〈産業医コラム〉梅毒・風疹~母子感染を防げ!

日本医師会認定産業医

安田 朋弘


2022年には、よくニュースでも見かけた梅毒ですが、最近は梅毒の報道も少なくなってきたように感じます。2022年の梅毒の年間報告数は約13,000人と、1999年に感染症法が施行されて以来最多となる報告数でした。


1.近年の梅毒の動向

内訳をみてみると、東京、大阪、愛知といった都会を中心に発生がみられ、女性では20代、男性では20~50代で件数が多くなっています。国立感染症研究所の報告によると、2023年も5月28日までで累計5、766件と高い水準を維持しており、実は勢いは衰えていない、ということがわかります。

梅毒増加の原因としては、マッチングアプリの普及によって不特定多数との性行為が増えている可能性があること、また新型コロナウイルス感染症によって性風俗産業が低迷し、リスクの高い行為を行うお店が増えた可能性があることなどが考えられています。

そのほか、梅毒という病気の特徴として、

  • 初期症状が出ないケースがあること
  • 発疹などの症状が出た後に一度治まってしまうこと
  • 潜伏期間が10-90日と幅広いこと

などがあり、感染が判明する前に他人に感染させてしまうことがあるのも、増加の一因となっているかもしれません。
 
梅毒自体は、基本的には正しく治療を行えば治る疾患です。治療法としては飲み薬を4週間ほど継続するのがスタンダードでしたが、最近では筋肉注射1回で済むものもあります。ここで、治るのであればそこまで躍起にならなくてもいいじゃないか?と思われる方もいるかもしれませんが、実はそうではありません。次にお話しする先天梅毒についてはぜひ知っておいてください。


2.先天梅毒

妊婦が梅毒に感染することは、様々なリスクとなります。流産や死産のリスクが明らかに高くなってしまいますし、たとえそれを免れたとしても、胎児に先天梅毒という病気が起こってしまう可能性もあるのです。

先天梅毒とは、簡単に言うと、母親から胎児に梅毒が感染することです。これにより、赤ちゃんに難聴・失明などが起こってしまう恐れがあります。厄介なのは、仮に妊娠中に感染が判明して治療を行ったとしても、やはり母子感染を起こす可能性が残ってしまうことです(梅毒に感染した妊婦でアモキシシリンやアンピシリンといった抗菌薬で治療をしても、22%が母子感染したというデータもあります)。

先天梅毒の件数は、2010年前半ぐらいまでは年間数件程度の報告でしたが、最近では年間20件近い報告がされています。これを減らし新たな先天梅毒を防ぐために、一人一人が正しい知識と予防方法を知っておくことが、非常に重要と考えられます。

(梅毒は性感染症ですので、感染予防の基本はコンドームの使用です。しかし、コンドームに覆われていない部分の皮膚で感染がおこる可能性もあり、100%防げるものではないことは覚えておいてください。)


3.先天性風疹症候群

梅毒のほかに、風疹も母子感染を起こす病気として知られています。「先天性風疹症候群」といって、新生児に白内障、難聴、心臓の病気などが起こることがあります。
これを防ぐには、先に述べた梅毒同様、病気と感染予防について正しい知識をもつことが有効です。さらに風疹の場合は、ワクチンの接種という有力な方法があります。

日本では、現在40半ばから60歳ぐらい(1962年4月2日~1979年4月1日生まれ)の年代の男性に、当時風疹ワクチン接種できる機会がなく、十分な免疫を持っていない人が比較的多い状態となっています。
2013年には、その年代を中心に風疹の大流行が発生しました。免疫が十分でないと、感染した本人に辛い症状が出るのみならず、妊婦などに感染させ上記の先天性風疹症候群につながってしまう危険性があります。

ワクチンで防げる病気をVPD(Vaccine Preventable Diseases)といいますが、風疹はその一つとなっています。当該世代がワクチン接種できるように、国は2019年からキャッチアップ接種を行っています。当初は2022年3月末で期間終了予定でしたが、接種の進捗が思いのほか進んでいないことから、現在2025年の3月まで延長となっていることも、もっと広く知られるべきだと思われます


4.職場でできること

梅毒については、職場ではなかなか立ち入りにくい部分の話かと思いますが、社内で情報提供するだけでも従業員の意識に大きく影響すると考えられます。
 
梅毒は治療をせずに放置していると脳や心臓に病変ができてしまうこともあり、早期発見・早期治療が重要です。梅毒を疑う症状があるのであれば、速やかに病院に行くことが望まれますが、街中には保健所が運営する無料検査場もあり、まずはそこで匿名検査を受けることも可能です。

また、梅毒や風疹が胎児へどう影響するかをそもそも知らない、風疹ワクチンのキャッチアップ接種が行われているのを知らない、という人も多いかと思います。

正しく恐れるためには正しい知識をつけることから始まります。無料検査について、風疹のキャッチアップ接種についてなど、ぜひ職場でも共有いただければ幸いです(産業医がいるなら、これを題材に安全衛生委員会等での講話をお願いしてもいいかもしれませんね!)。


参考資料:
https://www.niid.go.jp/niid/ja/data.html
https://www.know-vpd.jp/vpd/

文章出典:株式会社イーウェル「健康コラム」より寄稿

安田朋弘

安田朋弘

日本医師会認定産業医

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