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アサーショントレーニングとは?健康経営に役立つコミュニケーション促進

自分の意見を率直に表現する「アサーション」は、職場の人間関係を良好に保つために重要なコミュニケーションです。考えの違いを認め合う関係性の構築に役立ち、従業員のストレス軽減やモチベーション向上に影響します。

しかし、「アサーションが何か具体的に知らない」「職場で推進する方法がわからない」という人事・労務担当の方も多いのではないでしょうか。

本記事では、アサーショントレーニングの実践例を紹介します。企業研修で取り入れ、職場のコミュニケーション改善を図っていきましょう。

アサーショントレーニングとは?

アサーションとは、「自分も相手も大切にする自己表現スキル」を指します。相手を尊重しつつ、自分の意見も率直に述べる表現方法で、アサーティブ・コミュニケーションとも言います。

アサーショントレーニングは、自己表現が苦手な人たちへのトレーニングとして、1950年代にアメリカの精神科医ウォルピにより開発されました。日本では、1990年代から普及してきました。

対立を生まずに自己表現しながら、コミュニケーションが取れるメリットがあり、職場の人間関係に応用できる方法として注目されています。

アサーションにおける4つの自己表現タイプ

アサーションにおける4つの自己表現タイプ

アサーショントレーニングでは、自己表現を以下の4つのタイプに分類し、自分が相手にどのような対応をしているかを理解します。習慣化した反応に気づき、アサーティブな表現を目指して取り組みます。

  1. アグレッシブ(攻撃的)
  2. ノンアサーティブ(非主張的)
  3. パッシブアグレッシブ(間接的かつ攻撃的)
  4. アサーティブ(率直かつ相手も尊重)

アグレッシブ:攻撃的

アグレッシブは、攻撃的な自己表現スタイルです。自分の意見や気持ちは伝えられているのですが、相手への配慮が足らない表現が目立ちます。相手に認めさせようとするため、相手にストレスを与えやすく、周囲との関係性が悪化しやすいでしょう。

【特徴】

  • 主導権を握って言い分を通そうとする
  • 自分の意見や考えを優先して相手を軽視する

  • 本心とは異なる強がった発言をしてしまう

ノンアサーティブ:非主張的

ノンアサーティブは、アグレッシブ型とは逆に受け身で自分の意見を主張しないスタイルです。我慢してストレスを抱え、心身の不調をきたす可能性があります。あいまいな言葉になったり、言い訳がましい表現になったりする場合もあり、誤解が生じることもあるでしょう。

【特徴】

  • 自分の意見や考えを表現しない、黙る
  • あいまいな言い方をする

  • 相手任せで消極的

パッシブアグレッシブ:間接的かつ攻撃的

パッシブアグレッシブは、ノンアサーティブ型の変化系で間接的に不満を表現するスタイルです。相手の言い分を一見受け入れているように見えますが、態度や表情から不満を表現します。

【特徴】

  • 不機嫌そうに「わかりました」と答える
  • 不満を直接言わずに陰口や悪口で発散する

  • やりたくない仕事を引き受けるが後回しにする

アサーティブ:率直かつ相手も尊重

アサーティブは率直に意見や気持ちを表現しつつ、相手の自己表現も受け止めるスタイルです。相手との意見の相違や葛藤が生まれるのは当然であると理解し、互いに話し合うような態度が特徴です。

【特徴】

  • 相手の立場をくみ取りながら自分の主張を伝える
  • 場にふさわしい感情表現ができる

  • 意見や価値観が違っても建設的に議論する

アサーションが職場にもたらすメリット


アサーションが職場にもたらすメリット

職場の人間関係を円滑にするコミュニケーションとして注目されるアサーションですが、具体的には、従業員のストレス軽減やハラスメント防止、組織の風通し改善など、従業員の精神的健康や意欲を向上させる効果があります。アサーショントレーニングは、健康経営を推進し、生産性を向上させる施策にもなりえます。

