経営者目線で会社を元気にする産業医に聞く! 産業医との上手なかかわり方、使い方


産業医を選任したものの、「何を頼んでいいかわからない」という声はよく聞きます。そこには「そもそも、医者に経営の話がわかるのか?」「健康管理にかけるコストに見合うだけの効果が、本当に得られるの?」という本音も透けて見えます。

そこで今回は、「㈱みずほ産業医事務所」の代表取締役としても活動する産業医・鈴木瑞穂先生に、産業医と経営者の2つの視点から、人事担当者が知っておくべき産業医の上手な使い方、効果的なかかわり方について話をうかがいました。

鈴木 瑞穂(すずき みずほ)

日本医師会認定産業医/日本産業衛生学会専攻医/社会医学系専門医/メンタルヘルス・産業保健法務主任者/第2種作業環境測定士/労働衛生コンサルタント/職業紹介責任者


2004年東京農業大学栄養学科/バイオサイエンス学科卒業、会社設立のかたわら米国Indiana大学に短期留学。07年滋賀医科大学医学部学士編入学。11年より自治医科大学付属病院内科プログラム。16年6月㈱みずほ産業医事務所設立。17年4月より自治医科大学環境予防医学講座社会人大学院生(博士課程)。


▼鈴木先生のキャリアについてのインタビュー記事はこちら

めざすは産業保健版のチーム医療。産業医、経営者、研究者の視点で会社を元気にする新時代の産業医/鈴木瑞穂先生


何か起こる前に!企業は予防対策に注目を

Q. 会社の経営者の中にはまだ、「産業医選任=コスト」と思っている人もいるのではないかと思います。経営者でもある先生が、産業医として意識していることは何ですか?

鈴木:私自身も経営者ですから、効果がすぐに出ないものにコストをかけたくない気持ちはよくわかります。小規模の会社であれば、なおさらですよね。

私が産業医として意識しているのは社員の健康を守ることはもちろん事業主もお守りするということです。そのために、特に私が重視しているのが予防対策です。リスク・アセスメント、いわゆる職場の潜在的な危険性又は有害性を見つけ出し、これを除去、低減するため手法とその実施が企業にとってなぜ大切かを、経営者に知ってもらうこと力を注いでいます。

起こらなければ気づかない「リスク」への “予防”を理解し、コストをかけて頂くことは時に困難を伴います。そんな時はまず、事業主が心得ておくべき法律などの遵守事項を具体的に確認し合いながら、予防の重要性を根気強くお伝えするように努めています。経営やビジネスにおけるリスク・マネジメントやリスク・ヘッジと同様、と考えて頂いてもわかりやすいかもしれません。


Q. 産業医に法律のことを聞いてもいいのですね。

鈴木:もちろんです。法律そのなかでも特に労働法や経営についての知識と経験を持ち合わせた産業医こそ現代社会の事業主と労働者双方の真の健康をお守りすることができると考えます

変わりゆく法制度に経営目線で現実的、かつ柔軟に対応し快適な職場環境づくりに活かせるアドバイスができるかどうかは、産業医選任の重要なポイントだと思います。最終的には、従業員の心身健康そのものが、企業の生産性向上と結びつくと私は考えています。

経験・知識が豊富な産業医でも難しいのは、今まで何もトラブルがなかった企業や組織への説得です。目に見えないリスク回避の提案について、いくら判例などを用いて説明しても、自分事としてはなかなか響きません。興味を持って頂いたとしても、実際に行動変容まで結びつくかも別問題。

私自身も支店レベルでは理解を得られても、本社に却下された経験があります。しかし、わかってもらえないからと、すぐにあきらめるようでは、いい産業医とは言えません。好事例や判例ベースで理解が得られないのなら、別のアプローチを試みるなど、次の一手も必要です。事業主の反応を見ながら、時にアメとムチ(笑)を使い分け、臨機応変な対応ができるかどうかは、産業医の手腕にかかっていると思います。


産業医を上手に使うためには、何に困っているかを伝えることが肝心


Q. 産業医を選任して、企業が最初にするべきことは何でしょうか。

鈴木:私が新しい会社を受け持つときは、必ず最初に会社のビジョンや企業理念について、事業主と直接話し合う機会を作っています。私の経験上、最初にこの共有がしっかりできた企業は、その後の取り組みにもうまくいくことが多いので、ぜひ試していただきたいですね。

この時、企業のトップが「精神なんてどうでもいい、社員の健康より利益を上げる方が大事」などと言ったにもかかわらず、何もアクションを起こさない産業医は、いい産業医とは言えません。

