します。

・消毒用

石けん、アルコール消毒液、ペーパータオル など

・個人防護具

マスク、使い捨て手袋、眼を守るゴーグルやフェイスシールド など

窓を開けて換気することも必要ですが、窓を開けられないビルの場合は、扇風機を準備しておくとよいでしょう。

これらについて、産業医の職場巡視を活用することが効果的です。

「棚やキャビネット等から物が落下する危険性がないか」「職場滞在中のクラスター発生リスクが低減できているか」等、専門的な立場からアドバイスをもらうようにしましょう。

参考資料「避難所における新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン」(令和2年6月、東京都)

解説:本田茂樹(ほんだ・しげき)

三井住友海上火災保険株式会社に入社後、リスクマネジメント会社の勤務を経て、現在はミネルヴァベリタス株式会社の顧問であり信州大学経営大学院にて特任教授も務める。

リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。

これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭を執るとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。

近著に「中小医療機関のための BCP策定マニュアル(社会保険研究所)」「いま、企業に求められる感染症対策と事業継続計画(ピラールプレス)」がある。​​​​​​​​​​​​​​

【セミナー情報】

2020年10月29日:今、医療機関に求められるBCP(事業継続計画)(防犯防災総合展2020)

2020年10月30日:SDGsにおける防災と事業継続〜2030年に向けた取り組み〜(防犯防災総合展2020)
2020年11月12日:新型コロナウイルス感染症流行下の防災とBCP ~想定外を作らない
2020年11月13日:地震、台風、感染症に備える、最新『BCP(事業継続計画)』の策定と見直し

本田茂樹

本田茂樹

本田茂樹(ほんだ・しげき) 三井住友海上火災保険株式会社に入社後、リスクマネジメント会社の勤務を経て、現在はミネルヴァベリタス株式会社の顧問であり信州大学にて特任教授も務める。 リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。

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