1.従業員間のコミュニケーションストレスの軽減

従業員ひとりひとりが自分の感情や考えを適切に伝える能力を向上させることで、コミュニケーションストレスの軽減につながります。

例えば、ノンアサーティブ型の人の場合、自分の考えを我慢せずに表現することでストレスが軽減するでしょう。自分の考えを相手に適切に分かりやすく伝えることで、コミュニケーションコストも軽減します。

また、アグレッシブ型の人の場合、相手に配慮した感情表現をすることで主張を受け入れられやすくなり、理解してもらえないなどの不満が溜まりにくくなるでしょう。

従業員間のコミュニケーションストレスが軽減することで、メンタルヘルス不調や休職、生産性の低下を防止できます。

2.ハラスメントやトラブルの防止

管理職がアサーションを意識することで、部下への関わり方を適正化し、ハラスメントなどの対人関係トラブルを防止できます。
アグレッシブ型のような攻撃的な自己表現をしすぎると、ハラスメントに該当する恐れがあります。相手に配慮した表現に変えることで、ハラスメントを防止できるでしょう。

また、部下が上司に対して不満を抱えていても、表現できずにため込んでしまい、問題が大きくなってからトラブルに発展するようなケースもあります。
特に、ノンアサーティブ型は一見上司からの指示に対して従順に承諾をしていても、「やってあげたのに」「黙って引いてあげたのに」と不満をため込みやすい点が特徴です。

管理職だけでなく一般の従業員もアサーティブな表現を身につけることで、縦の関係でも不満を適切に表現できる組織を構築しやすくなります。

リモート環境下でのパワハラ防止にも有効

コロナ禍を契機としたリモートワークの普及により、コミュニケーションのとり方が大きく変化しました。リモート環境下では、メールやチャットツールなどのテキストベースのやり取りが主となり、雑談のような関わりが少なくなりがちです。
また、相手の表情や態度がわかりにくい状況で仕事を進めるため、ミスコミュニケーションも生じやすくなるでしょう。

相手の態度が見えづらく、信頼関係を構築しにくい環境下では、より自己表現に気をつける必要があります。自己表現を振り返る機会として、アサーショントレーニングが有効です。
「相手に威圧的だと受け取られる表現をしていないか」「必要以上に恐縮した態度でないか」などを確認できるとよいでしょう。

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アサーショントレーニングの実践例


アサーショントレーニングの実践例

アサーショントレーニングは、具体的にはどのように実践すればよいのでしょうか。企業研修で取り組める実践例を紹介します。

Iメッセージ:「私」を主語にする

Iメッセージは「私は○○と思っている」と「私」を主語にした表現で、感情を適切に伝えるために役立ちます。例えば、「早くして!」という表現なら、「私は早くしてもらえると嬉しい」と言い換えます。

「早くして!」という表現は、相手の行動を強制しているようで、攻撃的に捉えられかねません。しかし、「私は早くしてもらえると嬉しい」だと、気持ちを表現しているだけなので、マイルドに伝わるのです。

他にも、以下のような表現に置き換えて考えたり、伝えたりすることで、アサーティブな表現ができるでしょう。


「私」が主語ではない表現

「私」を主語にした表現

(あなたは)急いで仕上げて!

少し急いでもらえると、(私は)助かります。

(あなたは)意見が間違っている!

(私は)こうだと考えています。

(あなたは)強い口調をやめて!

強い口調は止めた方がいいと(私は)思います。

DESC法:4ステップで提案する

DESC法は、アサーショントレーニングで用いられる問題解決のフレームワークです。会議や上司への報告など、考えをまとめて整理する必要のある場面で有効な方法です。以下の4つのステップに沿って、自己表現を組み立てます。

4つのステップ

ステップ

説明

D(describe:描写)

自分が置かれている状況や相手の行動を客観的に説明する。

E(express:表現)

Dで説明した事実に対する自分の感情や考え、意見をIメッセージで表現する。

S(specify:明確な提案)

行動や妥協案、解決案など具体的な提案をする。

C(choose:選択)