従業員の心身の健康と愛社精神、やる気の向上が会社の生産性アップにつながること。会社と産業保健職が協力することで、企業と従業員の価値観を高め、優秀な人材を継続確保するチャンスに結び付くことを促し、理解して歩み寄ってもらうことも、産業医の大事な仕事です。もちろん、支援が必要な従業員の能力を、最大限に活かすことのできる業務内容や作業環境整備の提案なども重要です。


Q. 企業のビジョンや価値観を、産業保健活動にどのように落とし込んでいくのですか。

鈴木:事業主の考え方が反映されやすいのが就業規則です。例えば、メンタル不調から職場復帰する社員を迎え入れるシステムが規則レベルで整っているのか。それとも、その時々“なんとなく”の対応で復帰させているのか。主治医がOKを出しても、産業医が就業可能と判断するには、もう少し段階を踏まなければならないケースは多くあります。特にメンタル不調の場合は復職後に再度休職へ至ってしまった場合、その後の復帰率も就業可能期間も落ちていく傾向があり、人事と産業医、本人と丁寧に調整していく必要があります。

従業員を“人財”と捉えて下さったり要望のあった企業では、メンタルヘルス不調者に対する企業側の配慮事項や就労支援をアドバイスし復職プログラムを企業とその企業の社労士などと一緒に構築するなどの支援も行っています

まだそこまでの余力がない企業には、会社と産業保健職が協力することで、優秀な人材を継続確保するチャンスが広がることを理解してもらえるように促します。

今後は、主治医との連携やリワーク(復職支援)プログラムとの連携なども鍵になってくるでしょう。こういった復職等の過程って、企業の経営理念やビジョンと似ているんですよね。その時折に解決するのではなく、長期的な計画を立て、浸透させ、根付かせていく方がより効果が得られやすいのです。


Q. 産業医の有効な活用法についてアドバイスをお願いします。

鈴木:人事労務担当者の皆さんからよく伺うのは、「産業医さんに何をしてもらえるのか、またどこまで会社のことを話していいのかよくわからない」といったご意見です。具体的な相談事項が思いつかない場合は皆さんが抱えている疑問や不安をそのまま産業医にお話してみてください

例えば、会社は何に一番困っているのか、その中身をできるだけ詳しく伝えると、産業医も具体的な対応ができます。メンタル不調であれば、現在の発生人数や復職率、時間外労働の状況、職場の人間関係やハラスメントの存在はありそうか、限定した職場から発生しているか否か、ストレスチェックの集団解析の結果から予防策は立てられるのか、主治医の意見を詳細に聞きたいが本人のプライバシーの問題や健康情報の取り扱いはどうすれば良いのか、など。

長時間労働については、勤怠は誰がどう管理しているのか。ここ数年の大手会社で発覚した様々な問題以来、労働基準監督署は労働時間管理の正確さと賃金未払いについては非常に厳しいです。正しい情報を頂けれれば、産業医は会社をお守りする方法をアドバイスすることもできます。産業医だけでは解決し得ない問題は、社労士や弁護士におつなぎすることもできます。

産業医を上手に使うことは企業にとってもメリットが大きいですからお互い腹を割って話し合える信頼関係を築くことが何より大事だと思います


Q. 事業主や人事労務担当者と接するうえで、先生が心がけておられることはありますか?

鈴木:産業医としても経営者としても決してボスタイプにならないことです。つまり、指導的立場の人間には、ボスタイプとリーダータイプがあり、ボスタイプは「あれやれ、これやれ」と指示で物事を進めようとするタイプ。一方、リーダータイプはビジョンや価値観を分かち合い、一緒に物事を進め、作っていくという特徴があります。

ボスタイプは「Go」、リーダータイプは「Let’s Go」の姿勢だというと、わかりやすいかもしれませんね。医者は患者さんに対して、「これはしてはいけません」「薬をちゃんと飲みなさい」などボスタイプ的な指導をすることが多いですが、産業医は企業とともに方向を同じくして取り組めるリーダータイプであることが重要だと考えます

医療と産業、予防、行政をつなぐ架け橋として、企業と従業員の双方が幸せに、健康でイキイキと活躍するためのお手伝いができることは、私のやりがいにつながっています。


産業医が企画・実施する衛生講話は、社員を巻き込むことで効果アップ


Q. 衛生講話などは人事が企画し、産業医にお願いする方がいいのでしょうか。

鈴木:もちろんそういうケースもありますし、産業医が自ら企画・実施することもあります。今の時期の人事部からの依頼の定番は、熱中症や、新入社員向けのメンタルヘルス対策セミナーです。ほかにも、管理職向けのセミナーを毎月開いてほしいというご依頼も多いですね。人事から依頼があればそれに即したテーマを産業医が考えます

