〈産業医コラム〉内視鏡検査との上手な付き合い方
日本医師会認定産業医
鳥住 知安記
五月晴れの気持ち良い季節になりましたが、みなさま体調はいかがでしょうか。
春と言えば、定期健康診断を実施される企業が多いです。健康診断では、法令で定められた項目について調べますが、それとは別に人間ドックの項目をオプションで追加される方も多いのではないでしょうか。
なかには毎年胃カメラを予約しているけど、前日から恐怖で眠れない!!なんて方も多いということは、消化器内視鏡医としてよく耳にします。
毎年検査が億劫な方や恐怖で受けるのを躊躇されている方のために内視鏡検査との上手な付き合い方をお伝えしたいと思います。
内視鏡検査には上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)と下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)があります。まずは胃カメラのお話です。
「毎年オェオェなります…」という方、いらっしゃいますよね。私も胃カメラを受けるときは「オェ~ッ!」となります。「ゲーッ!」「オエッ!」という反射が最も起こりやすいのは咽喉頭(のどを通過する時)です。
胃カメラを飲むのが苦手な方には共通した姿勢があります。それは下あごを引いた姿勢(二重あごにするようなイメージ)です。下あごを引いてしまうと、内視鏡を挿入する角度が鋭角になり、検査の苦痛度が増します。
では、どのような姿勢が良いかと言うと、
下あごを前に突き出すような姿勢(モアイ像のようなあごのイメージ、もしくはアイーンをしてみる、ただし首はそらさないように)
無意識のうちに力が入ってしまいがちなので深呼吸(太極拳のようにゆっくり息を吐き出す)し、首や肩をリラックスさせる
検査中は左頬を枕につけたまま(検査がつらくなると天井の方を向きがちですが、そうすると唾を飲み込みやすくなり、むせます)、ぼんやり遠くを見続ける(ついつい力んで目をぎゅっと強く閉じたくなりますが…)。
ぜひ今年度胃カメラを予定されている方は参考にしてみてください。
簡単なことのように思えますが、意外と深呼吸などは効果を感じやすいです。検査中はどうしても力みがちで、ふと自分の首や肩に意識を向けると(そんな余裕ないかもしれませんが)、かなり力が入っていることに気づくと思います。それに気づいたら息を鼻から吸って口からゆっくり「はーっ」と吐いてみてください。繰り返しているうちに苦痛が少しましになっていきます。
そうは言ってもやっぱり苦手な方もいらっしゃいます。苦痛の軽減策としては、口から胃カメラをしている場合は鼻からのカメラ(経鼻内視鏡)に変更してみることや鎮静剤の使用をおすすめします。
苦痛を伴う検査ではありますが、食道がんや胃がんなどの早期発見・早期治療のためにとても有用な検査です。特にピロリ菌陽性の方や過去にピロリ菌を除菌された方、ABC検診でリスクが高いと判定された方、お酒をたくさん飲む方、喫煙する方はぜひ検討してみてください。
次に大腸カメラとの上手な付き合い方についてお話します。
その前に大腸がんについて少しお話させてください。近年、大腸がん罹患数(新たに診断された人数)と死亡者数が急増しており、大腸がんは日本で一番かかる人の多いがんです。
男性はおよそ10人に1人、女性はおよそ12人に1人が一生のうちに大腸がんと診断され、年間5万人以上が大腸がんのため亡くなっています。この20年で大腸がんによる死亡者数は1.5倍に増え、原因として食生活の欧米化(高脂肪・低繊維食)や運動不足、高齢化などが指摘されています。
その一方で、大腸がんは早期がんの段階で発見できるとほぼすべての方の命を救える病気です。大腸がんの早期発見のため検診で行われているのが便潜血検査です。便潜血検査で陽性になった方のうち、大腸がんが発見される割合は5%前後と言われていますが、前がん病変と言われるポリープが発見されることもあり、内視鏡でポリープを切除することにより将来大腸がんに罹患することを防げるので、便潜血検査で陽性になった場合(2日のうち1日のみ陽性の場合も)には、精密検査である大腸カメラを受けてください。
さて本題の大腸カメラとの上手な付き合い方についてお話します。
大腸カメラは肛門から内視鏡を挿入し、いったん小腸と大腸の境目あたりまでカメラを挿入した後、カメラを引き抜きながら大腸全体を詳しく観察し、検査自体は20分程度で終わります。
カメラを挿入する際、大きな曲がり角が3か所ほどあり、その時に痛みを伴うこともありますが、個人差が大きく、痛みを感じない方もいらっしゃいます。腹部手術歴があり癒着している場合など、大腸カメラの挿入が難しい方は痛みが強いことが多いです。
大腸カメラ検査時の痛みに関しては個人差が大きいため、過去に痛みが強かった方や過去に腹部の手術をしていて痛みが強くなる可能性がある方は鎮静剤を使用するなど、ご自身の状況に合わせて担当医師と相談いただくのが良いです。
また、大腸カメラに関しては、検査前に飲む前処置薬に苦痛を感じる方も多いです。2リットル前後の液体を2時間程度で飲み、その後頻回に排便に行く、という流れなので確かに苦痛!ですがこちらに関してはいい解決策がなく(申し訳ありません)、腸管内をしっかりときれいにして検査の時によくみえる状態にしておく、ということが病変をみつけるためにとても大切なことなのでぜひご協力いただければと思います。
苦痛を伴うこともある内視鏡検査ですが、早期発見や早期治療ができるメリットがありますので、悩んでいる方はぜひ一度専門科に相談してみてください。
参考
日本医師会 知っておきたいがん検診
国立がん研究センター がん情報サービス
厚生労働省 統計情報
胃カメラのおいしい飲ませ方」中島恒夫
文章出典:株式会社イーウェル「健康コラム」より寄稿