提案を受けた相手の反応を予測しながら、選択に応じてセリフを考える。

会話例

状況:家族との予定があるが、上司から残業を頼まれた。

D:今日は家族で外食する予定があり、19時までには帰宅する約束をしています
E:残ってお手伝いしたいのですが、家族のために約束を守りたいと思っています
S:本日は定時で退勤してもよろしいでしょうか?
C:難しければ、○○さんにお願いできないか確認してみます

考え方の癖に気づく

自己表現の態度には、日頃の考え方や思い込みが影響している場合があります。
研修において、コミュニケーションの根底にある癖に気づくワークを取り入れるとよいでしょう。

自己表現に影響する考え方の癖として、3つを紹介します。

考え方の癖①:誰からも好かれないといけない

ノンアサーティブ型に多い思い込みです。相手に好かれるような行動を取ってしまうため、自己主張を控え、我慢しがちな傾向があります。「好かれる場合も好かれない場合もある」というように思い込みを緩められるよう意識するとよいでしょう。

考え方の癖②:間違えたり失敗したりしてはいけない

完璧主義で仕事では常に失敗してはいけないという思い込みです。他人の失敗を過度に指摘し追求する言動につながりやすいでしょう。また、自分が失敗したときには認められずに隠してしまうこともあります。

「失敗したのは残念だけど、次に生かせればよい」という考え方に切り替えられればよいでしょう。

考え方の癖③:人を傷つけてはいけない

自分の言動で人を傷つけてはいけないという思い込みです。些細な言葉遣いや行動にも配慮し、相手を傷つけないように振る舞いますが、ストレスがたまりやすいでしょう。ストレスがたまって限界に達すると、配慮のない相手を責めてしまうこともあります。

「意見や価値観の対立は仕方がないこと」と理解し、相手を傷つけないアサーティブなコミュニケーションを重視できるとよいでしょう。

ロールプレイ:研修で実践する

アサーションを企業研修で取り入れ、根付かせていくためには、ロールプレイによる研修が有効です。以下の厚生労働省のマニュアルをもとに、ロールプレイの例を紹介します。

参考:労働者個人向けストレス対策(セルフケア)のマニュアル実践編│厚生労働省

手順①:テーマ、場面を設定する

ロールプレイでは、アサーションを実践する場面を設定します。例えば、「部下に仕事を依頼する」「上司からの仕事の依頼を断る」など、具体的にイメージしやすい場面が適しています。
職場ごとによくある事例を想定して盛り込んでおくと、参加者が自分事として捉えやすいでしょう。

手順②:テーマについてレクチャーする

テーマについて、アサーティブな表現をするにはどのような視点で考えればよいか、レクチャーします。例えば、「部下に仕事を依頼する」というケースだと、以下のようにDESC法に沿った表現を具体的に共有しましょう。


D(客観的事実):プロジェクトの全体像、全体の中での依頼業務の位置づけ
E(上司の思い):「なぜ私があなたに任せたいと思うのか」の理由
S(提案):任せたい範囲や期限
C(選択):提供する資料や情報など、難しい場合のサポート体制

手順③:役割に沿ってロールプレイを行う

アサーティブな表現方法のレクチャーをもとに、ロールプレイを行います。3人一組になり、以下のように自己表現役、相手役、観察役の役割を分担するとよいでしょう。

  • 自己表現役:アサーティブな表現を心がけ、相手役を説得する
  • 相手役:すぐにはOKせず、自然とOKしてもいいと思えたら承諾する
  • 観察役:良かった点や工夫するとよい点をフィードバックする

アサーションはメンタルヘルス対策にも効果的

アサーショントレーニングは、率直な自己表現を促すための方法です。感情理解を深めて、適切な表現方法を身につけることで、従業員同士がコミュニケーション上のストレスを感じにくくなるでしょう。また、管理職の関わり方が適正化され、信頼関係を築きやすくなります。

アサーションは、ストレスの軽減や相談しやすい関係の構築など、メンタルヘルス対策にも効果的だといえます。企業全体でアサーティブなコミュニケーションを推進できるよう、企業研修やグループワークで取り入れていく施策が必要です。

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サンポナビ編集部

サンポナビ編集部

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