私は会社から特に依頼がなくても、社員に向けた衛生講話やセミナーを自ら企画して、積極的に開催しています。最近では、ネガティブ・ケイパビリティ(すぐには答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力)や、アプリシエイティブ・インクワイアリー(問題からではなく、ポジティブな問いや探求から引き出した、個人と組織全体の強みや組真価を発見し認め、それらの価値の可能性を最大限に活かし最も成果を発揮できる仕組みを生みだすためのプロセス)という考え方を紹介するワークショップも行っています。時代に即したより良い考え方を、社員と経営者に共有してもらうことが目的です。

また、消防隊からAEDの使い方を学ぶ救命救急セミナーなど、楽しみながら学べる機会も作っています。産業医の方から社員の輪に入ることで、自分たちの身近な存在として認知されれば、社員の方から歩み寄り、本音を語ってくれるようになります。これらの健康管理や職場環境の改善への興味を啓発するイベントに従業員が協力してくれれば、イベントへの参加率もぐんと高くなります。最初は産業医が握っていた主導権を後々は社員に委ねて最終的には自分たちで継続できるようになるのがベストです


Q. 先ほど、予防の重要性を浸透させるのは難しいとおっしゃっていましたが、先生は予防を見える形にする研究も実施されているそうですね。

鈴木:はい。予防の大切さを、企業側に見える形で示す方法はないか。そんな発想から、自分の大学院の研究論文のテーマと連動して始めたのが、担当する企業の営業職や大型トラックドライバーなど、常時運転に携わる職種を対象とした睡眠時無呼吸症候群(SAS)の調査です。

特に長距離トラックドライバーは長時間同じ姿勢での運転を余儀なくされるうえに生活リズムが不規則で肥満や生活習慣病(特に高血圧)を抱える人が非常に多いです。実は長時間運転をしている営業職にも、その傾向が見られます。SASの眠気による交通事故などの労災を未然に防ぐためにも企業側に掛け合い、本社を巻き込み、担当事業所での医療用のSASスクリーニング機器購入とその実施までこぎつけました。

治療介入までいかずとも肥満改善や生活指導だけでも数値がかなり改善することは医学的にも証明されています。今回の調査の目的はスクリーニングから①実際にその重症度から治療介入した人、②治療まではいかずとも比較的数値の高い人に対し、保健指導(減量・減酒・禁煙、就寝時の体位指示)の介入結果で得られた、SASのスコアや血圧の変動など、ビフォーアフターをしっかり数値化すること。ここで得たデータを本社に挙げて、さらには本社から全国に発信することが私の野望なんです(笑)。これができたら、予防の効果を一つのカタチとして残せますからね。将来的には仕事で車を運転する方の健康と命を守るための、説得力あるエビデンスとして、世の中に浸透していけばいいなと思います。


医学的には、SASの治療や改善は高血圧を筆頭とした生活習慣病を改善するだけでなく、心筋梗塞や脳梗塞のイベント死を下げることで注目されているのですが、これは仮面の使い訳です(笑)。「交通事故率の低下」の方が、今はまだ企業の人にとって深刻かつ馴染みやすい問題なので。


Q. 今後、産業保健分野はどのように展開していくとお考えですか。

鈴木:産業保健分野でもチーム医療が重要になってくると考えています

産業医の集まりだけでなく、産業保健師、社労士、カウンセラー、弁護士など産業保健に携わる多職種と交流するなかで見えてきたのは、それぞれのプロの力がうまくかみ合っていない現状でした。

どの人を、どんなタイミングで、どう配置するのが最も適切なのか。それぞれの適材適所を見極め、産業医療のプロと企業をつなぐ産業保健版のチーム医療をつくりたいと考え、「みずほ産業医事務所」を起業しました。

法律や経営の知識、コンサルティング力ももちろん大事ですが、新時代の産業医にとって最も必要なのは企業のビジョンや価値観を話し合える産業医。人と人とのつながりを大切にする姿勢なのではないかと思います。

文/ 岩田千加  編集/サンポナビ編集部


▼ 産業医のご紹介から、選任後の実働支援までをワンストップで提供いたします




▼企業の方はこちら

TEL:03-6697-1660
(受付時間 平日9:00~18:00)

▼医師の方はこちら

サンポナビは、企業の産業保健(さんぎょうほけん)を応援するメディアです。
産業医サポートサービスを提供する、株式会社エムステージが運営しています。
産業医の選任、休職復職対応などでお困りの際は、お気軽にご相談ください


週間ランキング
新着記事一覧
ステップで学ぶ

☎ 03-6697-1660
(受付時間 平日9:00~18:00)